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第七話 ゴブリンレア

〈〈通常技能(ノーマルスキル)水刃魔法(ウォーターカッター)C》は通常技能(ノーマルスキル)水刃魔法(ウォーターカッター)B》になりました〉〉

〈〈進化条件を満たしました。進化します〉〉


 脳内に男の声が響く。その声は、しわがれていない大人の男の声だ。


〈〈ゴブリンレアへの進化が完了しました〉〉

〈〈EXPが202から208になりました〉〉

〈〈究極技能(アルティメットスキル)逐次睡眠魔法(シク・イープ)》を取得しました〉〉


 次の瞬間、白い長髪を揺らしながらバレリーナのようにクルクルと回る、剣士の少女が見えた。

 視力が戻っている。俺は進化したのだろう。


『おめでとうございます、ヒデ』


 リースは止まり、その濃青の瞳が俺を真っ直ぐ見る。


 綺麗だ。

 リースは美しい。

 3日間、盲目だったからなのか、今のリースは、俺が見てきたどのリースよりも輝いて見える。


『えへへ。そんなに褒めると、嬉しすぎて私、昇天しちゃいますよ……』


 リースは照れながら笑う。

 その笑顔を見ると俺は、心が温かい気持ちで満たされた。3日間の闇の中にいて、俺が求めていたものはこれだったのかもしれない。


「ぐぎゃぎゃ(リース、笑って)」

『はい……』


 リースは片方の頬を上げて、ニヤリと嗤った。


(そうじゃない!)

『わざとじゃないんです。笑おうとすると上手く笑えないんです』

(そうか……)

『はい!』


 そう言ったリースは満面の笑みで笑った。


 それにより俺の心は、再び温かい気持ちで一杯になる。

 と同時に目から涙が零れ出てきた。

 俺は3日間、闇の中にいて気付いた。ゴブリンになった俺にはリースが必要だ。

 もし、この異世界で知っている人が一人もいなかったらと考えたら、ぞっとする。もしリースがいなかったとしたら、俺は絶対に耐えられないだろう。


 ずっとリースと一緒にいたい。


『あっ……えっと……』


 あたふたと、空中で蛇行するリース。その顔はまるでリンゴのようだ。


 って、これ確実に心読まれていたな……ちょっと恥ずかしいな。


『さ、さっきの、ウォーターカッターすごい威力でしたね! オークの首を一撃で狩るなんて』

(……多分、3日間魔力を使わなかったのが良かった)

『ちゃんと、わたしが言ったこと守ってくれたんですね』


 ステータスを確認してみる。

 体がどこか変わった感じはしない。


名前:宮勝秀

種族:ゴブリンレア

年齢:0

EXP:208

神域技能(ゴッドスキル):《EXP吸収》《進化の系譜》

究極技能(アルティメットスキル):《逐次睡眠魔法(シク・イープ)S》

通常技能(ノーマルスキル):《魔力操作A》《力補助魔法(パワーアシスト)C》《水刃魔法(ウォーターカッター)B》《障壁魔法(シールド)B》


 《逐次睡眠魔法(シク・イープ)》ってのが気になる。

 初めての究極技能(アルティメットスキル)だしな。


『シク・イープは、起きながら体や脳の一部を休めるというものです。イメージ的には、イルカやフクロウが脳を半分ずつ分けて寝る、という感じです』

(え……それだけ?)

『はい』


 ……

 究極(笑)である………………


 しかしリースはそうは思っていない。


『この魔法はすごいですよ! なんたって、寝なくてもいいんですから、ずっと修行出来ますよ!』

(俺は修行するよりも、お布団で寝たい。ただし、お布団はない)

『睡眠なんて時間のムダですよ!』


 幽霊は俺の頭の上を回る。


 そして、俺は何かを察してしまった。

 前々から思っていたが、やっぱりリースは前世でかなりストイックな修行をしていたんじゃ?

 そして、全然寝ていなかったと……だから17歳なのに、小学生みたいなのか。


 一人で納得してしまった俺。


『確かに、わたしは生まれたときから、一に剣、二に剣、三に剣、でしたが! 一日9時間ちゃんと寝てましたよ!』

(時間の無駄なんじゃなかった?)

『時間の無駄ですが……寝たくなくても、寝てしまうんです!』


 とはいえ、一に剣、二に剣、三に剣か……。

 初耳だ。

 日本にいたとき前世のことをいろいろ聞いても、リースはほとんど答えてくれなかったからな。


「ぐぎゃぎゃ(だから、小学一年生の算数の問題も解けなかったのか)」


 俺の人生、最初の記憶は幼稚園のときの記憶。

 そこで算数の問題があったが、リースはそれが分からず、俺が教えていた。


『今は余裕で解けますよ!』


 リース抗議の声をあげる。


 その時、カサ、カサと音が聞こえた。

 豚肉(オーク)だ。


 さっき、首を飛ばした魔物の仲間と思われる豚肉が3つ、ワラビのような草を踏みつぶしながらやって来た。ということは、さっき倒したのはオークだったってことかな?

