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ド陰キャ吸血鬼は本当の恋に憧れる。  作者: 月刊少年やりいか
角の無い鬼との出会い-プロローグ-
2/43

2話 『メインヒロイン登場って話』

「はぁー……」


 下校途中、沈んでいく太陽の虚しい西日に照らされながら、俺は河川敷を歩いていた。


 俺の両の手に包まれた麗しの銀色に輝くポータブルゲーム機。

 目的のそれを手に入れたはずなのに、俺の心は荒んでいた。

 その理由は、春流々と別れてからの数時間前に遡る――



 xxx



 職員室に入ると、俺に気付いた担任の入間先生がこちらへと手招きした。


「やぁ淫鬼夜。ちゃんと来たか」


 目の前まで行くと、入間先生はそう言って嬉しそうに笑った。

 入間先生は去年も俺の担任だった先生で、ゲーム機の没収で他の生徒に比べ頻繁に説教をくらっていたため、それなりに親密度は高い。

 ちなみに種族は人間だ。普通の。


「いい知らせと悪い知らせ、どちらから聞きたい?」

「じゃあ定石通り、悪い知らせからお願いしますよ」


 わかった、と入間先生が頷くとボブヘアーの黒髪が揺れる。


「淫鬼夜、実は明日うちのクラスに転校生が来るのだが、お前はそいつの立ち上げる部活に、明日から入部してもらう」

「部活……⁉︎嫌ですよ!絶対やりませんよ!そんな暇人がやる活動!」

「イエスといえば、先日お前から没収したこれを今返してやろう」

「な、なんですって……⁉︎」


 入間先生は机から先日没収したポータブルゲーム機を取り出すと、ヒラヒラと揺らし俺に見せびらかす。

 その扇情的な揺れが催眠術の振り子のように俺の心を掻き乱す。

 イエスと言えば……またすぐにゲームが出来る。かなでと会える!

 だが俺は早まるその気持ちを、下唇を噛んで必死に押し殺した。


「ふっ……たしかに魅力的な話ですね。ですが先生、違反物の没収期間は校則では3ヶ月。そのぐらいの期間であれば、俺は耐えてみせますよ。部活に入るなんて愚行に比べれば楽勝ですよ!」

「その忍耐力をもっと違う場所に活かしていれば、まず没収されることもなかったものを……」


 入間先生は大きなため息をつき、酷く呆れた様子だった。

 ごめんな、かなで……。今度また遊んでやるから、どうか俺を許してくれ。

 そう心の中で、かなでに詫びた時だった。


「ひなた君……私、明日心臓の手術を受けるんだ」


 おもむろに、入間先生が呼び慣れない名で俺の事を呼んだ。いや、読んだ。

 突然のことに固まる俺に構わず、先生は続ける。


「失敗したらひなた君に会えないと思うと怖いけど……でも、ひなた君が側にいてくれると思ったら、なんだか勇気が湧いてくるんだ。手術終わったら、また麻婆豆腐食べようね…………それがかなでの最後の言葉だった――」

「な、なんでまだ未プレイの場所朗読するんですかぁ!」


 ひなた君という呼び方、そして麻婆豆腐――先生が今読み上げているのは、紛れもなくこれから起こるであろう、かなでのイベントのネタバレだった。


「もうこれはいらないんだろう?なら私の好きにしたっていいじゃないか」

「全然良くないですよ!」


 これから起こるであろうイベントのネタバレ、しかもそれがかなでの最後の言葉だった、って完璧にかなで死ぬじゃねぇか!

 くそ、なんでこんなネタバレくらわなきゃいけねぇんだよ!鬼か⁉︎この人は鬼なのか⁉︎

 俺は入間先生の持つゲーム機に手を伸ばすが、ひょいひょいと華麗に避けられた。


「もう一度問おう淫鬼夜。部活に入るな?イエスといえば止めてやる」 

「答えは……ノーだ!」


 そう答えたところで、突然頭に一つの画期的アイデアが浮かんだ。

 もう正に人間をやめ、怪人となったものが辿り着ける化物染みたアイデア。

 チャームで先生を魅了して返して貰えばいいじゃないか、というものだ。

 なんて俺は冴えてるんだ。

 意気込み、チャームを発動しようとした刹那、


「そうだ、淫鬼夜」


 突然先生がそう話を切り出した。


「私はこのゲーム機をお前にタダで返す気は絶対にない。だから私がこの後これをキミに返していることに気づいた場合、キミがサキュバスの能力であるチャームで私を魅了したと見なし、このゲーム機を粉々に粉砕する」

「なっ……」


 なん……だと?俺の考えが、先読みされた?

 俺はその事に驚愕し、唖然と口を開けた。


「どうした〜?もしかして本当にチャームを使おうとしてたのか淫鬼夜?図星か?図星か?」


 下唇を噛む俺に入間先生はニヤリと意地悪そうに笑う。


「うわ〜すごいなぁ。このかなでって女の子……実はまだ生きてて最後に――」

「わ……わかった!わかりましたよ!」


 もうこうなりゃやけだ。物語の核心部分をネタバレされるぐらいだったら、地獄に堕ちたって構わないさ。


「その部活に入部するので……どうかネタバレはやめてください!」


 俺の必死のその叫びに、入間先生は満足げな表情を浮かべた。

 この人、本当に人間か?


