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妖精眼のパンドラ  作者: 文車
藤崎君の業務観察
43/98


 こんにちは。今日は部門代表のクロードさんについて書きたいと思います。

 といっても、クロードさんのことははルカさんの方がよく知ってるんでしょうけど…。僕がルカさんにお手紙書いてることをクロードさんにばらしたせいですよ。なんで言ったんですか。恥ずかしかったんですからね!?

 「アタシだけ仲間外れにしたら拗ねちゃうからね~?」って言われたんですよ。怒られはしませんでしたけど、恥ずかしい以外ありませんよ、ほんと!

 え~と……。それで、クロードさんは“パンドラの檻”の代表です。年明けまで【輪】の本部に詰めてたようですが、イギリスでの任務が入ったのと同時に部門に戻ってきました。一回彼宛に結界の申請をしたことはありましたが、直接お会いしたのは任務の時です。なので一緒に働くようになってからは三か月ほどしか経ってませんが…今のところ、うまくいってるのではないかと思います。

 いえ、うまくいってる、というより、そういう環境を作ってもらえてる、と言った方が正しいかもしれません。

 実際のところ、この部門に来た頃はまあまあ不安でしたよ。そりゃ説明ほとんど無しで放り込まれればそうなりますけどね?それでもって、いつもなら三人だけど今は事情があって二人、と聞けば、顔も名前も知らない部門代表がどんな人なのか不安になりますよ。はい。

 最初はどうしてこの部門は人が少ないのか知りませんでしたけど、事情を知ればとりあえずの理解はできました。その上で、あのお二人の上司にあたるクロードさんはどんな人なのかなって考えてたんですよ。僕の最初の予想は、エリートサラリーマンみたいな人か、ブラッ○クローバーのヤミ団長みたいなムキムキゴリゴリな人かと思ってました。

 そうしていざ会ったら男性なのにロングの似合うイケメンだったとか、僕の心労を返してください。…話は逸れましたけど、そういうイメージを裏切って、クロードさんは接してきてくれたんです。魅了の件はありましたけど、クロードさんは「環境」を作るのがとても上手なんだな、と。

 クロードさんとの初任務が終わってから日本に戻ってきた時も、そう感じた事があったんですよ。

 クロードさんが戻ってくる前も、部門内が気まずいとか、そういうのはなかったんですが。会話が少ないというか、雰囲気が落ち着きすぎてる感じがしたんですけど。クロードさんがいると、竹中さんは結構話すんです。ウォルフさんはそんなに変わらないんですけど、なんだかこう、その空間全体が暖まってるようになるんですよね。

 なのでとてもお話がしやすいですし、自分で言うのもアレですがそこまでビビりではなくなったと思います。


「部門の代表って、具体的にどういうお仕事をされてるんですか?」

 部門に寄せられた依頼、その報告書と記録をまとめていた土曜日の午後。ふと浮かび上がった率直な疑問に、クロードはサインの手を止めた。

「ん~~……。代表っていっても、中間管理職よ。常駐部門といっても出張はあるし、上から任務が下ることとか依頼を持ち込まれて部門員が他所に行くのも少なくはないけどね。任務もその部門の能力から見てよっぽどの見当違いなものじゃなければ断れないし。だから、部門員の適正とかをみて仕事を割り振るのが仕事…かしら」

「割り振り…?」

「うん、うちが人いないだけで、他所は五人くらいはいるはずよ。でも、去年の吸血鬼の件もそうだったと思うけど、現場の権限は大きい。敵対した相手の生き死にもそこに含まれる程度にはね。だからまあ…」

 クロードは優一に近付くよう促すと、大きな声では言えないけど、と前置きし、

「部門員の制御も、代表の必須事項ね」

 と言った。

「ああ…」

 決して非常識ではないが、「点」でそこらの認識がそれぞれ異なる二人だ。もし同情のしようのない犯罪者が現れて彼らを刺激でもしたら、抑えがなければどうなるか分からないだろう。無闇に傷つけたり殺したりしない人だと分かっていてもだ。

「そうだ、優一君は情報部にいたのよね?【妖精の輪】にも情報部門はあるけど、連携とかしてたのかしら」

「あー…。その、守秘義務の範囲でならお話できますけど、それでもいいですか?」

「もちろん。困らせたいわけじゃないもの」

 優一は安心したように表情が明るくなると、【右筆】の情報部にいた時のことをはにかみながら話し出す。

 【妖精の輪】がこれまで現世で観測してきた事件や現象、その全てを最終的に保管しておく「保管庫」の勤務だったこと、保管庫の中で【輪】以外の組織の記録も閲覧したことがあったこと、時間のある時は魔力世界で「物語」にもなった人物や事件の記録をずっと読んでいたこと……などなど、話していると存外自分は沢山の知識に触れていたのだな、と優一は再認識する。

「そういえば百鬼夜行の観測記録もあったんですよ」

「えっ、こっちで!?」

「はい!映像も残ってました。ほらあの、この前金ローでやってた『平成狸合戦ぽ○ぽこ』、あれの百鬼夜行のところ!ほんとあんな感じでしたよ!」

 楽しそうに頬を上気させる優一の話を聞きながら、クロードは何かを思案するように薄目を開ける。

(知識はある。記憶力も。……けれど、まだ肌には馴染んでないのかしら。そろそろ、ちゃんと分けたほうがいいのかしらね)

「クロードさん?」

「いえ、なんでもないわ。…あ、まず。ちょっと急がなきゃ」

「あっ、す、すみません!」

「いーえ、全然いいの。また後でお話しましょ?」


 クロードさんと沢山お話をした日になりました。締め切りに大分余裕があるので、業務記録は直接そちらに持っていきますね。それでは。


* * *


――【右筆】日本支部、情報部

「ふんふんふん…。いやー、本当に楽しそうにやってるなあ。よかったよかった」

 ルカはコーヒーを飲みながら楽しそうに優一からの手紙をめくる。ちくりちくりと刺される部分はあるけれど、それは否定もなにもしようがないので甘んじて受けるが。

 どれ、早速また返事を書こうか。そうして紙を出そうと引き出しに手をかけたが、なんとはなしにその手が止まる。

 そしてルカは紙の入った引き出しではなく一番下のファイルが整然と詰まった引き出しを開けると、指でざっと中を上から確認しつつ目的の封筒を引き抜いた。

[夏季休業中の臨時講習について ――学院]

 「藤崎優一様」と書かれているそれは、間違いなく優一宛のものだ。これは別にルカが手を回して優一の現在の住居に届かないようにしているわけではなく、ルカが優一の身元保証人であるため彼の所に届いただけである。

 ルカはその文字をじっと見つめる。眼鏡越しのその目は伺い知れないが、やや長い息を漏らすと右手側に封筒を置いた。

 その時、部長室のドアがノックされる。どうぞ、と入室を促し、訪問者とフランクにやり取りをし提出物を受け取ると、ルカは「ああ、そうだ」と封筒を手に取った。

「君に【学院】からの夏期講習の招待状が来ているんだが。どうだい、行ってみる気はないかな?」



(了)

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