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アフター:age.20

久しぶりに、ふわっと一場面を書いたので載せておきます。千草20歳。



 プルトップを引くとカシュ、と炭酸の抜ける音がした。乾杯。どちらからともなくそう言って缶の頭同士をぶつける。ガラスではないから高い音はしない。

 スチール缶をあおって、液体を嚥下して。目線を戻した相手は両目を丸くして不思議そうに言った。


「ジュースだ」

「アルコール3パーセントだからね。ジュースみたいなもんだよ」


 千草は舌上に残る味を感じながら、親の受け売りをさも自分の意見のように返した。


 賃貸マンションの一室、リビングの中央に置かれたローテーブルに二人の男女が座り込んでいる。短い黒髪を掻き上げた千草の対面、さらりと下ろされたロングヘアの女性が穏やかに笑った。


「酎ハイだとこんなものなんだね。でも甘くて美味しい」


 言って、度数が低いとはいえ初めてのアルコールをさもジュースのように飲み進めていく。見兼ねて千草は尋ねた。


「千尋、俺の成人に合わせて飲んでるけどその身体、まだ二十歳じゃないよね? 透子さんって一個し……」


 問いかけを遮って、千尋は悪戯がばれたかのような顔をした。そろそろと缶をテーブルへ置いて、手首に巻かれた装飾品へと指先を伸ばす。


 ーーカシャン。


 プラスチックを落下させたような軽い音がして、千草が瞬けば目の前の人物は自身と同じ見目をしていた。先程まで背中を覆っていた艶髪も、膨らんでいた胸元も見る影もない。代わりに、服装は先程と同じだが、背丈も髪型も千草と瓜二つの状態が現れる。それでも千尋はーーかつてドッペルゲンガーと自称した存在は、千草らしからぬ、オリジナルの空気を醸し出して笑った。そうして、また。カシャンと音を鳴らして、透明を纏う女性の姿に戻る。あっという間の出来事。


「これで大丈夫」

「何が……?」


 姿を変えて、戻して。それが飲酒にどう許可を与えるのか分からないが、千尋が楽しそうなので千草はそれ以上は追求しなかった。シェイプシフターとでも言うのだろうか、そもそも飲食を必須としない存在にアルコールの作用も分からない。


「……千草」


 千尋が手を伸ばす。それをどう扱ったら良いか分からないまま、千草は缶をテーブルへ置く。千尋の細く白い指が千草の手の甲にかかる。そのままぎゅっと握り込まれた。


「二十歳おめでとう」


 生きててくれててありがとう。

 はにかむような、真剣な眼差しのような、様々が綯い交ぜになった様子で千尋が言う。相変わらず、昔から変わらぬまま、これ以上ない透明な瞳をしている。


 生を感謝してもらえるような他人が、親にせよ友にせよ在るというのは幸いなことだ。存在が愛されている、慈しまれている、と自覚できる。


「ありがとう」


 それらを口に出さずに、千草はただ一言を返した。



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