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第一話 転生

 ぐぎゃぎゃ!


 ぐぎゃぎゃ!


 ぐぎゃぎゃ!


 ………………緑?


 この世界で最初に思ったことは、「………………緑?」という疑問だった。


 視界には、自分と同じくらいの緑肌の人たちと、緑肌の巨人たちがいるが、一人だけ肌色の肌をもつ女性と思われる巨人がいることだけ統一性がない。

 その茶髪の女性の目には生気がなく、体は骸骨のようにやせ細っていて、今にも死にそうである。


 目の前に広がる光景を飲み込めきれない俺。だが、不思議と恐怖心はない。


『ヒデ』


 世界一聞き覚えのある、凜と透き通った声が聞こえる。

 この訳分からない状況を説明して欲しい。そう思って振り向くと、


「――――――っぐぎゃ!?」


 俺は驚いて、「――――――っリース!?」と叫ぶ。


 薄暗い洞窟の壁から、白髪の少女の生首が生えていた。だが、その少女の青い瞳は輝いている。


 幽霊であるリースはよくこういう遊び――ベッドに生首が刺さっていたり、黒板に生首が刺さっていたり――をしていたから、俺には耐性がついてしまって最近では全く驚かない。


 じゃあ、なんで驚いたか?


 それは、リースの頭がいつもより数倍大きいからだ。


 リースがふわふわと空中へ体を漂わせると長い白髪が揺れて、その体全体が見えた。

 そこには姿形を保ったまま等比拡大されたような、巨人になったリースがいた。


『それは違います。私は変わっていません。私、幽霊ですから』


 ……どういうことだ? どう見ても3メートルは超す大女ではないか!


『ヒデはトラックにはねられました』


 ――! そういえばそうだ。周りの状況が、常識外すぎて忘れていた。

 それにしても俺よく生きていたな。かなりの衝撃だったから、はねられたとき、「俺、死んだ~」とか思っていた。


『ううん』


 リースは首を横に振る。


『ヒデは死にました』

「ぎゃぎゃぎゃ。ぐぎゃ! ぐぐぎゃ、ぐぎゃぎゃぎゃ!」


 いやいやいや。ほら! ここにこうして、生きているじゃないか!

 と俺は言って、右手を挙げる。


 ……緑? おれの右手が緑色だった。


 ハッ! まさか、事故の後遺症で網膜がやられたのか!


 でもリーの肌の色は変わってない……幽霊だからなんでもありか。

 だけど肌が緑色じゃない巨人女性がいるが、あれはなんでだ?


『はあ……ヒデってそんなにバカでしたっけ?』

「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぐぐぐぎゃぎゃぎゃ」


 そこは「お大事に」とか「体調は大丈夫ですか?」とか言うところだろう。

 と俺は言う。


 ……ぐぎゃぎゃ? さっきからまともにしゃべれていない?


 まさか、喉にも後遺症が!?


 あー。


「ぐー」


 いー。


「ぎゃー」


 うー。


「ぎゃー」


 ……これは重症だ。もうこれ生きていた方が辛いレベルじゃないか?


 周りを見ると、自分と同じサイズの緑人は自分含めて10人いる。俺たちは洞窟の中にいるみたいだ。


 なんて思っていたら、一人の緑巨人が角の生えた兎を持って来て、俺たち通常サイズの真ん中に置き洞窟の奥に入る。

 俺以外の9人の緑人は、地面に落ちた兎の死体に群がって食べ始めた!


 おいおい。それ生なんだけど!?


 一旦落ち着こう。


 すー、はー


 すー、はー


 深呼吸で、深く落ち着こう。


 すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー、はーー、すーー


『どれだけ、深呼吸するんですか!?』


 お、やっとツッコんでくれた。


『ヒデ、案外、余裕ですね……』


 まあね。

 深呼吸をして、だいぶ冷静になれた。


 そもそもここはどこだろう?

