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本能的な“恐怖”

 “音”がした。

 キンというような、耳障りの悪い高い音と共に、布を引き裂くような大きな音。

 もちろん私たち以外にここにいるのは、あの石化した竜だけだ。


 だがこの音と共に、現れてくる“何”かの気配に私は総毛立つ。

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

 吐き気を催すような“邪悪”、そんな言葉が私の中に浮かぶ。


 不気味なその存在は、その大きな音のした場所に現れた白い光の“目”のような形をした場所から、とろとろと涙のように零れ落ちた。

 悪意あるその涙と黒い液体状のもの。

 それは地面に落ちると、こぽこぽと小さな沸き立つ泡のような音を立ててむくむくと膨れ上がり、頭が、手が、足が生えてきて、人のような形を作る。


 それは黒いマネキンのようなものに見えたけれど、その存在そのものに憎悪を覚えるような醜悪な形に見える。

 しかも人の姿を模しているのが、うす気味悪い。

 私はそれが何かをする前にすぐに、


「“重力変換(グラビティ・エンド)”」


 特殊能力チートを使う。

 少しでもこの不気味な存在を目の替えから消し去りたかったのだ。

 本能的な“恐怖”をこの時私は感じていたのかもしれない、そう、後になって私は思う。


 そして対象範囲内の重力を高くして、それこそ抹殺するくらいに強い力を与える。

 べちゃ。

 地面に張り付くような音がして、その黒い人間のような“モノ”を私は地面へとたたき潰した。


 普通であれば“生物”であっても、この高重力下では動くのは大変だろうと思う。

 もしかしたならつぶれるしかないかないかもしれない。

 この世界の物理法則の関係上、この世界では類を見ないような力をかけているはずだった。


 だがこの潰れたこの生物は、液体が広がったような水たまり状になりつつも、中心部が泡立つように盛り上がろうとしている。 

 そう、未だにこの存在は“動いて”いるのだ。

 “生きて”いないのかもしれない。


 背筋にぞっとするようなものが走る。

 この私が今まで出会った中で本能的に感じる“敵”という存在は、すでに“生物”ではないのかもしれない。

 突如現れた悪夢。


 名状しがたい、その存在に私は立ち尽くす。

 と、そこでロビンがようやく、小さく呟いた。


「な、何でこんな場所に突然、“魔族”が」

「“魔族”? これが?」

「そう、この世界の殆どを一度滅ぼした災厄。そして異世界人を女神様が、特殊能力チートつきで呼び出すことになった原因だ」

「あれと戦うために?」

「ああ。普通は俺程度の魔法使いが束になっても勝てるかどうか、そんな存在だ」


 乾いた声でロビンがそう説明してくれる。

 けれど私としては、


「ロビンは魔法使いとしては強い方?」

「そうだな。そういった人物が集団で戦っても、“魔族”はほとんどが新でどうにか相打ちに持ち込めるか、といった存在だからな」

「そんな相手に、私達だけで勝てるの? とりあえず増援を頼んだ方が……」


 そう私が提案すると、珍しく焦燥感に満ちた表情でロビンが私に、


「“魔族”は時間がたつごとにどんどん強くなる。だから、見つけ次第叩かないといけない」

「つまり、今ここで戦わないといけない、と。でも私の能力では足止め程度しかできていないような……!」


 そこで、その液状の水たまりになったその“魔族”が動いて、くろい腕のようなものを私の方にのばす。

 あまりにも突然の速い動きに私は動けずにいたのだけれどそこで、


「右だ!」


 どこかで聞いた事がある男性の声がして、私とロビンは右に動く。

 すぐに私達がいたその場所に黒い腕のようなものがよぎる。

 紙一重で交わした状態であるけれどそこで、白い球状の物が走り、その黒い腕に当たるとともに破裂する。


 ぶつりとその腕が地面に落ち、同時に……猫の着ぐるみを着た何者かが、私達の前に姿を現したのだった。

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