「よく言った。部活のことだが明日詳しく説明する。その方が都合がいいんでな」


 そう言うと、入間先生は俺にゲーム機を手渡した。


「では、よろしく頼んだぞ」

「う……うぅ……あんまりだぁ……」


 なんでこんな事に俺が巻き込まれないといけないんだ。

 転校生、許すまじ……!


「そういえば、いい知らせっていうのは何なんですか?」


 受け取ったところで、それを忘れてた事を思い出した。

 悪い話がこれだけ本当に、悪い話だったんだ。

 いい話というのもその言葉に恥ぬぐらい、いい話なのだろうと期待できる。


「あぁ、それか――」


 入間先生は白い歯を見せてニッと、太陽のような眩しい微笑みを向けた。


「その転校生、超美少女だぞ」


 あぁ……くっそどうでもいい……。

 俺の心がバラバラに砕けちる音が、耳の奥で響いた。



 xxx



 そして今に至る、というわけである。


「部活ってマジかよ……ありえないだろ。あんなのは家に帰ってもやることが無くて、寂しい奴等にだけやらせとけばいいんだよ……」


 独り言を呟きながら、俺は携帯ゲーム機をプレイして歩く。


『ひなた君といられて、私とっても幸せ!今まで灰色だった世界が七色だよ!』

「うぅ……かなで。色々辛いことはあったけれど、お前を助けられてよかった……」


 画面に映るかなで、そしてそこから流れ出る、かなでの美しくも可愛らしい声を聞いていると涙が滲んでくる。

 確かに部活に入るというのは、この上なくクソみたいな行為だが、今日からまたかなでと居られるという幸せは、それと交換したってお釣りがくる。それぐらいに幸せなことだった。


「なぁ嬢ちゃん、その制服この辺じゃ見かけねぇな。何処から来たんだ?」


 ふと数メートル前方に見ると、緑色の肌に豚鼻が特徴の三人のゴブリンの男達が、見知らぬ高校の制服を着た女の子に絡んでいた。


「まだ日も落ちてないのにナンパとは、本当元気な種族だな」


 ゴブリン族――怪人の中でも特に繁殖力の高い種族で、いやはや何より性への欲求が半端じゃない。

 その異常な性欲を評価されてか、所謂“男優”と呼ばれる職業は大体ゴブリン族が勤めている。

 思春期の男子高校生ともなれば、ゴブリン族を目にしない日はない。


「ここら辺に超有名なタピオカ屋があってさ、おごってやるからよー、一緒に行こうぜ?」


(あまりにも古典派すぎるだろ……)


 心の中で思わずツッコミを入れてしまうほどのベタなナンパ。

 あんなのに絡まれるとはあの女も災難だな、と同情する。


「嫌よ。見ず知らずの怪人についていくほど、私は頭の悪い人間じゃないの。それにタピオカブームは終わったわ。ナンパするなら、次からレモネードで誘いなさい」


 女は余裕を含めた笑みを浮かべ、冷たい口調でそうゴブリン達を突き放した。


 艶やかに煌く長く美しい黒髪、言葉の端々から伝わる凛とした態度や物言い。それに加えて切れ長の目に黒のニーハイ。

 その少女は、冷徹の令嬢という言葉が似合うような、同年代の女子達とは格の違う雰囲気を醸し出していた。


「うぉ、気の強ぇ女だなー」

「でもオレ、こういう気の強い女ありっすよ先輩!」

「オラも!オラも!」


 リーダーっぽいゴブリンAが笑うと、側近のゴブリンB,Cがわいわいと囃し立てた。


(なんか……本当にベタな奴等だなぁ)


 キョロキョロと辺りを見渡すが、カメラのような物は見当たらない。どうやら撮影とかではないようだ。

 とういうことは、あの三人は地であれをやってるらしい。もはや生きた化石で博物館にでも飾った方がいいんじゃなかろうか。


「本当にしつこい人達ね。前世はカビかしら?貴方達の好きな湿った汚物ならその河原の下にあるわ。行ってきたらどう?」


 本当に気の強い女だな、と感心を抱きつつ、俺はその集団の横を素通りした。


 助けるとか、そういうことはしない。

 なんたって今は、俺の手元にはかなでがいるからな。

 たとえいくら可愛い女だろうと、所詮はリアル。見た目で人を判断する下世話な生き物。

 そんなものを助けてやれるほど、俺も暇じゃない。

 そういうヒーローみたいな役目は、ラブコメの神様に選ばれた主人公にでもやらせればいいさ。


「テメェ……あんまちょっと顔が良いからって、調子こいてんじゃねぇぞ!」

「きゃっ――!」


 女の発言にキレたゴブリンが女の胸ぐらを掴んだ。

 声色からして相当怒っているらしいことが背中越しにも分かった。


「テメェの立場ってもんを、ちゃんと分らせてやるよ」


 ゴブリンは腕を振り上げると、女の顔に目掛けて拳を振るった。


 だがその拳が、女に届くことはなかった――


「女の子に手をあげるなんて、ゴブリンは紳士な種族だなんて大嘘だな」


 俺は腕を掴みながら、そうゴブリンに吐き捨てた。

 どうやらラブコメの神様に選ばれた奴とは、俺だったようだ。

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