六話目
「……………………本当か?」
「ええ、本当よ」
「……………………たとえそうだとして、誰から聞いた?」
知り得る者がいるはずもない。……もう、自分に親友、家族、友人、恋人、そんなものはいない。知り得る可能性があるとして警察位だし、警察には個人情報守秘義務があるはず。大体、過去。と言われてもどの程度の過去なのか?
「彼女、貴方が冷たく対応した彼女よ。」
「な、……何故彼女はそんなことを知ってる?」
「…………分かったわ、嘘だと思われるかも知れないけど、説明しましょう…………………………まず、彼女は、本来貴方の義妹となる人だった。」
「……え?…………は?」
「信じられないかも知れないけれど、貴方の両親は離婚し、そして再婚する予定だったのよ。そして貴方の義妹となるはずだった。……それで、貴方は幸せな生活を」
脳が真っ白になり、停止する。……離婚?
……は?、……あの二人は、円満な夫婦で、その子に、僕と、お、おとうと……弟が、いて、……そして義妹?……は?
そうして、僕の脳内に、あの事故に会う前のし、幸せで、あった、生活が。脳内を駆け巡った。
「ふ、…………巫山戯るなぁッ!!、お前に!何が!僕達家族の何がぁ!!分かるって言うんだよ!!!僕は心に傷があった。不登校で、軽い人間不審にも陥っていた、ああそうさ、僕がおかしかった。……でも、僕の両親は、円満で、不登校で、異常な状態の僕さえも受け入れてくれた。必死に、何度も何度も優しくしてくれて、本当に優しく、素晴らしい両親で、弟も気遣って優しくしてくれて、最高の家族だった!!!それが何だ?離婚?冗談と嘘並べるのも大概にしろよ!!!!…………そもそも、あの、あの家族には、僕さえ、僕が、いなければ、良かった!!僕がいなければ、あの家族は死ぬことなく、今を生き続け、幸せで、何で!!僕がぁ!僕だけが生き続けてんだよぉ!!義妹ぉ?幸せ?僕がぁ!何を、な……に、を……してきて、そんなもんを得れるとでも……」
「貴方、がどんな過去を送って来たのかは、私も、完璧には聞いていない。……教えて、語ってくれない?話すことによって、少しは、軽くなるかもしれないから。」
「そんなことはしない!何で貴方なんかに言わなければならない!大体、何故ほぼ初対面とも言える貴方に言う必要があるんだ!」
「嫌、言って頂戴。どうしても言わないと言うならあまり取りたくない手段だけど、私は知っている限りの貴方の過去を皆に拡散するわ。」
「な!?」
「本気よ。私は嘘をついていないわ。」
「…………でも、僕が話しても結局は君は皆に話すことができる、そしたら話さないという保証がない。……更に言うと君が持つ情報が増えるだけであって僕にはリスクにしかならなく、そもそも弱みを握られて良い事なんか無いだろ。」
「その通りね。貴方の言うことは、正しくて、私が話さない保証は無いわね。でも、それでも話してもらう。」
「……無茶苦茶すぎる。僕が本当にそれで話すと思っているの?だとしたら浅慮としか言えないけど。」
「ええ、そう思っている。浅慮だわ。でも喋ってくれないかしら?」
「っつ、巫山戯ているのか?僕の心の土足で踏み込んできて、そして不利な要求を通そうとしてなんだその態度?」
「でも、貴方には話してもらうわ。」
「…………話にならない。帰らせてもらう。」
……トン……トン……トン……トンと静かな屋上に足音だけが木霊する。…………そして、その内の一人が扉にたどり着き、ドアノブを捻る。しかし、その扉は開かなかった。
「…………!?」
そしてもう一人が制服のポケットから鍵を取り出し、
「私はこの屋上の鍵を持っていて、その扉はカギが掛かっていて、唯一の出入り口はそこだけ。私を納得させない限りここからは出られないわ。あ、勿論この鍵は盗んだとかではなくて、きちんと先生の許可をもらって来たわよ。それとも……飛び降りる?」
「…………嘘だ。貴女も一生徒。そんな立場の人物に学校の鍵が任されるはずがない。」
「私は貴方と違ってとても優等生よ?家族の期待に答える為の面倒臭い仮面でしかなく、いじめも受けたけど……親友の為になるなら良かったわ。勿論適当でっち上げてここに来る必要があるようにして、戸締まりの必要性説明だけして日頃の行いで信用は得られるし、先生も納得してくれたわ。……さ、これで理解はしてくれた?話して頂戴、貴方の過去を。」
……僕には、この、鍵を持って微笑んでいる少女が、とても……恐ろしく見えた。
「………………。」
「これでもまだ不安と言うなら、ほら。」
そうしてその少女は小さい機械のような物を渡してくる。
「それには今の……いや、今も会話が録音され続けているわ。それを先生達に持ち込めば私の行動は問題になって、優等生としての信頼は無くなるでしょうね。それじゃなくとも少なくとも私にダメージは与えられるわ。……それと、その機械には編集する機能がついていて、発言をいじれはしなくとも、貴方の発言だけ消してしまって私の発言だけ渡せば私のダメージは増加し、貴方も先生達にこの会話を聞かせる躊躇いも無くなるわ。
どう?これで貴方が話して私に過去を教えて私がこれを拡散しても、貴方はそれを編集して先生達に持ち込めば良い。……そもそも貴方の過去なんて皆対して興味も無いだろうし、そりゃあ話題になるかもしれないけど、貴方がそれを皆にも聞かせれば、そっちの方が話題になるでしょうから貴方の過去の話題は薄まり、皆対して関心なんて無くなるわよ。後、皆信じないかもしれないけど、先生達に確認したら状況証拠は取れるし、この事は信用してもらうしかないけど私は認めるつもりでいるわ。というか、それに今のも入ってるしね。……どう?これで話す必要も、相手の弱点も、自分の弱点が薄まるのも納得したでしょう。……話してくれないかしら?」
「………………一つだけ、聞かせてくれ。」
「何かしら?」
「僕が、ここで話して解放されたとして、その後に暴露する可能性もある。そしたら貴女は今までいじめを受け、苦労して得てきた優等生という立場も失い、少なからず学校から処罰も受けるだろう。…………そこまでするのは何故?」
「何、そんなこと?……そんなこと決まってるわよ。『親友のため。』それだけよ。今までの貴方の対応を聞いて、私が聞いた一部の過去も聞いて貴方の人間性、過去へのトラウマ、感情を読み取って、ここまでの事が必要だと思ったからやった。全ては親友として、私を救ってくれたあの子の手助けをするためよ。その為ならこんな優等生なんて立場、先生や、親なんかからの期待なんて捨ててやるわよ。…………これで満足かしら?」
感情論でしか無いかもしれないが、僕は、そうして微笑んだ彼女を見て、昔、小学校で自分を庇った親友を思い出した。
……ああ、そうだったな、親友とはそういうもの、支え合うものだった。自分や小学校での親友もそうだったな、と。
「…………わかった。話すよ。僕の……過去を。」