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青いフラミンゴ

作者: 朝野ひかり

フラミンゴは好きですか。3年前くらいに書いた作品です。

 あるところに青いフラミンゴがいた。

 ピンクのフラミンゴが全身ピンク色であるように、彼も嘴から羽根の先っぽ、足の爪まで青色なのだ。

 遺伝子の何処がどう突然変異したのかは分からないけれど、それはとにかく綺麗な青色だった。


 ところで、普通のフラミンゴの本当の色を知っているだろうか。

 実はピンク色ではない。白いのだ。

 白い成鳥のフラミンゴというものを中学生の頃どこかの動物園で見て、僕は初めてその存在を知り、衝撃を受けた。

 色のついていない彼らはそこらの河の真ん中で魚を探していても見過ごしてしまいそうなほど全く特別でない地味で大きな鳥だった。

 本来ピンクが正しい色だと思っている頭があると何かが間違っている、という感覚に陥ってしまう。

 ピンク色がエサによる偽りの体色だとその後調べて初めて知ったのだが、それを知っている今でもあの白くてでっかいだけの鳥をフラミンゴと呼んで良いものか悩ましい。


 この感覚は美人なのと上品なので人気者だった高校の担任が、僕が夜勤で入っていた深夜のコンビニに摺り切れかけのジャージとすっぴんで現れて、はれぼったい一重の目で日本酒とおつまみを物色しているのを目撃してしまったときに再び現れた。

 あの先生は間違いなく先生自身であったが僕が憧れた先生ではなかった。

 おそらく先生の方だって生徒にそんな自分を見せたくはなかっただろうし、僕の方だってそんな先生を見たくはなかった。

 努力は認められるべきだけど、それ以上にはなれないし修正ペンのラインからはみ出た黒い線はやっぱりきれいではない。


 でも、知らなかった頃には戻れない。

 みんなのアイドルだったあの先生と同じように、僕の中でフラミンゴはピンクの化粧をしていなければならない存在だったのだと思う。

 だから僕は青いフラミンゴが好きになったのだ。

 調べたところ、野生のフラミンゴが可愛いピンク色でいられるのは彼らがいつも食べている藻類やプランクトンのおかげである。動物園のフラミンゴたちはそれらの食物に含まれる魔法の成分、βカロテンやカンタキサンチンが配合された飼料を食べているのだ。

 彼らを白くてでっかくてボーッと片足立ちをするだけの鳥から綺麗なサーモンピンク、トロピカルなイメージでどこか愛嬌のある動物園のそこそこな人気者に変身させるメイクを施しているのが単なるエサであることを知ったとき、まだ幼かった僕は少なからず驚いた。

 そして華やかさを偽りきってくれなかったフラミンゴに恨みがましい気持ちを覚えたものだった。


 青いフラミンゴの話に戻ろう。彼の色は本物だった。餌に左右されたりしない、努力でも習慣でもない生まれついての青色だった。   

 つまりは才能だ。

 それが幸せなことだったか不幸せなことだったのかは彼自身にしか分からないと思うけれど。

 彼が生まれたのはN県にあるとある田舎の動物園で、彼が生まれたとき、飼育員のおばさんは自分の目が変になったのかと思って最寄りの眼科に駆け込んだらしい。

 続々と卵から出てくる白いフラミンゴの雛鳥達の中で一匹だけ青いやつがいたら誰だってびっくりするだろう。長年雛を返して来たおばさんだって青いのは初めてだったんだから。

 そして彼の青にも確かに、青であることが当たり前なのだ、白いはずのフラミンゴの雛が青く見える自分の目の方が間違っているのだと納得させてしまう魔法の力のようなものがあった。地元のニュースから全国的な話題となった時も彼の青は正当性を湛えてテレビや新聞の写真に写っていた。

 僕はこのときちょうど県外の動物園で白くてでっかいだけのフラミンゴを見てフラミンゴという存在に失望した直後だったから、このニュースを聞いてひどくうれしい気持ちになったのを覚えている。

 孔雀の羽根が玉虫色であるのが当然であるように、彼の羽根は青色であることが当然であるように見えた。だから、彼はみんなを少しだけ不安にさせた。だって彼を見れば自分の感覚の正しさを疑わずにはいられなかったのだから。

