ミオと魔族
ようやく私をこんな身代わり生活に放り込んだ張本人と遭遇した。
彼女は私に気づくとそう声をかけて、すぐにロビン達に気づいたようだった。
「ロビン、どうして貴方までここに? そしてそちらは以前あった異世界人の人よね。どうしてここにいるの?」
「異世界人の彼は今うちの城の客人だ。そして今日は合宿なんだ。ミオは忘れていたのか?」
「……私としたことが忘れていたわね」
「それにこちらの方にいるのではと思っていたが、当たっていたな」
「あら、どうやって見つけたのかしら」
「それは戻ってきてから話すよ。そろそろ帰ってこないのか?」
「残念だけれど、もう少し私にはやることがあるの。だから戻れないわ」
そうロビンにミオが話して肩をすくめた。
それにロビンは黙ってから、
「俺に手伝えることはないのか」
「ないわ。気持ちだけは貰っておくかしら」
「……誰かの手助けはいらないのか?」
「私の仮説があっているか見ているだけだし、それに、ロビンを危険な目に合わせたくないしね」
「ミオ……俺だってミオを怪我させたくない」
「……それに、間違っていたら恥ずかしいもの。でも、どうやら“正解”だったみたい」
そう得意げに言って何かの石を見せる。
赤色を帯びて輝くそれだがそこでミオが、
「これを見ると、魔族が現れそうな場所が分かるみたいなの。もちろん石自体に私の魔法を組み込んでいるけれど……どうやら上手くいっているみたい」
「本当か! これでいつどこで魔族が現れるか分かるようになるのか!?」
「参考程度だけれどね」
自慢げにいう彼女。
感動の再開と事情は分かった。
だがそろそろ私は、彼女に言いたいことを言ってもいいと思うのだ。つまり、
「……よくもこの世界に来て右も左も分からない私に“身代わり”をさせたわね!」
「ちょっとの間だけだったからいいじゃない」
「ちょっと!? どう考えてもしばらく私は入れ替わりをさせられましたよ!?」
「たかだか……ひと月もたっていないから問題ないわ」
「問題なくないですよ! だって私、魔法も何も知らないですよ!」
「でも前も適当な人に頼んだら上手くいったし、他の人たちも見て見ぬふりをしてくれたんじゃない? ……レイナは本当に気づいていなさそうだけれど」
そう言い切ったミオに私は、大正解ですといいそうになった。
けれどそれを言っていられるような状況でもないので私は、
「私だって特殊能力も使いながらなんとかしてきましたけれど、本当に大変だったんですよ!? なんであんな屋敷の地下ダンジョンに婚約破棄書を隠したんですか!?」
「宝を隠すなら一番奥、竜の番人がいるところがいいかなって」
「そんな適当な理由だつたんですか! 私、岩に攻撃される輪で大変だったんですよ!? “魔族”だって現れるし」
そう呟いて私はぶつぶつと文句を言うとそこでミオが真剣な顔になる。
どうしたのだろうと私が思っているとそこでミオが、
「なるほど、やはり“異世界人”を屋敷に置いておいたのは正解だったようね」
「……どういうことですか」
「“魔族”があの周辺で現れそうだったから、異世界人であるあなたにお願いしておけばなんとかなるんじゃないかと思ってね」
「……私、この世界を楽しんでね~、といった軽い感じで呼ばれたのですが。そもそも戦闘にどう使ったらいいのかよく分からない能力だし」
「どんな特殊能力なの?」
「“重力変換”です」
「また変わった能力ね。でも何もないよりはましだわ。……私よりもね」
そう呟いてミオはちらりとカズの方を見て、
「彼のような異世界人の力を借りないと“魔族”との戦闘もきつかったわ、私にはね」
「そうですか」
「そうよ。でも……今はここに貴方たちが来てくれて助かったわ」
そこでミオがにたりと笑う。
その笑顔を見て私は、嫌な予感がして仕方がなかった。
「何を考えているのですか」
「……さっき、貴方たちの方に魔物が逃げて行ったでしょう? どうしてだと思う?」
「し、質問に質問で返すのはよろしくないのではないかと」
「大丈夫、すぐに分かるわ。でもヒントだけ。魔物が逃げて至ったのは脅威を感じ取ったから」
「……脅威って“魔族”か何か現れそうといったものですか?」
何となく嫌な気持ちになりながらそう問いかけるとミオがにたりと笑う。
「大正解、ここは次の“魔族”の生まれそうな場所なのよ。そして“魔族”を少しでも“弱い”状態で“生じさせやすい”“異世界人”がここに二人もいる。条件がいい形でそろっているわ」
そうミオが告げた所で、ピリリと、紙を破るような音が聞こえたのだった。
ピリリというような音が聞こえる。
奇妙なその音に私は体が震えるのを感じた。
“いつもと違う”。
そんな予感を覚えて私はその音の聞こえた方に振り替える。
空間に線のような亀裂が入っていた。
