クリスマスプレゼント
僕は昔からサンタさんの存在なんてからきし信じていなかった。
クリスマスになれば、みんなはプレゼントをもらえるだろうけど。
でも、僕だけはまともに祝ってくれなかった。 お金がないことが、その理由だ。
ある年のクリスマスの晩、僕は買い物をした後、ひとりで地味なクリスマスケーキを作っていた。
母さんはいない。 母さんは、遠い昔、父さんと一緒に家を出たきり、帰ってこなかった。 だから、母さんとはずっと離ればなれで、父さんは仕事で忙しいから、僕はいつも家に一人だ。
今年のクリスマスもきっと二人きりなんだ。 父さんと僕。 寂しいけど仕方がない。
その晩も僕は、父さんと一緒にクリスマスイブの夜を過ごした。
***
僕が寝床についた頃、何か物音がするのを感じた。
何だろうと思いつつ、最初はその音を無視しておいたが、何時までたっても消えない。 いや、むしろ音が大きくなっている?!
父さんかな……? いや、父さんではない。 大柄の男だ。 父さんはもっとやせている。
僕の部屋に誰かが入り込んでいる。 カーペットを踏みしめる音が聞こえ、それとともに戦慄が走る。
僕は、ベット際の壁に張り付くようにして寝返った。 影のいるほうを見たくない!
「サム?」
不意に名前を呼ばれた。 優しい男の声が聞こえる。
「父さん……?」
しかし、返って来た答えは可笑しかった。
「いや、サンタクロースだよ」
そうか。 今日はクリスマスだ。 きっと、父さんが冗談でそんなことを言っているのだろう。
「サンタさん?」
「そうさ。 何でもほしいものをいってごらん? 君は特別だ」
僕は耳を疑った。 そういえば、プレゼントなんて珍しい。 生まれて初めてかもしれない。 僕はさっきまでの恐怖を忘れ、ワクワクと胸を躍らせた。
「うーん、それじゃあ……」
僕はさまざまなものを想像した。
プレゼントなら、何がいいだろう。 ――そう、初めてのプレゼント!
ゲーム? サッカーボール? スニーカー?
うーん……どれもしっくりこないな。 そういえば……
「僕、母さんに会いたいよ。 もう何年も会っていないんだ。 へへ、そんなことサンタさんには無理かもしれないけどね」
サンタは一瞬ためらったが、すぐに答えを返した。
「では、君はもう眠るんだ。 プレゼントは明日になったらあけるんだよ」
きっと、サンタも困り果てて、逃げだしたいと思ったのだ。 僕の予想が当たっていれば、明日になったら粗末な車のおもちゃでも枕元に置かれているハズだ。
サンタが一旦、僕から離れた。 ごそごそと袋の中を物色している。 まさか、母さんをその中から出すのではあるまい? 一体、何をしているのか気になったが、僕は五分もしないうちに睡魔に襲われて、ぐっすりと眠ってしまった。
翌日、僕は父さんにたたき起こされて目が覚めた。 朝食の手伝いをするのが習慣なのに、僕は寝坊をしてしまった。 僕は枕元を確かめる間も無く、まっさきに台所へとむかった。
一段楽して朝食を食べ始めたときに、僕は夕べ起こった出来事を父さんに話した。
「僕、昨日来てくれたサンタさんに、母さんと会いたいって頼んだんだ」
すると父さんは、困ったような顔をして、僕を見た。
「え、なんだい? サンタクロースって」
「父さんがサンタさんじゃなかったの?」
「寝ぼけているんじゃないのか? 昨日はさっさと寝てしまったさ」
それじゃあ、昨日のサンタさんは……。
僕は、急いで自分の部屋に戻った。
枕元を確かめると、そこには確かにプレゼントが置かれていた。
メッセージカードが添えられている。
「親愛なるサムへ 母より」
プレゼントのつつみをあけると、中からは土のついた骨がゴロゴロと出てきた。