 それでもやっぱり人間達は珍しいフラミンゴの誕生を喜び、彼のスカイブルーを賞賛した。

 彼のような事例は今まで全く報告されていなかったから科学者達は大喜びで研究に乗り出そうとしたし、たくさんの動物園がお金を積んで彼を買い取りたがった。

 結局生まれてまもなく、彼は一番よい値を提示してきた都会の有名な動物園で飼育されることになった。

 飼育員のおばさんは気のいい女性で青フラミンゴを他の雛たちと同等に扱いかわいがっていたので、彼が自分の手を離れていくことを残念がった。

 彼の方も写真を撮ったり彼のことを見て騒いだりしない(最初以外は)彼女のことが一番好きで懐いていたようなので、会えなくなった後は少しだけ彼女を懐かしく思うこともあるいはあったのだろう。

 引っ越しが決まったのは彼の仲間の雛達がピンク色になるための餌を貰い始めるより前、つまり母フラミンゴのくれるフラミンゴミルクを飲んでいるようなお母さんのことしか見えていない頃だったから、彼のことを覚えている仲間がいるかは怪しいところだ。

 さらに、人間界でも時々そういうことはあるが、彼の母フラミンゴは特異的な彼のことを受け付けようとしなかった。いわゆる育児放棄というやつだ。

 彼は結構ボーッとしたタイプのフラミンゴだったので(これは青フラミンゴには幸いなことだったと思うのだが)母親から愛されないことを苦に思うことはなく、ただ単にちょっぴり胸の奥で何かが蠢いて、彼もそんなに彼女のことが好きになれはなかっただけのようだった。

 要するに他の動物園に移る前から彼の身寄りと言えるのは飼育員のおばさんだけで、引っ越しのせいでそのおばさんからも遠く離れたところで生きなければならなくなってしまったのだった。元々世界にただ一匹の青フラミンゴである彼はさらに孤独な生き物になった。

 

 彼が引っ越した動物園はU動物園と呼ぶことにしよう。

 そこで彼は他のフラミンゴ達のお隣に一人暮らしの檻を準備された。

 飼育員が他のフラミンゴと同じ餌を食べさせることによって青フラミンゴの色に影響が出ることを恐れたからだった。

 彼だって青いフラミンゴなんてものを世話するのは初めてで、世界初の試み、という新聞の煽り文句はまだ若い彼をひどく慎重にさせた。

 配慮は厳重で、青フラミンゴはVIP扱いを受けた。

一週間に一回は体調管理のための専属獣医達による定期検診を受けて薬を飲み、栄養のたっぷり摂れる美味しい餌を食べて、常に清潔でいられるように水浴び場の水は掛け流しで、檻は空調完備、ストレスがないように広々として壁には有名な写実画家が描いた熱帯の草木やたくさんの青いフラミンゴの絵や、加工して青色にしたフラミンゴの映像を流し続ける大型テレビもあった。

 檻の外で騒ぐたくさんの見物人や時々羽毛を引っこ抜きにくる研究者や、檻の隅で二十四時間稼働している監視カメラのことを考えなければ、まだまだ子フラミンゴであった彼はたっぷりのご飯と暖かな寝床と楽しい水浴びを独り占めできることに満足して概ね幸せに暮らしていたらしい。何故自分が隔離されているのかについて考えるほど周りが見えていなかったのだ。

 しかし、ひとりぼっちの優雅な生活が楽しかったのは最初のうちだけだった。成長してくると隣の檻が気になり始めた。そこでは雄のフラミンゴも雌のフラミンゴも大人も子供もみんな一緒になって暮らしていた。楽しそうにおしゃべりを交わし、子供を育て、同じ魔法の餌を食べて笑い合っている。何故自分は一人なのだろう。そう思うたび彼は知らない間に青いふさふさした羽毛に顔を埋めて目を閉じた。