 ところで、俺は3日間何も食べてなくて腹が減っている。


『進化したので、栄養失調なども改善されているはずです』


 リースはそう注意するが、俺の胃の中はすっからかんだ。

 オークブラザーズよ! 我が糧になり、そして血肉になるがいい!


『なんでそんな言い方をするんですか……』


 うむ、ツッコミがいると安心だな。


 気力満タンの俺は、3匹のオークに向かって走る。

 体が軽い!


『ゴブリンレアに進化すると、全体的に身体能力が上昇するみたいです』


 オークもこちらに向かって走ってくる。


 俺は少し走る方向を変える。

 するとオークも方向を変える。


 一匹のオークが俺に近づくが、ちょうどオークの目の前には大木があり、俺はその木の裏側を横切ろうとする。

 俺は小柄なゴブリンレアなので、オークからは一瞬俺の姿が見えなくなる……そしてオークは俺が木の裏に入った側の反対側から出てくるだろうゴブリンに向け走る。


 そのことは《魔力操作》の修行のおかげで手に取るように分かる。


 そして俺は、木の裏側に入った瞬間、逆方向に移動していた!

 この体は自分のイメージ通り、いや、自分のイメージ以上に動く。進化したおかげだろう。


「ぶおお?」


 フェイントに引っかかったオークは、困惑の鳴き声を出す。振り返り、俺の方を向こうとするが遅い。

 直後、《パワーアシスト》によって加速された俺の右足が豚頭を捉える!


「ぶおおおおおお」


 あらぬ方向に首を曲げて吹き飛ばされるオーク。


「ぐぎゃぎゃぎゃ!(この体は本当に良く動く!)」

『あと2体です!』

(分かってるよ)


 残りの2体のオークは、剣を上段に持って走ってくる。


「ぐぎゃぎゃ(ウォーターカッター!)」


 俺は追尾型のウォーターカッターを一枚、オークの腱を狙って放ち、オークに向かって走る。


 オークは2体とも俺に剣振り下ろすが、連携がまるでなっていない。

 大剣を《障壁魔法(シールド)B》で防ぐ。かなり多めの魔力を使ったので、シールドにはヒビ一つ入らない。

 もう一匹のオークは、足の腱にウォーターカッターを喰らい、倒れた。


「ぐぎゃ(あと1体!)」


 オークは剣を持ち上げる。再び、大剣を振り下ろすつもりだろう。

 俺はシールドを消した後、《力補助魔法(パワーアシスト)C》で地面を蹴り、一瞬でオークの目の前に移動し首に《水刃魔法(ウォーターカッター)B》を叩き込んだ。


 終わりだ!

 オークは首から血を吹き出して倒れた。


『ヒデ、かなり戦闘慣れしてきましたね。3日間洞窟に入っていたとは思えないです』

(ゴブリンレアの身体能力が高いおかげだ)


 俺は、右足で蹴って気絶したオークと腱を斬って戦闘不能にしたオークに止めを刺す。そして食事となった。


「ぐぎゃああああ(豚肉うめええええええ)」


 オーク肉が美味しいのか、3日間何も食べていないせいなのか、本当にうまい。


 ……


 そして、オーク3体を食べきった!


「かなりきついけど全部食べた! この体どうなっているんだ?」


 自分の体よりも大きなものを食べられるって……


『胃が《空間拡張》されているようです』

(《空間拡張》?)

『はい。《空間魔法》の一種です。多分、ゴブリンレアの胃は《空間拡張》によって大きくなっていて、実際よりもかなり大きいのでしょう』

(いま俺が《空間魔法》を使えるってこと?)

『そういうことじゃないです。使えるのは“胃”だけです。魔導具のようなものですね』

(魔導具?)

『あー、ヒデには魔導具は分かりませんよね……魔導具って言うのは、中に魔法陣が刻まれていて、魔力を込めると決められた魔法が使える、というものです』

(そんなものあるのか……

 それって魔法スキルを覚えている必要はあるのか?)

『ないです。魔導具に決められた量の魔力を込めることさえ出来れば使えます』

(それ、かなり強くない?)


 お。胃に感覚を集中すると、ほんの僅かだが魔力を消費していることが分かる。


『そういうことです』


 そう言ってリースは微笑んだ。




名前:宮勝秀

種族:ゴブリンレア

年齢:0

EXP:214

神域技能(ゴッドスキル):《EXP吸収》《進化の系譜》

究極技能(アルティメットスキル):《逐次睡眠魔法(シク・イープ)S》

通常技能(ノーマルスキル):《魔力操作A》《力補助魔法(パワーアシスト)C》《水刃魔法(ウォーターカッター)B》《障壁魔法(シールド)B》

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