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脳内ビブリオ  作者: 半月 諒
1章 不思議の図書館のアリス
3/10

図書館①

 小日向書店の店内は客が利用するフロア(フロアというカタカナ表記がなんともミスマッチな古風な空間ではある)と業務員のみが入れるフロアに大きく分かれている。レジの奥にある扉からその業務員用スペースへと行けるらしい。

 クロガネさんはレジ前の段差や扉の前の短い階段をひょいひょいと上り、軽くジャンプしてドアノブを掴み、立ち入り禁止と張り紙された扉を開けた。かなり手馴れている。

 扉の先にはものすごく長い廊下があった。明らかに外から見た時の建物の長さよりも長い。そして扉が多い。


「この廊下の突き当りを右に曲がって正面にある部屋で待っててくれ。私は少しばかりやらなきゃいけないことがあるんだ」


 それだけ言うと彼はすぐ手前にある扉の中に消えていった。

 廊下をゆっくりと歩く。横にはいくつもの扉がある。どれも似たような形をしていて、かなりシンプルなデザインをしている。すべての扉にネームプレートを差し込むための金具が取り付けられていて、本屋になっているスペースに近いほうの扉には“文庫”や“歴史書”といった本屋らしいネームプレートが付けられている。さらに奥に進んでいくとネームプレートが付けられていない扉ばかりになった。


「ざっと数えても二十部屋はありそうだな……」


 とりあえず廊下の端まで歩いてみた。振り返って見てみても、やっぱりかなり長い。間取りがどう考えてもおかしい。


「さっき見た大通りに突き出てるぞ、これ」


 ふと後ろを見ると、少し、いや、かなり大きい扉があった。廊下の突き当りに位置する扉で、さっきまでの扉とは全く違う形をしている。


「なんか、西洋風? って感じだな……ドアノブとか装飾とかめちゃくちゃ凝ってるし」


 扉の表面に金色のプレートがネジで留められている。プレートにはアルファベットで何か彫られていた。


「んーと、なになに……びぶりお……てっく?」


 確かビブリオって図書館のことだったか? 本屋の奥に図書館、しかも従業員専用の空間に? そんな変なこと普通するか? いや、しないだろう。


 ……気になる。ものすごい気になる。

ちょっと見るだけならいいだろうか……でもここを右に曲がったとこにある部屋で待ってろって言われてるしなぁ……いやだがちょっと見るぐらいいいんじゃ……いやでも、やっぱりちゃんと言われたとおりにしたほうが……


「ええい、まどろっこしい! 気になるから見る!」


ガチャッ


 気合を入れはしたが、得体の知れない恐怖のせいなのか、ゆっくりと扉を開けていた。いや、恐怖ではない。これは畏怖だ。なにか大変なものに触れようとしている、ただそんな漠然とした感覚だけがあった。しかし扉を開ける手は止まらなかった。


 中から少しだけ光が漏れてくる。光に吸い寄せられる蝶のように、目の前にある捉えようのない魅惑に手を伸ばすかのように、俺はその扉を押して中に入った。


「なん……だ……? ここ……?」


 そこにあったのは、無限に広がる空間と、それを埋め尽くすように並べられている本棚だった。その整然とした陳列はまさに図書館のようではあるが、本棚の高さも、横幅も桁違いに大きい。それに、ここには壁というものがないようだった。右を見ても左を見ても、あるいは前を見ても地平線まで同じ形をした本棚しかない。後ろを振り返ると、さっきまで歩いてきた廊下が扉越しに見える。その扉もドア枠だけが部屋の中にぽかんと残されていて、その後ろにはまた別の本棚が並んでいた。


「どうなってんだ……? なんなんだ、ここは……?」

 

 驚きでおぼつかない足を無理やり動かして、ゆっくりと歩き始めた。ただ何も考えられず、目の前にある大量の本に圧倒される。いろんな形や色の本が並んでいる。ふと目に留まった本を手に取ってみた。


「これ、小さい頃に読んだ絵本だ……」


 俺が読んだことのある絵本だった。ビブリオテックというのは図書館という意味で間違いないようだ。

 手に取った絵本を本棚に戻してまた歩き出す。本棚の中身はちゃんとジャンルによってきれいに整頓されていて、今、目の前の本棚には文庫の小説が置かれていた。


「にしても多すぎるだろ……」


 文庫小説だけでも、ものすごい数ある。本棚の背が高いし、本棚がどこまで続いているのかもわからない。もはや、間取りとかそういうレベルの話ではなかった。常識がガラガラと音を立てて崩れていった。

 空間認識能力はとうにおかしくなっていて、同時に時間の感覚もおかしくなってしまっているんではないかと思うようになってきた。

 どれぐらい歩いたんだろうか。

歩いてきた方を見てみると、入ってきたドアがだいぶ小さくなっている。


「そろそろ戻ったほうがいいかなあ。こんだけ広いと帰れなくなりそう……」



「そうしたほうがいいですよ」



 不意に後ろから声がした。


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