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ド陰キャ吸血鬼は本当の恋に憧れる。  作者: 月刊少年やりいか
1章〜自称悪魔な天使の話〜
12/43

12話 『妹登場って話』

「何やら1階(下界)が騒がしいな……せっかく熟睡しておったのに起きてしまったぞ」


 気高さと気品を感じさせる長い黒髪、血をそのまま結晶化したような赤目、そして小さな背丈とは不釣り合いな程ふりふりな黒いゴスロリチックな装い。


 降りてきたのは俺の妹――淫鬼夜リリィだった。

 ピカピカの小学一年生で、年とはだいぶ離れている分、自分の子供のように滅茶苦茶に可愛がっている。


「ふあぁ……」


 とあくびをすると、岩石族の硬い肌でも砕けそうな小さな八重歯が顔を見せる。


 リリィは俺とは違い、ヴァンパイアの血が色濃く出ているハーフヴァンパイアなのである。

 そのためリリーは日光に弱く、日の落ちるまで自室で眠っている。


「まぁリリィちゃん♡起っきしたのね♡」


 母は俺から離れると、リリィの方へと猫撫で声で話しかけた。


 リリィまじナイスタイミング。


「リリィちゃんは今日もお姫様みたいで可愛いわん♡」


 母に抱きつかれ、鬱陶しそうにリリィが目を細める。


「母よ、我の眠りを妨げるなとあれほど言っていたであろう。成長期の寝不足は心身の成長に影響を及ぼすのだ」


「ごめんなさぁ〜い……だってだってぇ、ヒナちゃんにガールフレンドが出来たって言うんですもん」


「ヒナ……?」と母から発せられたその言葉でリリィは辺りを二度見渡し、玄関にある俺を見つけた。


 俺ってそんなに探さないと見つかりません?どんだけ影薄いんだよ……。


「ム、我が(あに)ではないか。おかえりなさい」


「ただいま、リリィ」


 自分の影の薄さに若干の悲しさを覚えつつ、俺の腰ぐらいにあるリリィの頭を撫でる。


 なんという触り心地だろうか。

 髪はサラサラでまるでお店に並んでいる新品のシルクのシーツを触っているかのような心地の良さだ。

 そしてふわりと香る宵闇(よいやみ)の香り――吸血鬼の静かな冷たい夜の香りと、サキュバスの蜂蜜のような甘い香りとが絶妙に合わさって心地良い。

 だが何と言っても最高なのはこの色味だろう。

 闇よりも深い深淵の黒髪――見るもの全てを魅了し、吸い込むブラックホールのようだ。


「我が兄よ……いつまで触っておるのだ」


 むすっとした声色でリリィが話す。


 やばい、完璧に意識が飛んでいた。


「あ、ご、ごめん!つい……気持ち良くてな」


 慌ててリリィの髪から手を離す。


「……我が兄も、母と同じような事を言いおるな……」


 呆れた様子でリリィはそう言った後「ふあぁ……」とまた大きくあくびをした。


「まぁ()い……とりあえず我は朝の晩餐を取るとしようか」


「ん?朝食?今からか?」


「そろそろ登校時間だからな。今食べなくては21時のほーむるーむに間に合わん」


「今からホームルームって――あっ、そうか。夜属(よぞく)学校か」


 俺は思わず手を叩く。

 今日は色々あり過ぎてすっかり忘れてしまっていた。


 夜属学校――それは種族の特性により朝の陽が出ている時間に通えない怪人達の為の学校だ。

 主に通っているのはゴースト族と吸血鬼、あとはアンデット族とかゾンビ族なんかも通っていたりする。


 では何故吸血鬼である俺が、普通に陽の光を浴びながら学校に通えているかと言えば、別に青い彼岸花を食べたり、石の仮面を付けて究極完全生物として生まれ変わったから、という訳では勿論ない。

 普通に成長して、日光に対する体を持ったってだけだ。最強の名を司る一族は伊達じゃない。


 だが幼少期の吸血鬼は、成人の吸血鬼と比べると太陽に弱い。

 絵本などで見る吸血鬼のように別に体が灰になって消えるという事は無いが、体調を崩すのであまり推奨されていない。

 だから昼間は寝て過ごし、太陽の消えた夕方に目を覚まし学校へと行くのだ。

 故に、昼間から出歩く事が可能になる中学生活からは、体内時計を戻すのに非常に苦労する。俺は今でも若干狂っている。


「羨ましいなぁ夜属学校。俺も戻れるならそっちに戻りたいよ」


「それは思い出(メモリーズ)補正(・リヴィジョン)というやつだな。あのような所、兄が思っている程よい場所でもないぞ」


「えぇそうか?どこもガラ空きで歩きやすいし、教室も静かでしんとしててめちゃくちゃ過ごしやすいじゃんか。それにゴーストとゾンビは話結構合うヤツ多いし」


 だが「いや、全くだ」とリリィはすぐに否定した。


「クラスの怪人達は陽を浴びないゴーストやアンデット族ばかりで不健康ゆえ、血がすこぶる不味い。それに奴等は人を驚かせるようなことばかりしおるから、非常にタチが悪いのだ」