まっすぐに定規で引いたようなそんな黒い縦の線。
そう思っていると今度は縦ではなく、横の線が入る。
ピリリ。
またそんな音がした。
紙を破るようなそんな音がして、十字に線が引かれたところから、ジワリと黒く腐食されていくように、黒いものがとろけだす。
だが今回は液体というよりは、気体のよう……黒い靄が緩やかに広がって周りを黒く染めていく。
怖い。
私はそう思った。
怖い。
今すぐに排除しなければ。
怖い。
私は……戦わないといけない。
まるで何かのスイッチを切り替えてしまったかのように、私は目の前の敵をにらみつける。
まだ形は整っておらず、黒い靄の塊のようになっているが……。
「“重力変換”」
すぐさまそれを使う。
すると、その黒い靄のような球状のものは地面に若干引かれるも、その状態を保っている。
だがこのおかげで拘束できているようだった。そこで、
「こちらから攻撃する」
そういって魔法をいくつも打ち込む。
炎氷雷……それらで攻撃すると、
「炎で攻撃すると小さく震えるな。そして少し弱まっているようだ。炎の攻撃を連続しよう」
そうカズが言うのを聞きながら私もブレスレッドに触れて、炎で攻撃する。
ミオ達もその魔法での攻撃を繰り返すけれど、時々穴はあく物のすぐにふさがる。
やがて、一時的に攻撃をやめた所で、黒い塊は微動だにしなくなる。
それを見て居たミオが、
「人型をとらないなんて……まだ成長するの?」
ぽつりとつぶやいたミオの言葉にロビンが炎の魔法で攻撃する。
だが今度は微動だにしない。
凍り付いたように動きを止めた所で……。
「わ~、ミオが二人いる、それにそこにある黒い塊は何?」
「本当だ」
といったような声が背後で大勢聞こえる。
私は血の気が引くような思いをしながら背後を見る。
そこには先ほどまで一緒にいた同級生やレイナたちがいる。
私は叫んだ。
「“魔族”が現れたの! 逃げて」
それに同級生達は沈黙する。
同時に、目の前の黒い球が小さく動き始める。
にゅるり。
そんな気持ちの悪い音を立てて、それは瞬時にマネキンのような黒い人型を作る。
私はとっさにブレスレッドに触れる。
「“火炎の楔”」
それをいくつも同時に生み出すように想像する。
20以上あったかもしれない。
一斉に次々とその“魔族”に攻撃を仕掛けるけれど、効果が何もない。
穴が開いたけれどすぐにふさがって……そこでカズの風の攻撃で腕の部分が切り落とされる。
それは地面に落ちるとすぐに球状にまとまり、その人型の本体に飛び跳ねるようにして戻っていく。
見て居たカズが、
「一気に倒さないと、消滅できないかもしれない。だが最大火力の魔法は幾つか使ったが……」
「……それが同時攻撃なら何とかなる?」
「そうだな。何か考えがあるのか?」
「さっきの氷の塊に色々なものが集まっていくのを見て思ったの。皆の魔法を一つに収束させて攻撃したらって。どの程度上手くいくかは分からないけれど」
「……やっるだけやってみよう。一番強力な魔法でもここまで効果がないのならそれしかない。……足止めはこちらでやる。ミオ、そちらはお任せする」
そこで目の前の黒い人型の“魔族”が、自身の体内から黒い人形のようなものをいくつも散りだした。
それは五体ほどあったけれど、それに向かってカズが走っていく。
一番危険な役目だ、そう私はすぐに気づいた。
だからその魔族への重力操作で動きを鈍くさせながら、近くの小石を拾って私は、
「皆さん、この小石をこれから投げるのでそこに向かって、炎の魔法攻撃をしてください!」
そうお願いして私は石を放り投げる。
魔族を拘束する力をいくらか残して、私はそこに炎の魔法を撃ちこむ。
ミオやロビン、クラスメイトの人たちも炎の魔法攻撃をそこにして、頭上高く大きな炎の塊を作る。
そこでミニドラゴンのリーフが大きく口を開けて、そちらに向かって炎を噴射するように吐き出す。
さらに炎が大きくなっていくのを私は見ながら……そろそろいいかなと思った。
だからカズに、
「カズ、引いて」
そういうとカズが跳とぶようにそこから離脱する。
後には広い場所に鎮座した“魔族”。
どうやら“魔族”には目がないらしく、頭上にあるこの魔法は見えないようだった。だから、
「いっけぇええええ」
そのまま大地に振り下ろすかのように炎の攻撃をくらわせる。
赤い炎が柱となって燃え上がる。
うっすらと黒い影がたっているのが見えたものの、それはすぐにぼろぼろと炎の中で崩れ落ちていく。
やがて、炎がほとんどなくなるころ。
その炎の攻撃があったその場所は黒く焼け焦げていたが、そこにはちらちらと揺れる炎がいくつかある程度で……それ以上は何も残っていなかったのだった。
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