 ぼんやりした彼の心の中には楽しそうなピンクではなくて寂しそうな青の空白がいて、分からないの?と首をかしげていた。

 ある日、同じピンク色のカップルフラミンゴが仲良くひなたぼっこをしているのを見て、鈍い青フラミンゴもとうとう気づいてしまった。

「僕だけ色が違うから?」

 そう思って他の動物たちを見てみれば、同じ柵の中にいる集団はみんな同じ色をしていた。

 横のフラミンゴたちはピンク色だし、ゾウは灰色だし、豚は薄桃色だし、狐はオレンジだ。ゴリラは真っ黒でパンダはみんな白と黒。逆に考えれば同じ色の動物たちは仲間同士一緒にいることができるということなのかもしれない。

 自分の色なんて気にしたことはなかったけれど、確かに彼と同じ色をしたフラミンゴに出会ったことなんてなかった。

 彼の仲間はきっとここにはいないのだ。

 そう考えて彼はすっかり元気をなくしてしまった。

 ここ、とは動物園の中の彼に見えているごく狭い部分だったけれども、ここ、は彼にとって世界のすべてだったから。

 ご飯をあまり食べなくなり、痩せてきた彼を見て、人間達は慌てた。

 高値で買った青色フラミンゴがこのままでは死んでしまうかもしれない。実はお金をかけた割に研究の方もこれといって成果が出ていなくて、彼を買い取ったお金、彼を特別扱いするための費用と相まって動物園は結構な額の損失を出していた。彼を見に来る来園者のチケット代なんかでは埋め合わせができない大きな額だった。

 彼がこのまま死んでしまえば何も成果が残らないどころか、負債と世間からのよくない評判を背負ってしまうことになる。U動物園にだって有名動物園としてのプライドがあった。

 動物園の経営陣は対策のために会議を重ね、フラミンゴを獣医に何度も診断させたけれども特別な病気は見つからない。日増しに弱っていく彼にみんなは頭を抱えたが、ある日フラミンゴの飼育員が気づいた。青フラミンゴはいつも隣の檻を憂鬱そうに眺めてはため息をついている。

 もしかしたら彼は仲間がいないことをさみしがっているのかもしれない。

 飼育員の閃き的な報告によって、フラミンゴは急遽実験的に隣の仲間達の檻に移された。最初他のフラミンゴたちは彼のことを遠巻きに見ていたのだけど、何せ彼らも食物によって染色された自分たちの色について、目に見えている部分の重要性と不必要性について承知していたので、こんなやつもいるのかくらいにしか見た目に関しては気にしていなかった。

 都会のフラミンゴが情報通で珍しいものに対する柔軟性を持っていたことは彼にとって良いことだった。幼い頃に仲間と引き離され、田舎フラミンゴの育児放棄にあった彼は初めて他のフラミンゴ達と交流するチャンスを持つことができたからだ。

 檻に入ってしばらくするとだんだん彼の周りに老若男女様々なフラミンゴがやってきて、挨拶がてら質問をした。


これからよろしく、気分はいかが?

名前はなあに?

同じ言葉を話せるようだな。どこから来たのかね?

身長はいくつ?何歳なの?

痩せっぽっちじゃないか。何を食べていたんだい?今日の餌はおいしいよ、いっぱいお食べ。

その色、羨ましい!青色になれるご飯もあるのかな?

あっちの檻には天井があったでしょう。お日様が見えないと気が滅入らない?

僕らのピンクと君のスカイブルーって相性が良いみたい。君の故郷では、みんなその色なの?

気になる子見つけたかい?あの子はだめだよ、僕んだから。

綺麗な青ね。晴れた日の空みたいだわ。

 

 勧められたご飯を食べながら最初から最後まで耳を澄ましていたが、君は何という動物なんだいという質問が聞こえてこなかったことは彼を安堵させた。単に色が違うだけで同種であると認識されているらしい。

 質問はほとんどが興味本位のものばかりだったけれど、中にはU動物園のフラミンゴ共同体に初めて入ってきた彼のことを受け入れ、気遣うこと示す気を利かせた内容のものもあった。色が違っても、彼はフラミンゴ共同体において市民権を持つことができたようだった。

