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ド陰キャ吸血鬼は本当の恋に憧れる。  作者: 月刊少年やりいか
2章〜淫鬼夜、女になる〜
24/43

23話 『娘、売りに出されますって話』

天使編で淫鬼夜が普通のいい奴みたいなキャラになってしまったので、気持ち悪くなるようアップデートしました。

『明日より【式ノ守リナのバースデーフィギュア】が緊急販売!お見逃しなく!』



「何ぃッッ⁉︎」


 4時限目の数学の授業。

 俺は最近ハマっているソーシャルゲームの新規お知らせを見て驚愕した。


「淫鬼夜〜、学校はお前の部屋じゃないぞ〜。あとでそのスマホ没収な〜」


 入間先生が然程気にする様子も無くそう気怠い感じで言うと、普通に黒板へと向き直った。


「す、すみません……気をつけます」


 俺は小声でそう言うと、机の下に隠したスマホに再び視線を戻す。


「やば……」「いきなり叫ぶとかどうなってんのよ淫鬼夜くん……」「逆にカッコいいじゃんか……」


 周りで有象無象が何かを言っているが、特に気にはならない。

 何故ならそれほど俺にとってこのフィギュアは特別なのだ。


 この最近俺がハマっているゲーム。

 正式名称は『萌え萌えゾンビ幼女に転生した中卒三浪ダメリーマンの俺は異世界で俺にだけ優しい最カワ怪人達を娘にし社畜人生をやり直す!』と中々に長いタイトルだ。


 ゲーム的には恋愛モードで付き合い、仲間()にした怪人達を育成し、バトルモードで戦うゲームだ。

 登場キャラは可愛いし、美麗なイラストカードが何百枚もある。

 その数多いる登場キャラの中でも、看板キャラの式ノ守リナはユーザー数屈指の人気を誇る。


 このように内容としては普通に良いゲームっぽく見えるのだが、いかんせん開発チームの方が腐っている。


 まずは広告担当――このゲームは去年の1月1日に正式配信されていたのだが、この広告担当は何を勘違いしたのか今年の1月1日がアプリの正式配信だと思っていたらしく、SNSや公式サイトでずっと『秘蔵の開発中画面を撮ってきました!どうぞ!』と宣伝していた。


 だがゲームは既に配信されているし、なんならGW特別ログインボーナスとかクリスマスログインボーナスとか色々イベントをうっていた。開発中の画面も何も既に配信されている。


 そして来る今年の1月1日の正式配信日、チュートリアルを完了し、いきなりログインした途端『1周年ありがとうキャンペーン』と表示された画面に俺含め全ユーザーが驚愕した。

 そしてこのリリース日1年間違え事件が発覚したのである。


 それでも多くのユーザーが期待して待っていたゲームだし、プレイ人口はそこそこにいた。

 しかし――

 何よりダメな対応をしたのが運営担当だった。


 1年前の正式リリース時限定で配布していた最強壊れカード。それを『私達は悪くない。アプリを見つけられなかったユーザー側の責任です』と再配布を行わない事を発表したのだ。

 このカードはゲームの環境を変える本当にぶっ壊れカードで、それを運営側のミスで手に入れられなかったにも関わらず補填が無いことに多くのユーザーが離れていた。


 そしてその後もガチャ確率詐欺だったり、過度なインフレにより今までのカードがゴミになるなど炎上に炎上を重ね、もはやいつサービス終了してもおかしくないこのゲームだったのだが、まさかグッズ展開をして来ようとは全くの予想外だった為度肝を抜かれ大声を出してしまった訳である。


「ふぅ……落ち着け俺……スマートにいこうじゃないか。なんせ俺は闇の王と名高いヴァンパイアの血を引く者なのだから」


 高鳴る鼓動を抑え、俺は再び画面へと視線を向け下へとスクロールする。

 その刹那、俺は入ってきたあまりに熱量の濃いその文章に釘付けになった。


『そしてなななんと!このあと15時より、特別塗装限定版を弊社最寄の怪妖学園前駅で販売いたします!お近くにいらっしゃる方は是非お立ち寄りください!』


「はぁッッ⁉︎正気かッッ⁉︎いいのかよこんな大盤振る舞いで運営さんッッ⁉︎俺をどこまで喜ばせば気が済むってんだよッッ‼︎」


「淫鬼夜〜。やっぱ今没収な〜」


 また声に出てたらしい。

 いつのまにか目の前にいた入間先生がヒョイと俺からスマホを取り上げた。


「あっ、ちょ!まだ見てるんですけど!」


「馬鹿者。まず授業中にスマホをいじるな」


 コツンとスマホで頭を叩かれる。

 その瞬間、俺の脳に電流が走った――

 スマホを取り返す為に今まで使ってこなかった様な脳の領域が活動を始める。

 そう、それは正に数学の難しい問題を演算するコンピューターのような力だ。

 そしてその高速の思考の後、俺は得た答えを口に出した。


「あー!やりましたね先生!今のはパワハラですから!訴えたら俺勝てますからね?訴えられたら入間先生も教師続けられなくて辛いですよね?スマホ返してくれたら訴えないんで、さっさと返してくださいよ」