「なるほど……吸血的な問題か……」


 クラスメイトの血を吸ってるとか、兄として妹の将来が心配になる。

 吸血衝動は自分でコントロール出来るようにならなければ非常に不味い。それはこの三日間で俺は身をもって知っている……。


「我は太陽を克服し健康な血液を貪り、そして――早くムザ・カースドディオーラ・センターブレード様のような最強の吸血鬼となりたいのだ」


「またそいつか。本当好きだよなリリィ」


「無論だ!」と今まで顔色一つ変えなかったリリィが、鼻息を荒くし声を張った。


「あのお方は我の意志を決定づけ、我の真なる記憶を呼び覚ました永久(とこしえ)の覇者ぞ!あのお方が存在せねば、我は未だに自分の使命を思い出す事が出来ず、ただのハーフ吸血鬼としてしがない人生を歩んでいるところであったのだ!」


「はいはい、分かってるって。もう100回は聞いたよ」


「否、まだ86回目である!」


 ちゃんと数えてんのかよ!


「はぁ……」と思わずため息が漏れる。


 ムザ・カースドディオーラ・センターブレード――リリィの真なる使命を呼び覚まし、リリィを導く永久の命を持つ最恐の吸血鬼。その姿は夜の月を彷彿とさせる金色の髪。洗練された美しい容姿と美声を持つ。彼はその最恐の力を持ってして1000年前に魔界から現れた悪怪人達を一人で殲滅し封印した永久の覇者――


 まぁ、聞いてて察せられるだろう。こいつはフィクションの存在だ。こんな設定もりもり怪人は現実には存在しない。


 彼は5年前にテレビで放送されていた『ヴァンパイアマン』というアニメの主人公で、当時まだ2歳だったリリィはそれに強く影響を受けたのだ。今の芝居がかった口調もコイツから影響を受けたものである。

 まぁ言うなれば、俺の妹は超早期の厨二病なのである。


「そういえば我が兄よ、何かいつもと違う女子(おなご)の匂いがするな」


 スンスンと鼻を鳴らし、リリィが俺の匂いを嗅ぐ。


「まじで?分かるのか?」


「分かるに決まっておろう。血が騒ぐのだ。我の眠りしサキュバスの血がの」


「流石はママの子!きっとボンキュッボンのナイスバディーなイケイケサキュバスになるわ〜♡」と母が嬉しそうに反応する。


「我が兄が春流々以外の女子と一緒におるとは珍しいな」


「ちょっと新しく部活に入ってな。そこの部長の匂いだ」


「む、部活とな。何部なのだ?」


「怪人研究部っていう、まぁ文字そのまま怪人を研究する部活だ」


「ほほぅ、研究――」と何やらリリィが興味深そうな反応をする。


「という事は兄は、今日からマッドサイエンティストになったという、そういう事であるな!」


『やったぞ!我の兄がマッドサイエンティストになった!これは我が淫鬼夜リリィの闇の眷属として丁度悦い肩書きであるぞ!』とまるで言っているかのような反応だ。というか十中八九そう言っている。


「マッドでもサイエンティストでも無いが……まぁ間違ってもいない」


「ほほぉ!やはりそうであるか!マッドサイエンティストとは何とも良い職業に着いたな!ぜひ我も行ってみたいぞ!」


「うーん……いや、来ない方がいいと思うぞ」


「なにゆえだ?我が兄」


 とリリィが小首を傾げる。


「お前が学校で全裸にされるのを、兄ちゃん見たくないから……」


 吸血鬼とサキュバスのハーフとか普通に珍しいし、神鬼のいい餌食だろう。

 まぁ俺も他人事ではないのだが。


「学校で全裸⁉︎ヒナちゃんもうそんなドキドキプレイをする所まで女の子とすすんでるの⁉︎」


「母さんは黙っててくれ、話がややこしくなる」


「え〜どういう事よ〜。聞かせてよヒナちゃ〜ん」


 甘ったるい声で体を触ってくる母を無視し、俺は2階にある自室へと進む。


「あらヒナちゃん、ご飯は?」


「部屋に干し肉チップスあるからそれ食う」


「だめよそんなのじゃ!若いんだからちゃんと精の付くもの食べて()を出さないと!」


 思春期男子の前で堂々と精の話をしないでくれ……。


「今日は疲れてるんだ、あんまいらねぇ」


「なら尚更よ!ママのご飯食べて体も股間もギンギンに元気出して!」


「“心を”みたいなノリで股間とか言うなよ!」


 てかギンギンになるって、何入ってんだよそれ……。


 そんな疑問を抱えながら、俺はその場を後にした。

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