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ド陰キャ吸血鬼は本当の恋に憧れる。  作者: 月刊少年やりいか
角の無い鬼との出会い-プロローグ-
1/43

1話 『俺って吸血鬼なんだって話』

 

 本当の恋とは、何だろうか。


 俺の持論としては、内面で惚れる事だ。

 顔が好みだったとか、年収が1000万を超えていたとか、そんな低俗じゃなく、優しかったとかそういう理由で愛し合ってこそ、本当の恋と呼ぶにふさわしいものではないかと俺は思う。


 いつか見た、醜い獣男と美しい少女が恋に落ちる物語。

 俺はあの映画みたいなものこそが、本当の恋だと思う。 

 だがきっと俺にそんな恋をすることなど一生出来ない。

 本当の自分を見せれば、俺は人の心を歪めてしまうから――


「やめて!離して!」


 月のように輝く金色の髪、血のように赤い真紅の目、彼女の瞳に映る俺の姿は、間違いなく本来の俺の姿を映していた。

 俺のその特性は間違いなく、彼女に効果を及ぼしているはずだった。

 だが彼女の瞳に映るその色は、恋に悶える桃色の火ではなく、怒りに燃える赤色の火を灯していた。


「助けたのに乗じて襲おうとするなんて……最低ね!」


 彼女から悪罵を鳴らされているというのに、俺の心は高揚感で震えていた。


「助けてくれたことには感謝するわ。けれど……もう二度と私に近付かないで‼︎」


 彼女はそう言うと、乱れた制服を整え、俺の前から立ち去ろうとする。


「待……待ってくれ!」


 俺は叫び、彼女を引き留めた。

 こんなに大声を出したのなんて久しぶりだった。

 だがそれ程までに、彼女の存在は神秘的で、魅惑的なものだった。


 この時初めて出会ったんだ。

 本当の恋を出来るかもしれない、一人の人間の少女に。



 ※  ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「今日ね……ひなた君のために、お弁当作ってきたんだ」

 昼休み。向かい合って座るその少女の長い黒髪を、春の風が揺らす。

「え……弁当?」

「うん……だって今日から、恋人同士になったわけだしさ」


 恋人――かなでから発せられたその言葉に、心臓が思わずどくんと跳ねた。


「そ、そうだったな……」

「もう!そんな大切な事も忘れてたの?」

「い、いやそういう訳じゃなくてさ……ただ、まだ実感が湧かなくて……」


 (みなと)かなで――この前転校して来た普通の人間の女の子。

 母親が再婚してどうも家に居辛かったらしく、その悩みを聞いているうちに彼女の内面に惹かれていき、昨日夜の公園で告白し、はれて恋人同士となった。


「そ、そっか……ひなた君もなんだ。じ、実は私もそうなんだ」

「まぁそうだよな……お互い、友達の期間が長かったし」

「うん……でもさ――」


 熱を帯びたかなでの瞳が俺を見つめる。


「まだ慣れないけど……やっぱり、ひなた君と恋人同士になれたのは嬉しい……な」

「かなで……!」


 俺の彼女はなんて可愛いんだ‼︎

 と、思わず声が漏れそうになる。だがそれはかなでが恥ずかしがるだろうからやめておいた。


『あれが噂の陰キャくん……』

『陰キャというか……教室で堂々とあれはもはや陽キャなような……』

 周囲からは俺とかなでを妬んでか、ひそひそと陰湿な声が聞こえる。

 まぁそんなモブキャラの声、俺はどうとも思わないがな。


「つまらない物ですが……よろしくお願いします」


 かなでが頬をりんごのように真っ赤に染めながら、やたらデカい弁当箱を差し出した。


「つまらない物だなんて……おぉ!」


 弁当箱を開けると、中にはいかにも辛そうな麻婆豆腐が入っていた。

 麻婆豆腐はかなでの好物だ。きっと初めての手料理はこれだろうと思っていたが、どうやら予想は当たったらしい。


「超旨そうだぜ――」


 ごくり、と唾を飲む。


「み、見てないで早く食べてよー。恥ずかしいよー」

「あはは、悪い悪い。つい見惚れちゃって」


 後ろ頭を掻いてそう謝罪したあと、俺は両手を合わせる。


「じゃあ、いただきます!」


 彼女の初めての手料理という喜びと共にそれをほうばると、辛さの中に広がる甘い蜜の様な味が口いっぱいに広がる。


 あぁ……なんて幸せなんだ。

 愛し合う恋人と二人、教室の真ん中でこうして気持ちを寄せ合い弁当をつつく。

 こんなに嬉しいことは無い。

 無い……

 無いんだが……

 ただ一つだけ、残念な事がある。


 それは――


 かなでの声が……()()()()()()()()()()()()


