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ド陰キャ吸血鬼は本当の恋に憧れる。  作者: 月刊少年やりいか
1章〜自称悪魔な天使の話〜
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15話 『ケンタウロスが陸上部ってあまりにも最強ですよねって話』

 放課後のグラウンドは、陸上部に斡旋されていた。


「コラ!だからハードル飛びで飛ぶんじゃないの!」


 グラウンドの真ん中では、腕と足が鳥と同じ“ハーピィ”の女子生徒が、トレーナーに叱咤されている。


「えぇ〜、だって飛んだら超楽じゃんこんなの〜」


「そしたら反則なんだって……そんなに飛びたいなら鳥怪人部があるでしょ!」


「はいは〜い。わかってますよ〜」


 ぶつくさと気怠そうなハーピィの生徒。


(運動部はやっぱ大変そうだな)


 俺がそんな事をぼんやりと考えていた刹那、


「私は勝つ!私は勝つッ!私は勝つッッ‼︎」


「うぉ――ッッ⁉︎」


 掛け声と共に物凄い暴風で風を切り上げ、俺の目の前を誰かが通り過ぎた。

 その人物は俺の数メートル横にいる男性トレーナーの前を通り過ぎる。

 ピッとトレーナーは手に持っていたタイマーを止める。

 その音に合わせ、件の人物は土埃を立てて車のブレーキをかける様に止まった。


「うん。200メートルで9秒3。だいぶ良いタイムに仕上がってきたな。これなら次のレースで金メダルも夢じゃないぞ」


「わーい!本当ですか‼︎」


 上半身は人間の女の子、だが下半身は馬と同様。

 件のその生徒――馬娘……いや、ケンタウロスの女生徒が手をあげて喜び、馬と同じ筋肉の引き締まった四つ足で地面を鳴らした。


「頑張ったご褒美に、私は駅前にあるお店のにんげんケーキを所望します!」


「おうおう、次のレースで勝ったら腹一杯食わせてやるさ」


「本当ですか⁉︎じゃあ一緒ににんじんプリンと、にんじんパイと――」


「どんだけ食うつもりだよお前……」


 と若干トレーナーが引き気味の顔をしたところで、


「ご機嫌よう。トレーナーさん、スタークロノスさん」


 天使(あまつか)先輩がエンジェルスマイルを浮かべ、二人に近づいていった。


「あっ!天使(てんし)ちゃんおはよー!」


 スタークロノスが手を振り先輩の方へ近づいた。

 そうして近づいてみると、人間をベースにした怪人とケンタウロスの大きさの違いに驚く。

 スタークロノスと呼ばれるその女生徒の大きさは、天使先輩の2倍以上の大きさで2mはゆうに超えているだろう身長だ。


「今日も精が出ますね」


 体格差などさほど気にする様子もなく、先輩は天使の輪を揺らし微笑む。


「うんうん!来週は【怪人賞】っていうすごいレースがあるからいつもの3倍頑張ってるんだ!」


 綺麗に手入れのされた黒い尻尾をぶんぶんと振るスタークロノス。

 その様子から相当気分が高揚しているのだろうと窺える。


「怪人賞――もうそんな時期でしたか。我が学園の為というのもそうですが、是非ご自身の為にも全力でスタークロノスさんがレースに臨める事を心より祈っております」


「うぅ〜ありがと〜天使(てんし)ちゃ〜ん!」


「うわぁ〜ん!」と目に涙を浮かべスタークロノスが先輩へと抱きつく。


「よしよし、良い子良い子。スタークロノスさんは強い子なので絶対勝利の女神様は微笑んで下さりますよ」


 そう言ってしばらく先輩は巨大な赤子をあやしていた。

 そして3分ほど経ち、スタークロノスが泣き止んだ頃合いを見て先輩は再び口を開いた。


「そういえばスタークロノスさん、一つよろしいですか?」


「ぐすん……うん、どうしたの天使ちゃん?」


 袖で涙を拭い、スタークロノスは答える。


「『今月は部活動の悩みを聞こう月間』でございまして、何かあればお聞かせ願えればと思いまして」


「悩みを聞こう月間かぁ、なるほどねぇ。でも悩みなんてなんかあったかなぁ――」


「う〜ん」とスタークロノスは腕を組み、眉間に皺を寄せる。

 それに合わせ尻尾が動きを止めるのが不思議で面白い。


「あっ、そういえばあった!」


 とスタークロノスが突如声を上げた。


「ほぅ、お聞かせ頂いても?」


「もちろんだよ!今取ってくるからちょっと待ってて!」


 そう言うと、目にまとまらぬ速さでスタークロノスは倉庫の方に行き、何かを取って帰ってきた。


「それがさぁ聞いてよ天使(てんし)ちゃん!実はトレーナーがね――」


「はぁ⁉︎俺が悩みかよ⁉︎」


 スタークロノスに指を指され、トレーナーが驚いた顔をする。

 スタークロノスは無視して続ける。


「この前の練習終わりさ、トレーナーがいきなり私の後ろ脚触って『良い筋肉に成長した』とか言ってね。超びっくりしちゃったから蹴り上げちゃって……」


 照れるスタークロノス。


 いや、そんな『蹴り上げるなんて女の子らしくないよね』みたいに照れてるけど、そのいかにも強いですみたいな強靭な後ろ脚で生身の人間を蹴るのは殺人の域なのだが……。ケンタウロスの後ろ蹴りは100m空中からコンクリートの地面に落下したぐらいの衝撃があると聞いたが……。


