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脳内ビブリオ  作者: 半月 諒
1章 不思議の図書館のアリス
6/10

少女


 少女がベッドに横たわっている。真っ白い部屋に、真っ白な布団をかけられて、真っ白な病衣を着せられて、無機質な人工呼吸器をつけられて、彼女は静かに眠っていた。俺はその横に立ち尽くし、ただじっと彼女にかかっている布団が、呼吸に合わせて規則的に上下するのを見ていた。

 そっと彼女の顔に手を伸ばし、頬に触れる。すると、彼女の顔が、俺の手のほうにわずかに動いた気がした。その柔らかな感触を確かめるように、俺はできるだけ優しく彼女の頬を撫でた。


 そして、無機質な高音が部屋中に響き渡る。


 側に置かれた機械には、ゼロの表示とピクリともしない直線。


 守らなきゃいけない。

 何に変えても。



          ※



何かが額に当たっている。少し冷たくて、柔らかい。感触がとても気持ちいい。このままずっと触れていたい……


「ずっと、いっしょ」


 鈴のような声がした。俺はゆっくりと目を開ける。

知らない天井だ……


「大丈夫?」


 俺はその声にハッとして飛び起きる。目の前にはさっき俺に噛みついた美少女がいた。額に感じていたものは、どうやら彼女の手らしい。俺が飛び起きた反動で手が上がったままになっている。彼女は俺のことを見ると、言った。


「……泣いていた」

「えっ……」


 頬に手を当ててみると、確かに濡れていた。


「あ、はは……ちょっとだけ見たくない夢を見ていたみたいだ」

 夢の記憶なんて、すぐにあやふやになる。さっきまで見ていた夢も、すぐに像が曖昧になって、思い出せなくなってしまった。

「そう……」


 こくんと頷くと、少女は俺の腕に自分の腕を絡めてきてって、


「ちょちょっと!? なに!?」

「寂しいときは、ギュッとする」

「いやいや、いや、いやいや」


 動揺を隠せない。


「ずっと、いっしょ、だから」

「いやいやいや……だからといって知らない男の人にこんなことしちゃダメで……」

「ワタルは、特別、でしょ?」

 

 特別って……っていうかなんで俺の名前知ってるんだ……


「でも、よかった。あんなことがあったけど、ワタル、元気そう」


 あんなこと……?

そうだ、俺はさっきまで真っ白くて馬鹿でかい図書館にいて、地面に埋まって、よくわかんないけど助けられて、そして……足を失った……そうだ、足を失ったはずだ。ぱっと自分の足を見てみる。市販の包帯でぐるぐるに巻かれていた。包帯には少しだけ血がにじんでいて、正直、治療としては心もとない。足を動かそうとしてみる。すると足に激痛が走った。叫びたくなるほど痛い。


「浸食がひどい。私の免疫は、かなり、強力」


 彼女はきれいな銀髪を揺らしながら話す。彼女の頭はちょうど俺の肩あたりにある。髪が光を反射して七色に輝いて見える。


「免疫? 何のことだかさっぱりだけど、本当に痛い……!」

「足がない。痛いのは当然」

「きゅ、救急車を呼んで……!」


 病院で治療をしてもらわないといけない。まったくもって詳しくはないが、止血やらなにやらとやるべき治療がきっとあるはずだ。


「大丈夫。わたしが治す」

「君が……? 治すってどういうこと?」

「君、は、やめて」

「じゃあなんて呼べばいいかな?」

「アリスで、いい」


 会って間もない女の子を呼び捨てか……だが、今は一刻を争う。何せ足がポロリともげているのだ。細かいことは後回しにしよう。


「じゃあアリス、治すってどういうこと?」

「そのままの意味。私が能力で、治す。完全に」


 そう言うと、少しばかり自慢げに胸を張る。


「完全に? 無くなった足を? どうやって……? 生やしでもするの?」

「見てからの、お楽しみ」

「そんな不安感しか残らない治療説明はじめてだよ……」


 どんな治され方をするのかわかったもんじゃない。


「早く、しよう」

「ちょっと待って、やっぱり何をするのか簡単にでいいから説明してよ」

「早く……」

「いや、説明を……」

「やっておいてもらえ、少年」


 横の方から急に声がした。振り向くと、開けっ放しになっているドアからクロガネさんが入ってきた。


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