「美味しい……かな?(裏声)」


 俺は机の上に乗せられた『早期購入者限定、八分の一スケール(みなと)かなで』のフィギュアのパーツをずらし、首を傾ける。


「フッ……愚問だな。俺がかなでの手料理を不味いと思うわけないじゃないか。この舌は、かなでの料理を味わうために生まれたんだからな」

「ふふっ。なら私の手は、ひなたに料理を作るために生まれてきたよ(裏声)」

「ハハッ、似た者同士だな」


 かなでと見つめ合い、微笑み合う。

 あぁ、本当に幸せ――


「ひなた……何してんの?」


 背後から聞こえた低い声に振り向くと、そこには見慣れた顔の人物がいつもと同じく、何を考えてるのかよく分からない無表情な顔を浮かべ、立っていた。


「ハルか……見て解らん奴は、聞いても解らんさ」


 その無害極まりない存在にそう告げると、俺はかなでへと視線を戻す。

 こんな女に構っている時間はない。


「……見ればわかるんだけど、長年寄り添ってきた幼馴染が昼休みにお人形遊びしてるのは、理解したくないんだよね……」


 ハルはいつもと同じ、何を考えてるのかよく分からない無表情のままそう話す。


「お人形遊びだと⁉︎かなでは生きてるんだよ‼︎これは遊びじゃなくて立派なデートなんだ‼︎デ・ー・ト‼︎」


 人形と生きている人間の区別もつかないとは……。


「全く……素人はこれだから困るねーかなでー」

「うん!でもにわかには分からないからしょうがないよ!(裏声)」

「…………はいはい。それはごめんなさいねー」


 やれやれ、と言ってハルはため息をつくと、()()()()()()()()()()()()()()()


 月鬼城(つきしろ)春流々(はるる)

 色素の薄い赤髪、平均以上の胸とそれなりに整った顔が特徴で、父方の親戚で幼い頃から一緒に育ったいわゆる幼馴染で――



 純血の吸血鬼(ヴァンパイア)である。



 そう、驚いただろう。

 今話しているこの人物、普通の人間ではなかったのだ。

 いや、この人物だけではない。周りにいるクラスメイト全員、ひいてはこの世界中に存在する人々が、普通の人間ではないのだ。


 今からちょうど千年前、人の世は終わりを告げた。

 地球に落下した謎の隕石の影響よって体の細胞組織が変化し、人間は次々とドラゴンやゴーレムといった、絵本やファンタジー小説に出てくるような存在に姿を変えていった。

 この世界では、そういった変異した人間を【怪人】と呼び、区別している。

 今では怪人は人口の9割をも占めるようになっており、人間の方が珍しい。総理大臣だとか国の重役職を務めているのも大体怪人だ。


 キリが良いし、ここら辺で自己紹介といこうか。

 俺は淫鬼夜(いんきや)ひなた。

 本日より学年が一つ上がり、怪妖(かいよう)学園の二年生。

 ちなみに俺も怪人だ。

 種族はハーフヴァンパイア。いや……ハーフサキュバスと言った方がいいだろうか。

 まぁともかく、その二種族のハーフだ。


「よっこらせっと……」


 ハルは隣の席から椅子を拝借すると、俺の前に座った。


「何故座る……」


「隣に超絶可愛い美少女がいれば、クラスメイトがひなたを見る目も少しは和らぐかなーと思って」


「……ん?超絶可愛い美少女なら既にいるが?」


 かなでを指差すと、ハルが露骨に目を細めた。ハルは基本無表情だから、ここまで悪意を向けてくるのは珍しい。

 そんな怒るようなこと言ったか?


「昔はそんなんじゃなかったのにねぇ……もっとイケイケでブイブイ言わせてたのに」


「表現古いな……」


 イケイケでブイブイ――あぁ、あったなぁ……そんな頃。

 ハルのその言葉で、忌まわしき過去の記憶達が蘇ってくる。


 数年前まで、俺は確かにモテていた。

 もうモテすぎて、武勇伝を書いたら電◯文庫に投稿出来る文量ぐらいにはなるんじゃないかというぐらいモテた。

 だがある日、ふと思ったのだ。


 これって俺の能力のせいなんじゃないか、と。


 俺はヴァンパイアの特性の他にもう一つ、サキュバスの母から受け継いだ“チャーム”という特性がある。

 これは生まれ持ったサキュバス特有の恵まれた容姿が及ぼす特性で、周りの異性を問答無用に魅了する。

 母はこの特性のおかげでいつも会計は8割引、路上ライブを行えば万札が山のように入れられる。そのぐらい強力な能力なのだ。


 話が逸れたが、ともかく俺は自分がモテてるのは能力によるものなのかどうか、その真相を確かめるべくチャーム効果のある金色の髪を黒く染め、前髪と眼鏡で顔を隠し能力を完全にシャットアウトした。


