プロローグ
最後の荷物を詰め終えた。
これで、後は逃げ出すだけだ。
真夜中の部屋、他のベッドではみんなが寝ている。
起こさないように抜け出さないと。
私は忍び足で一人一人のベッドに近づいた。
「今までありがとうね」
今まで一緒に育ってきた姉妹たちに声を掛けていく。
ここは孤児院。
15歳になったら出ていかなければならない。
私は事情があって規定よりも早くここを出るけれど。
みんなが私の家族だということは変わらない。
お別れはできないけど、怒らないでほしい。
名残惜しさを感じながら、私はドアへ向かう。
ギィと音がなり、ドキドキしながら真っ暗な廊下へ出た。
私は暗闇が苦手だ。
だってお化けが出るかもしれないじゃない?
私はゆっくりとドアを閉めると、左の掌に力を込めた。
淡い光が周りを照らす。
しかし、廊下を照らすほどの光は無かったようだ。
足元周辺しか照らされない。
でも、歩き慣れた廊下だ。
別に先まで照らされなくても歩ける。
私は足音を立てないように気をつけて歩いた。
隣の部屋の男子たちに気づかれては意味がない。
なんとか階段までたどり着くと、キシキシ鳴る階段を一歩ずつ進んでいった。
この音で先生が起きなければ良いけど。
階段がなる度に心臓がドキドキする。
こんなに緊張したのは初めてだ!
私は妙な胸の高鳴りに任せて爪先から軽やかに階段を降りた。
気をつけても気をつけなくても音はなる。
もう仕方ないだろう。
とにかく早く院から出ないと。
階段を下りきると、いつもご飯を食べている食堂だ。
今は真っ暗だから見えないけど、とっても懐かしい。
なんとなくご飯の香りがするような気がして、じわりと涙が浮かんだ。
本当にもう出ていくんだな…。
物心ついた時には、私はもう院の子供だった。
教会のお姉さんがいつも来てくれて、お菓子を作ったりお絵描きをしたり来てくれた。
今はもう私も遊んであげる側だ。
懐かしいなあ。
ここから先生の部屋はとても近いので、一番気をつけて歩く。
先生は地獄耳だ。
ちょっとの物音でも起きてしまうかもしれない。
そして、イタズラかと思って見に来るんだろう。
ああ、懐かしい。
いや、感傷に浸っている暇はない。
今バレてしまったら、大きい教会に仕えるはめになるのだ。
絶対に嫌だ。
本当は先生に挨拶していきたいんだけど。
一番会いたいのは先生なんだけど。
でも、将来の夢には変えられない。
今すぐにでも院を出ないといけないんだ。
私は懐から手紙を取り出して、食堂の机の上に置いた。
みんなへの手紙と、先生への手紙だ。
これで思い残すことはない。
私は真っ暗な部屋を後にして、外へと向かった。
ドアは夜の静けさの中で大きく響いた。
ひんやりとした夜の冷気が漂ってくる。
孤児にはしっかりとした服なんてない。
薄っぺらいものしか与えられないから、結構寒い。
まあ良い。
外に出られたんだ。
とりあえず隣町に向かおう。
この町にいるとすぐに見つかる気がする。
まず、私が家出なんてしなければいけなくなったのは深い理由がある。
先日行われた魔力判定の儀式でのことだ―――