 彼は専用の檻にいたとき大型テレビで日本の動物園のフラミンゴ語を一応学んでいたし、ボンヤリはしていたが頭はたぶんフラミンゴの中でもけっこう良い方だった。

でも、答えられない質問も多かった。

なんせずっと一人ぼっちで名前を呼んでくれるフラミンゴもいなかったし、彼はいつも唯一の青フラミンゴだったので名前なんて必要なかったし、背が伸びたのを測ってくれたり小さいときから誕生日を覚えて年を数え続けていてくれるのはきっと他のフラミンゴなのだ。

 彼に関しての質問の多くは自分のことなのに他の人が最初に教えてくれないと分からない概念や自分一人では知ることができないようなことに関するもので、他のフラミンゴたちは仲間達の中で育つ生活の営みの中でそういうものを当たり前に持っているし知っているんだなということを理解した。

 それらはなんてことない情報の束であるくせに、共同体に途中から入った彼には決して得ることのできない特権のように思えた。まあ、ただ単にぼんやりした性格のために答えられない質問も多かったのだけれど。

 結局質問の嵐の中で彼が答えられたのは、今日の気分と出身動物園と自分以外の青フラミンゴを見たことがないということだけだった。


 ともあれ、彼は共同体の中で生活を始めた。仲間達と仲良くなれば、それは楽しいものだった。一人ではないという安心感のおかげでご飯を食べられるようになり、体調もよくなった。

 人間達は彼の回復を喜んだが、同時に唯一の青フラミンゴを失う時に生まれる莫大な損失にも気づいてしまった。生き物なんていつ死ぬか分からない。彼らは青フラミンゴの繁殖について考え始めた。

 彼の遺伝子の何処がどう特別なのか結局のところ研究したどの科学者にも分かっていなかったので、相手の選び方は獣医と飼育員に頼るしかない。青フラミンゴももう年頃だったしフラミンゴの檻には年頃の乙女フラミンゴが何羽かいたから、そのまま檻にいれば自分でいい相手を見つけるだろうというのが獣医達と飼育員の一致した意見だった。

 そして、それは正しかった。

 青フラミンゴは初めての恋をしたのだ。相手は青フラミンゴの色を褒めてくれた若いフラミンゴだった。彼女のことには別々の檻にいたときからよく目がとまっていて、姿勢の良い子だなと思っていた。

 恋には予感がある。

 恋とは表面上の意識とは無関係に、始まる前から何らかの前兆を伴ってそのときを待っているタマゴのようなものなのだ。

 彼の場合、そのタマゴが割れたのは彼女が彼のことをまっすぐに見つめた瞬間だった。幸いなことに彼女の方も青フラミンゴに好意を寄せてくれていたようで、二人はめでたく結ばれた。 

 彼女はとても優しくて、賢くて、彼が今まで教えて貰えなかったことをたくさん教えてくれた。彼女といる間、彼は自分の中の青い空白について考えを巡らさずに済んだ。もう一人ではないはずなのに、瞼を閉じれば今でもあの青はすぐそこにいたのだった。

 それでも、愛する人ができて彼は幸せだった。彼らのタマゴ(フラミンゴは普通一度にひとつのタマゴしか産まない)が割れる待望の瞬間は、園長、飼育員達、青フラミンゴ専属の獣医達、みんな揃って見守っていた。テレビ局のカメラや、新聞の記者達もいた。果たして、生まれた子供の色は。

 真っ青。彼と同じ、見る人を不思議に不安な気持ちにさせるスカイブルーだった。

 動物園の関係者は踊り出さんばかりに喜んだ。運によるところが大きかったとはいえ、これで彼らは青フラミンゴの飼育、繁殖に初めて成功した動物園になったのだ。もっと増やすことができれば、ちがうビジネスも展開できるようになるだろう。そうほくそ笑む老獪な園長と、孤独な青フラミンゴの恋路を見守ってきた若く純粋な飼育員が手を握り合い一緒になって喜んでいるのはなんだか滑稽な光景だった。

 テレビや新聞でもこのことは大きく取り上げられ、たくさんの人が真っ青なフラミンゴの雛を見に来た。子供の名前を募集するついでに、飼育員は彼の名前も募集してくれた。今までは名前なんて必要なかったがこれからは必要になる。

 