(完璧な返答。ふふっ、これなら入間先生も何も言い返せまい。今は教師よりも生徒側の方が強いのは入間先生も分かりきってるはずだ)


 自分の頭の良さが怖い。

 思わず「ふっ」と優越の鼻息が漏れた。

 直後――


 バキッ


 と何か硬い物が砕ける音が聞こえた。


「淫鬼夜、もう一度言ってみな?」


 ミシミシと不吉な音が聞こえ、思わず音の聞こえる入間先生の左手を見る。

 するとそこには先週没収されたゲーム機が、入間先生の強烈な圧力により潰されている(さま)があった。


「あぁッ⁉︎ゲーム機(カスミ)ッッ⁉︎」


「私が――何だって?」


 恐ろしい程満面の笑みで入間先生は俺を見つめる。

 だがその全く笑っていない目は、俺の心を折るにはあまりにも十分だった。


「い、いえ入間先生はパワハラという言葉のせいで教員の立場が弱くなっている世情にも関わらず、熱心に生徒を指導して下さる大変素晴らしい先生です!パワハラとかいう言葉を使う僕が間違っておりました!反省しております!なので俺のスマホを破壊しようとするのをやめて貰ってもいいでしょうか!」


 恥も何も無い。

 俺は席から立ち上がると土下座をして謝罪した。


「そうだ、分かればよろしい」


 と言って先生はゲーム機(カスミ)をスーツのポケットへと戻した。


「このスマホは今日一日預かっておくから、帰りのHR(ホームルーム)終わったら取りに来い」


「はい……分かりました」


 自分でも思うほど情け無い声でそう言うと、俺は席へと戻った。


「大丈夫……?ひなた?」


 右隣に座る春流々が俺にそう話しかけた。

 春流々は幼馴染であり、同じ吸血鬼という事から仲が良い。

 俺はハーフではあるが……。


「大丈夫なわけがあるか!お前の目は節穴か春流々ッ⁉︎」


 春流々の質問に自然と俺は熱を持った声で返した。


「愛娘が今日売りに出されるんだぞ!しかも限定で!これを黙っていられるかッッ!」


「子供が売られるのなら一大事だね……」


「そうだろッッ⁉︎俺は放課後すぐに娘を回収しに戻らないといけない使命があるんだ!父としてッッ!」


「そうかい……頑張っておくれよ……」


 別次元の生命体に向けるような懐疑的な視線を向ける春流々。

 長く同じ時を共有してきたとはいえ、俺のこの崇高な思考が理解されるというわけではないか……。


「ふぅ……」と熱く語り合えた俺は黒板の上にある時計を見る。


 時刻は12時10分――下校時間まで残り2時間50分。

 あぁ、自分の娘と会えない3時間というのはこんなにも心苦しく感じるものなのか。


 早く会いたい。早くこの今日という日よ終わってくれ!


 俺が心の中でその言葉を6,792回呟く頃――

 その日の下校時間となった。


 xxx


 放課後――


「しゃあッ!終わったああぁああ‼︎ふうぅぅうううッッ‼︎」


 スマホを回収した俺は、全速力で職員室を飛び出した。


「待ってろよリナ、今パパが迎えに行くからな!」


 幸いな事に今日は母親から帰りに夕ご飯の材料の買い出しを頼まれていた。

 そのおかげで俺の財布の中には母親のクレジットカードが入っている。財力は無敵だ。

 なれば後は、誰よりも早くリナの元に辿り着きゲットするのみ!


「急げよ――俺ッッ!」


 両足に最大の力を込め大地を蹴る。

 その瞬発力はもはやメタル系のスライム族を超えた可能性すらあるだろう。


 外履きへ履き替え、校庭へと飛び出す。


「もうすぐ……もうすぐ会えるぞリナッッ!」


 校門が見える。

 ここを出れば俺は自由になれる――


 そう――あと一歩の所だった。


「どこに行くのかしら、動くゴミ」


「……ッッ⁉︎」


 その冷たい声に俺は思わず足を止める。

 決して自分を動くゴミと認識したから止まったわけではない。


「淫鬼夜くん。貴方今日、部活動の日よね?」


 春流々から向けられた別次元の生命体に向ける懐疑的な目――

 そんな物が生優しく感じられる程、侮蔑と憎悪と嫌悪に塗れた黒い瞳を持つ神鬼角無の姿がそこにはあった。

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