 今考えても、あの時の俺は馬鹿だった。

 チャームなんか無くとも、きっと学校の女子達はいつも通り俺に愛の言葉を囁いてくれる。

 そんな空想を抱いていたんだから……


 結果はまぁ……大方の予想通りだ。

 チャームが無くなったことで誰も俺に愛の言葉など囁か無くなったどころか、厚底眼鏡に長く伸びた前髪と、所謂“陰キャ”と揶揄される風貌であった為に女子達が露骨に俺への態度を変え、罵声を浴びせてきた。


 あの時の悪罵の数々は何とも甘く美しい言葉の数々で…………じゃなくて、普通に傷付いた。


 だから俺は捨てたのだ。

 あのリアル女という、見た目が変わっただけで態度を豹変させる生き物を。



「それにしても――」


 野菜ジュースを飲みながら、ハルがおもむろに切り出した。


「中々可愛い子だね、その子。声気持ち悪いけど」

「分かるか⁉︎」


 二次元の少女を褒めるなんていうハルの珍しい行動に、思わず声がでかくなる。


「うん、この前のグールとかゾンビの子達に比べたら分かりやすい趣向だね。声気持ち悪いけど」

「はっはっは!そうかそうか……ノーマルなハルにも納得させる力とはかなではの可愛さは偉大だな!かなでがキャラクターとして発表されてから苦行4年シナリオライターが入院したり家庭の事情ということでシナリオライターが消えたりシナリオライターが会社の金持ち逃げしたり紆余曲折はあったもののやっと発売その苦難を乗り越えたかなではやはり只者で――――」 


「この麻婆豆腐もらうね」


 ヒョイとハルが俺の麻婆豆腐をスプーンですくうと、口に入れた。


「あー‼︎かなでが俺のために作ってくれた麻婆豆腐を――ッッ‼︎」

「やっぱりひなたのお母さんの料理は美味しいね。媚薬の味するけど。流石サキュバス」


 ハルはさらりと真の作り手の名を口にした。

 流石幼馴染、こういう家族の味を理解しているところは強い。

 けど……幼馴染属性の奴等って、これだけなんだよな。

 昔の思い出に強いってだけで、何か新しいイベントをもってこれないから、ポッとでの転校生キャラとかにヒロイン戦争で負けるんだよ。

 とか考えていると、

「もう一口もらってもいい?」

 と言ってハルが手を伸ばす。


「だーめーだ!これはかなでが俺のために作ってくれたんだ!」

「媚薬の味するけど?」

「かなでは隠し味に媚薬入れるんだよ!」

「ありゃ、とんだ小悪魔だ」   


 かなでの手作りお弁当(母作成)をハルから遠ざける。


「てかハル、お前いつまでいるんだよ。用がないならもう帰ってくれ。俺はかなでとの二人きりの時間を満喫したいんだからさ」


 全く……せっかく初めての二人きりで食べるお弁当イベントだったというのに……。


「用……?あっ、忘れてた。私、入間先生からひなたを呼んでくるよう頼まれてたんだよ」


「入間先生が……?また俺なんかやっちゃいました?」


 入間先生……1年の時の俺の担任で超厳しい。呼び出し、ということは相当何か逆鱗に触れるようなことをしてしまったんだろう。まぁ、心当たりしかないが。


「えーっと……昨日没収したゲーム機を返してやるから早く来いとか、そんな話だったような」

「はぁ⁉︎まじで⁉︎」


 入間先生に没収されたゲーム機――その中にはかなでの初手料理のイベント前で終わっているゲームが入っている。

 あれさえ取り返せれば、もう自分の裏声でかなでを演じる必要もない!


「こうしちゃいられねぇ!」


 俺は机から勢いよく立ち上がる。


「どこ行くの?」

「かなでを取り戻してくる!」

「……?でもかなでちゃんここにいるよ?」


 きょとんとした目でハルが首を傾げる。


「それはただのフィギュアだ!かなでの魂はあのゲームの中に囚われてるんだよ!」

「さっき人形遊びじゃないって……」

「細かいことはいいんだよ!じゃあな!」


 ハルの言葉を遮り、俺は教室を出る。


「麻婆豆腐もらっちゃうからねー」

「あぁ、好きにしろ!」


 背中越しに聞こえたハルの言葉にそう返し、俺はダッシュで職員室へと向かった。


 待ってろかなで……俺が今助けてやるからな!

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