 名前の募集と投票の結果、よく晴れた日の昼下がり、彼の名前はC○○○、子供の名前はM○○に決まった。どちらも彼らの色にちなんだ名前だった。名前を貰った日、彼はこれからについて考えた。彼は彼の子供に、彼がして貰えなかったことをしてやることができる。毎年の誕生日を祝ってやることも、彼の身長の伸びをはかってやることも、一緒に水遊びをしてやることも、餌の上品な食べ方を教えてやることも、彼が大きくなった時には恋の相談に乗ってやることも。そう思ったとき彼の目には涙があふれた。今まで誰も、一番大事な存在になった彼の奥さんにでさえどうしようもできなかった胸の奥の空白を、この時初めて遠い場所に追いやれた気がした。彼はもう一人ぼっちの存在ではないのだ。

 喜びが胸にあふれてきて彼は思わず空を見上げ、そして息をのんだ。

 今日の空はことさらに青かった。その青は彼を不安にさせた。こんなに青いなんて何かが間違っている、おかしい、そう疑わせるような色。

 つまりは、彼の色そのものなのだった。

 刹那、彼は喜びが海に戻ってゆく波にさらわれる砂浜の上の小さな貝殻みたいに頼りなくどこかに消えて、再び空白がすさまじい勢いで戻ってくるのを感じた。目を閉じずとも空白は彼の目の前に現れ、何かを問いかけるようにあてどなく漂っていた。彼がためらいながら近づこうとするとそれは逃げるように浮き上がり、そのまま昇って、昇って、空の青と同化した。

 考える暇もなく、彼は青を追って飛び立っていた。最初彼が育った檻には天井があったので、人間達は彼の風切羽を切り取るのを忘れていたのだ。彼は空に紛れて高く高く高く飛んでついには見えなくなり、そのまま戻ってくることはなかった。

 

 青いフラミンゴの話はここまでだ。一番最初の彼についての話は。

 途中には僕の妄想や感想も入ってしまったが、突然生まれて突然どこかに行ってしまった青い最初のフラミンゴの生涯については、こんな感じで語られている。何故こんなに詳しいのかといえば、今の今まで彼についての資料を眺めていたからだ。

 今僕は彼の故郷N県の動物園のフラミンゴの檻の前に立っている。僕の実家もこの近辺にあったので、小さい頃から通っていた。まだほんの雛だった彼を見るためだけに足を運んだこともあった。大きくなった今でも時々今日のようにふらりと立ち寄ってみる。(ちなみに、U動物園にも一度だけ彼を見に行った。)彼がいなくなった日の実際の天気を僕は覚えていないけど、きっと今日みたいな青だったのだろう。

 檻の中にはたくさんのピンクのフラミンゴに混じって彼の子孫に当たる青いフラミンゴが何匹か見える。

 もちろんみんな風切羽はもう切り取られていて、彼のようにどこかへ飛んでいくことはできない。彼の子供Mは子宝に恵まれたので、その中から数羽この動物園に贈られたのだ。彼の青い遺伝子は優性だったようで、子供は全部青色、その子供の子供達もみんな青だった。今のところはまだピンクの地に青が散っている抽象絵画のようだが、この調子で増えれば青いフラミンゴはそれほど珍しいものではなくなってしまうのかもしれない。あるいは彼も今生まれていたらどこかにいなくなったりしなかったのではないだろうか。ピンクと青は同じ檻の中で奇妙な調和具合である。僕を失望させた努力のフラミンゴ達と、僕を感動させた青いフラミンゴ達は仲良く一緒に水浴びをしていた。

 

 あのフラミンゴがどんな気持ちで青空の中を飛んでいったのかは分からない。もしかしたらそんなのは作り話で、曇り空の中を誰かに連れ去られてしまったのかもしれない。でも、僕があの青いフラミンゴについて考えるとき、彼はいつでも青い空の中で青い仲間達とくるくると飛び回っている。そしてさみしいような悲しいような、今の空みたいに空っぽな気持ちになるのだ。


                                                                                                                                                                                                                                                                                                   


これを書いたときわたしの考えていたことが、皆さんになにかかけらでも伝わって、頭の端っこで考えていただければ幸いです。

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