 俺は薄暗い洞窟の入り口近くにいる。外を覗くと、森が広がっている。なんで病院じゃない? おかしい。トラックにはねられて後遺症が残ったレベルなんだ。とてもじゃないが退院なんて出来ないだろう。


『もう一度言いますけど、ヒデは一回死んだんです』

「……」


 俺はさっきのみたいな反論はしなかった。いや、出来なかった。自分の状況があまりにも不自然だったから。


 一回、リースの言うことを信じてみよう。

 一度死んだ。でも今こうして生きている。


 日本人としての一般常識として、一度死んだらそれで終わりだ。

 でも俺は一度死んでいる奴を見たことがある。幽霊リースだ。

 リースは一度死んだが、俺が生まれてからずっとあたかも生きているかのように見たり会話し合ったりしてきた。

 そんな俺に常識は通用しない。


 これ……もしかして……


 そして俺は別の可能性に気付いた。

 目の異常も、喉の異常もなくすべて見たままだったとしたら……

 もし、リーの大きさが本当に変わってなければ……


 そして俺は思った。

――――――俺幽霊になったんじゃね!?


 直後、洞窟に甲高(かんだか)い声が響いた。


『それは違います!!!!!!』

「……ぐぎぇ?」


 俺は間抜けで気持ち悪い声を上げてしまった。


 ふわふわと宙を漂っていたリースは、高度を下げて地面に座る。


『なんで幽霊だと思ったんですか!? 周りにゴブリンがいる説明になっていないですよ!』


 リースは緑肌の人間を“ゴブリン”と呼んだ。

 やっぱりそういうことか。


「ぐぎゃぎゃ(俺たちは異世界に飛ばされたんだろう)」

『……なっ、なんでそれを思いついたのに答えにたどり着かないのです!? しかもそれ、ヒデ自身がゴブリンである理由になってません!』


 俺は自分自身がゴブリン幽霊になった理由を推測する。


「ぐぎゃぎゃ(多分、俺はこの9人の赤ちゃんゴブリンたちのうち誰かの守護霊なのだろう。そして、守護霊の種族はその守護先の相手の種族と同じになる……と。リースが前世と容姿が変わらなかったのは、リースも俺もたまたま人間だったからだろう)」

『……どういうことです?』

「ぐぎゃ(つまり、俺はゴブリンの守護霊だから、ゴブリンになったんだ)」

『なるほど……』


 リースは、日本にいたときよりも大きく見えるという以外、いつもの見慣れた幽霊だ。


「ぐぎゃ(リース)」

『はい』

「ぐぎゃぎゃ?(もうちょっと、こっちで座ってくれないか?)」

『……? 別にいいですけど』


 リースは座ったままの状態で、平行移動した。幽霊にしかできない芸当である。


『近くに来ましたが……』


 俺は、リースに向かって手を伸ばす。


 俺の小さな子供ゴブリンの手は、リースの太ももをすり抜けた。

 幽霊になったから触れられるかもって思ったのだが、残念である。


『ヒデのその気持ちだけで嬉しいですよ……』


 リーは少しはにかむ。


「ぐぎゃぐぎゃぐぎゃ」

「ぐぎゃぐぐぐぎゃ」


 大人ゴブリンたちの騒ぎ声が聞こえてきた。


 茶髪の骸骨女性――ここにいる9匹の赤ちゃんゴブリンを産んだのだろう――は大人ゴブリンに食べられている真っ最中である。

 先程兎を持ってきた大人ゴブリンも、グギャグギャと、顔を歪めながら食べている。


 異世界でも、世界は弱肉強食らしい。


「ぐぎゃ(少し気持ち悪いな)」

『当たり前ですよ。日本にいたらこんな光景見ることないですからね』


 そう言うリースは全く動じていないようだ。


『わたしは剣士でした。なので血とか内蔵なんかは見慣れているんです』

「そうか……」


 骸骨人間女を食べ終えた5人の大人ゴブリンは、俺たちの前を通って洞窟の外に出る。

 何かの動物の褐色毛皮を羽織っているが武器らしき物は持っていない。


『………………それと、ヒデが答えにたどり着かないから言いますけど、ヒデは幽霊じゃないです。ゴブリン転生です』


 ………………え!?


 その発想はなかった。

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