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探索

 入り口のゲートを通った先には、かつては来場客がごった返したであろう広場があった。

 しかしかつての繁盛した面影など、おそらくは微塵も残されはいないだろう。

 地面はタイルが剥がれたり、陥没したりといった酷い有様。その隙間からは、膝ほどの高さはありそうな雑草が繁茂し、生命力の強さと、自然になされるがままの人工物の無力さを感じさせる。柵の中に広がっていたであろう大花壇も既に雑草まみれである。ここのは外に生えているものとは違い、葉の形が特徴的で、まるで紅葉のようだ。その中に建っている小さな時計塔は、頂点が欠け落ち、時計も既にその活動を終えていた。露店のシャッターも全て閉じている。中世ヨーロッパ辺りをモチーフにしたであろう、露天の入った建物は、すっかり蔦に覆われ、まるで建物自体が土に還ろうとでもしているかのようだ。

 こういう廃墟特有の、スプレーで描かれた意味不明な文字列も見当たらない。人為的なゴミもあまり落ちていない。

 ここにたむろする不良すらいないということか。

 世間から忘れ去られ、放置され、ひっそりと佇む廃墟に、私はどことなく共感を覚えた。

 私もこの遊園地と同じなのだ。

 死ぬならこういう場所がふさわしい。

 私はそう思いながらも、さらに奥へと歩を進めた。

 広場を通り過ぎると、アトラクションが幾つも立ち並んでいるのが見えた。

 お化け屋敷にコーヒーカップ、メリーゴーラウンド。奥の方にはジェットコースターや大きな観覧車もある。しかしそのどれもが、既にぼろぼろになっていた。

 お化け屋敷は入り口がそもそも崩壊しているし、コーヒーカップは何個かカップが外れて、ひっくり返っているものもある。メリーゴーラウンドの馬は塗装が剥がれてゾンビのように醜怪だ。

 この分だと、これ以上奥に進んでも、面白そうなのは何もなさそうだな。

 引き返そうと思ったその時――、ぞっとするほどの視線を感じた。

 一人や二人ではない。十人、いや何十人という人間が、私の背中に視線を浴びせている。

 そんな気配をひしひしと感じた。まだ夏だというのに、一瞬にして私の首元に冷や汗が伝い下りる。それまで興奮で感じていなかったじめじめした湿度が、一気に身体に襲いかかる。

 身体が硬直した。まるで皮膚がその強烈な湿気を吸い込んで、膨張してしまったかのようだ。振り返ろうとするものの、首が回らない。黒目だけを背後に回そうとする。

 次の瞬間――、


 ――カン、コン、カラン。


 間近で軽やかな物音がして、私は文字どおり飛び上がっていた。

 視線を下に向けると、その物音の正体が判明した。

 少し前からCMでよくやっている、缶コーヒーの空き缶だった。どうやら風でここまで飛ばされてきたらしい。

 私はほっと胸をなでおろした。金縛りは解かれていた。あれだけ感じていた視線の圧も、今はもうどこ吹く風である。遊園地はまたしても、寂寥を取り戻したのだ。

 こんな場所だから、きっとそういう変な気分にさせられるのだろう。

 私はそう結論付けて、引き返そうとしたが、その刹那、視線の端にその建物を捉えた。


 ミラーハウス。


 建物の看板には英語でそう書かれている。

 他の建物とは違い、ここだけは、シャッターが開いていた。

 私はまるで導かれるように、その建物へと足を向けていた。

 近くで見ると、それなりに大きな建物だ。装飾から見て二階建てであることはわかるが、普通の戸建ての家よりも圧倒的に背がある。しかし劣化に関しては、他の建物と大差なかった。かつてはカラフルに彩られていたであろう壁面は、日に焼けたせいかすっかり色が落ち、窓ガラスや壁の鏡は粉々に割られている。

 ミラーハウスの正面には二つの出入り口があり、どちらも黒いカーテンのような垂れ幕で覆われ、中の様子を見ることはできない。

 私は懐中電灯片手に、その右側の垂れ幕をくぐった。

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