第二話
家
「また、朝か……」
また今日が来た。終わるよう願ったのに、来てしまった。
「本当に嫌だ……、と、そうか。そう言えば今日はテストか……。」
テストは楽だ、適当に書いて寝れば良いのだから。普通よりもは楽と言う程度だけど。
そんな存外どうでも良い事を考えながら、僕は、いつもの学校へ行く準備をする。
登校中
そして、いつもと同じくこの人生の意味を考えて、電車を降りて横断歩道を歩いていた。すると、
ドッガァァァァァァン!!!!
とてつもない爆発音が聞こえ、目の前に居た人を巻き込み、熱風が襲いかかる!
「なっ!?ッ!」
驚きながら僕は口を押さえ、爆発方向から全力で離れた。そして、何とか大丈夫な地点まで来ると、
ドッガァァァァァァン!!!!
二度目の大爆発がおき、こちらに熱風は来なかったものの、『恐らく』目の前に居た人だったものが飛び散って来た。
「う……え…うえぇ」
激しい吐き気を感じながら、昔の記憶が蘇って来た。酷い気分と吐き気を感じながら、その記憶から逃げるように、僕はその現場から離れた。
ここで一つ、「僕」の過去を見て行こう。主人公が死にたい死にたい言っている理由の一部が、分かるかもしれない。
今から数年前、僕が、まだ世界に希望を持っていた時だ。その時は……僕は親と僕のいくつか下だった弟と、とある家の近くのショッピングセンターに遊びに行っていた。そうしていたら、突然とてつもない寒気が襲いかかって来た。遠くで轟音と悲鳴も聞こえる。「ああ、死ぬんだな。」そう思った。寒気でまったく動けなかった。膝が震えている。人は死ぬ瞬間に死ぬ事が分かるだとかそう言う話を聞いた事があるけれど、本当だったんだな、と思っていた。走馬灯が蘇って来た。そうして轟音が迫って来ている時に、
ドンッ
背中を押された。誰に?分からない。後ろに居たのは家族だけだったから家族だったのは間違いないと思う。そして僕は「えっ……あっ……」と口走り、そうした瞬間。
『とてつもない轟音が鳴り響き、風が走って僕は吹き飛ばされ、激痛が身体中に走り、僕は気絶した。』
そうして、気絶から目覚めると、鼻が曲がりそうな鉄の臭いに思わず意識がはっきりとした。意識がはっきりとしてくると、目の前の光景が見えて来た。
真っ赤な【血】、
鉄の臭い、
ぐちょ、ぐちゃ、とした人であった『物』
「あ、あああああああ、ああ。」
そんな光景を見た瞬間、吐き気に襲われ、僕は吐いた……胃の中にあったもの全てを吐き出した。そうして行くと少しだけ冷静になり、特徴的に自分の家族ではないと言う事が分かったので、まだ生き埋めにされて居るのではないかと考え至り、僕は立ち上がった。身体に激痛が走るがそれどころではない。痛みに耐えつつ必死に家族を探した。そして……
「え?……あ…………」
そして僕は発見した。してしまった。僕の弟、父、母の死体を。『物』になってしまった家族を。
「………………………………………………………………………………ア。」
そうして僕の意識はそこで途切れた。血にまみれたまま。
その後、目が覚めるとそこは病院だった。全治3ヶ月を告げられたが別にどうでも良い。そんな事より、
「家族は……助かったんですよね?」
脳では理解していた。あり得る筈がないと、あの出血量、身体の損傷では助からないと。でも逃げていた。あれは夢だったのではないかと。現実から逃げていた。しかし、
「残念ですが……お家族は……。」
現実を叩きつけられたらもうどうしようもない。逃げることも出来ない。
「ああ……」
怪我と精神の限界でもうダメだった。僕の意識はそこで再び途切れた。
