プロローグ
それは神話の中でのみ再現されるべき光景だった
日の出とともに海面の明度が上がっていく
上空から見渡すとそこには何者が拵えたのか
北極海に一本の黒く太い線が引かれていた
いや正確には海底が姿を現し底を覆っていたはずの海水が器用に左右に均等に割れていたのだ
古き聖典に記されし神の御業
現代では磁場の影響で水が分かたれる
「モーゼ効果」
として知られているその現象だが
今回はあまりにも規模が大きすぎた...
どうやら陸地から海に向けて強力な青い光が照射されており
その光が周囲の磁場に影響を与えているらしい
「Shift down」
唐突に一人の男が言葉を発した
彼の手のひらから出ていた青白い光が消えた
と同時に海水が元あったであろう位置に帰還を開始した
何事もなかったかの様に戻っていく水のなかに
4つの大きな島に囲まれた小さな黒い岩の様なものが見えた
中央の岩からは同じく青い光が発せられている
まわりの島々はどうやら過去地上に存在していたものらしく
石組みの建物 舗装された道
など文明の形跡が多数みられる
「...HITOGATA??」
彼はやがて見た
彼がヒトガタと呼んでいるのは白い鯨のような 人の様な 巨大な生物である
その無数の死骸が島の周囲に散らばっている光景を
男はその死骸と島々と手にしているおそらく地図と思われる羊皮紙を見比べ
しばらく何かを考えている様子だったが
やがて満足そうに口元に笑みを浮かべ
「・・・・・・」
男の体がふいに50センチ程宙に浮き上がりリニアモーターカーのごとく海面を疾走しはじめた
それを追うようにして上空を軍用ドローンMQ-4Cトライトン 2機が飛んで行った
これは...人類が魂を活性化させる術を知ったそう遠くない未来
人類が人類たる理由を知る話 あるものは歓喜し またあるものは絶望するだろう