(というかトレーナーならケンタウロスの後ろ脚触るのが御法度だと分かりそうなモノだが……)


 と考えてる間に、スタークロノスが持ってきた物を先輩へ見せた。


「それで、実は吹き飛んだトレーナーの先にあった()()が壊れちゃって……」


 それは四方八方滅茶苦茶に粉砕されたハードルの残骸だった。


「あらま、本当」


「これ今年買い換えたばかりだから部費が無いらしくてさ、どうにかならないかなぁ天使ちゃん?」


「左様ですか……。ですが学園から与えられた予算上、陸上部に追加の部費は出せませんし――」


 先輩は顎に手を当て、難しそうに眉を顰める。


「そうだよねぇ……」とスタークロノスも諦めたように顔を曇らせる。


 まぁ考えたところで無駄だろう。これだけ割れてしまったならもう直しようが無い。

 どうせたかがハードル飛びじゃないか。適当な高さの椅子でも代用が効く。

 こんな答えの出てる問題に付き合う程俺は暇じゃないり帰って会わなければいけない子がいるんだ。


「あの、そんなの椅子で代用――」


 と俺が口を開いたのと、先輩が答えを出したのはほぼ同時だった。


「分かりました。ちょっとこれ、しばらく貸していただけませんか?」


「ん?いいけど、どうするの天使ちゃん?」


 とスタークロノスが小首を傾げる。


「正直検討もつきませんが、何処かで直せはしないか私の方で探して参ります」


「えぇ天使ちゃんが⁉︎そんなの悪いよ!これは私がやった事なんだし!」


「いえいえ、生徒の悩みは生徒会長である私の悩みと同様。放っておく事など出来ません」


「でもぉ……」とまだ心配そうな顔をするスタークロノスに、ニコリと天使先輩が微笑む。


「心配なさらないで下さい。その代わり、見事こちらが直ったあかつきには、怪人賞で金メダルを期待していますよ」


「天使ちゃん――」とスタークロノスは口に手を当て感動した仕草を見せる。


「うん!私頑張るよ!天使ちゃんの為にも絶対怪人賞で金メダル取る‼︎」


「応援しています。ですがあくまで私は二の次でお考えを。ご無理をなさらないよう気をつけて下さいね。なにせ主人公はスタークロノスさんなのですから」


「天使ちゃん――!」とスタークロノスは目に涙を浮かべると、先輩に抱きついた。

 つい数分前に見た光景だ。


「天使ちゃ〜ん……私頑張るからね!」


「えぇ」と先輩は微笑むと、純白の翼を背中から生やし、その柔らかな羽毛でスタークロノスをあやした――



 xxx



「無理じゃないですか?そんなの直すの」


 数十分してようやく泣き止んだスタークロノスと別れた後、俺は先輩にそう告げた。


「大丈夫大丈夫。“やってやれないことはない”ですよ!淫鬼夜さん!」


「“やっても結果がついてこない”という人生だったので、あまり信用出来ませんね」


 皮肉を込めた言葉だったが、先輩は気にする様子もなく「ふふっ」と微笑む。


「淫鬼夜さんはとても堅実なモノの見方をするのですね。素晴らしいです」


 そして逆に褒められた。


「大丈夫です。きっと淫鬼夜さんのその成果は、目に見えない所で淫鬼夜さんの力となっているはずです。行動に対して結果が起こらない事など絶対にありません」


「……先輩は励まし上手ですね」


 先輩と俺の一緒にいた時間なんて合計しても一日にすら満たない微々たる時間だ。

『お前に俺の何が分かる』

 そんな風にいつもの俺なら返していただろう。

 けれどその先輩の言葉は、根拠のない物のはずなのに俺を信じ込ませてくれた。


「なんかちょっと、やる気になった気がします……」


 ぎこちない俺の言葉に、先輩はさも嬉しそう満面の笑みで微笑んだ。


「はい、その意気ですよ淫鬼夜さん!信じる者は救われます!」


 キラリと先輩の頭の上に浮かぶ輪っかが輝く。


「ははっ、天使(天使)らしい言葉ですね」


 と俺は笑う。


「さて、次は剣道部に行きましょうか」


 俺はコクリと首を縦に振り、先輩の後をついて行き剣道部の練習をしている武道場へと足を運んだ。


 広い校舎を端まで歩き、第二校舎の裏にある武道場へと到着する。

 棘の付いた禍々しい黒い鉄製の扉を開き、中へと入る――


「水の息吹(いぶき) 三の陣 龍滝ノ裁(トリトン・ティアー)‼︎」


 剣道部の生徒が相手に剣を振りかぶり、叫んだ。

 生徒が持つの剣に何処からともなく水流が集まると、斬撃と共に重い水流が放たれた。

【怪人レポート-2】

半身半馬--ケンタウロス族について。


ケンタウロスは『サテュロス』という怪人の誕生する以前に人間が記した書物に描かれている半身が人間で半身が獣の怪物に姿が似ている事から、サテュロスをもじり名付けられた種族だ。


人間と同じ器用さと、馬と同じ素早さを持つ事から、古代では戦争で弓や槍を行使し戦場を縦横無尽に駆け巡り大きな戦果をあげたと言われている。

戦争の無い現代ではその能力はスポーツを始め、社内を駆け回る事の多い経理部の社員として実は重宝されているらしいと父から小耳に挟んだことがある。


実際あの器用さと素早さはこの部活にも欲しい能力だ。

あの根暗な吸血鬼が使えなくなった時のために声をかけておこう。


           怪人研究部部長 神鬼角無

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