そこから僕は抜け殻だった。何もかもをなくした僕は趣味や楽しみもなく親が遺してくれたお金に頼りただただ惰性だけで過ごして病院で退院を待って居た。世界に絶望していた。それから数ヶ月たったある日、僕に小さい頃離れた幼馴染みが尋ねて来た。姿形は変わっていたが、そして今の事、そして事故の事、そして思い出等を話した。そしてしばらくして彼女は僕を叱り、家族の分まで人生をきちんと生きなくてはならない、と言った。でも、勿論そんな直ぐに立ち直れはしない。僕はそんな簡単にに立ち直れるか!全てを喪った僕の気持ち何て分からない癖に、簡単にそんな事言うな!!と憤慨し、彼女に八つ当たりをした。彼女はそんな身勝手な苛立ち、もとい行き場のない怒りと悲しみをぶつけられたにも拘らず彼女は僕を抱きしめた。暖かかった。涙が溢れ出てくる。
「っ、ああ、ううっ、ううううう、あああ。」
「甘えて、良いんだよ。辛かったんだから、一人だったんだね。頑張ったね。」
今でも情けないとは思うが、あの時の僕は彼女の胸にうずくまり泣いた。本当に、暖かかったんだ。生きていこう。そう思えたんだ。
そして、僕は病院を退院し、彼女の家で暮らさせてもらった。幾分かお金を払い、生活費にしてもらわせていた。夢にあの光景は出るし、悲しくもなるけれど、そのたびに僕は人の暖かさを感じながら過ごしていた。そうして幸せな日々を過ごすこと一年、もう怪我のリハビリも終わり、春の暖かさが出てきた頃だった。ある日学校が終わり家に帰って来ると、
「ただいッ!?ごほっ!?」
とてつもない鉄の酷い臭いが家中を立ち込めていた。吐き気を押さえながらリビングへと向かう。
赤、赤、赤。
そして幼馴染みがそこに倒れ伏していた。とても生きているとは思えない出血量で、あの時に感じられた暖かさは、とっくに感じられなくなっていた。
「あ、ァァァァァ……あああああああ!!!」
昔の記憶が蘇る、血の記憶が。
「あ……何で?置いて行かないんじゃなかったの?」
そして気づいた。この臭いは一人のものではないと、あの時の記憶で分かってしまう。
そして寝室の方からも酷い臭いがする。
幼馴染みから優しく手を離し、寝室へと向かう、そこには優しくしてくれた幼馴染みの両親も倒れていた。奥から動いている気配がする。この家に居たのは僕と幼馴染みとその両親だけ、間違いなく他人である。なので
『僕はその扉を開け落ちていた血のついた包丁を手に取った。向こうは逃げる準備をしていたようだかこの部屋は行き止まりである。そして返り血がついている犯人の下へと向かい、そのまま包丁で突き刺した。』
そして腕を切り落とした所で刺すのを止めた。八つ当たりである事は分かっている。でも、
「あ、はは、」
多分その時の僕は狂っていたんだろう、そのまま狂えたらどんなに楽だった事か分からない、しかしそこで幼馴染みの言葉を思い出した。
家族の分まできちんと生きなくてはならない。
その言葉を思い出して僕は正気に戻り、糸が切れたように膝をついた。
「ううっ、うああああああああああ!!!」
僕は泣いた、心の底から。
今日、僕は、本当に、
全てを喪った。
あれから僕は幼馴染みの言葉に反し、世界に絶望した。そして思ったことは、
“死にたい”
死んで楽になりたい。皆と会いたい。幼馴染みに怒られるだろうけれど、死にたい。そう思えた。自分の人生はこういうものだったんだと。そして僕はそれからたったある日、飛び降りた……今でも思う。それで死ねれば良かったなと。結果は骨折。死ねなかった。
治ってからも、その瞬間に思い出した血の記憶を思い出し、死ぬのが怖くなった。でも、死にたい。その相反する感情に、自分でも矛盾しているな。そう思えた。