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最後もシンカー  作者: 元帥
4/5

転向

 ついに運命のキャンプが始まった。

 キャンプ開始直後はノックやランニングなどで身体を動かし、ブルペンに入るのは少し後というのがメジャーでは定石だ。ブルペンで投球の勘を身につけ調整をしていると実戦が待っている。

 この過程で何人もの選手がマイナー落ちを通告され、脱落していくのだ。


 キャンプに参加して意外だったのは、俺に話しかけてくる若手が多かったことだ。

 練習熱心で向上心溢れる選手が今のチームには多いようで、選手同士の交流が非常に盛んなように思える。監督が優勝を狙いたくなる気持ちがよく分かった。昔の俺と違って、毎日のキャンプをただ必死に乗り越える以上の余裕がある彼らが羨ましかった。

 中でもエリックとルイス・カンポスという投手二人は熱心に俺にアドバイスを求めてきた。

 精神面から技術面まで色々な事を聞いてくる。頼られるというのは悪い気分ではなく、俺も真剣に彼らの相談に乗っていた。彼らとのメジャー枠争いはきっと苛烈な物になるだろう。

 

 しかし実戦が始まると、俺の方はすぐに壁にぶち当たった。

 去年までと同じく打たれてしまう。空振りをとれず粘られた末にヒットを打たれるという見飽きたパターンを繰り返した俺は2試合4イニングで5失点を喫してしまった。これでは本当に首になるかもしれない。何かを変えなければならない。

 早くも焦り始めた俺にベテラン捕手のホルヘ・パーラがこう告げた。彼はマイナー契約であったが招待選手としてチームのキャンプに参加していた。

  

 「言いにくいんだが、お前のボールにはもう迫力が感じられない」


 ホルヘとは以前何度もバッテリーを組んだ事があった。ボストンにいた最初の2年間は、彼がチームの正捕手を務めていたからだ。俺の全盛期を知る彼からすれば、今の俺の球は衰えきった打ちごろの球に見えたのだ。


 「腕を下げて、コースの高低差と緩急で勝負する技巧派に転身したらどうだ?」


 彼の指摘は至極正しかった。これは球の勢いだけで抑えられなくなった投手にはよくある転身だ。

 でも俺はその転向を受け入れることが出来ないでいた。

 俺は投手を始めた頃から振り下ろすようなオーバースローでいくつも三振を取ってきた。打者を力でねじ伏せて奪った三振ほど気持ちの良い三振は無い、というのが俺の持論である。成績が落ちてからもずっと、俺は本格派であることに対するこだわりを捨てきれなかった。意味の無いプライドが邪魔をしていた。

 不振に陥ってからこっそり何度かフォームを微調整したこともあったが、全て上手くいかなかった。

 今となっては、根本的な変化を拒否していたのだから当たり前だと思う。


 今更のフォーム変更を渋る俺をホルヘは投手コーチの元に引っ張っていき、半ば強引に矯正に取り組ませた。コーチも俺の不振を見知っていた分俺のフォーム変更に乗り気であり、俺はコントロールを重視するべくスリークォーターに転向することになった。最初は不安だった俺も、このままだと俺と纏めて首だというホルヘの言葉と二人の熱心さを受けフォーム変更を前向きにとらえることができ、三日ほどで急造のスリークォーター投手が生まれた。


 こうして迎えた三回目の実戦で俺はフォーム改造に大きな手応えを感じることになる。コントロールが一段良くなり、無事1イニングを無失点に抑えることが出来たのだ。かつてのような本格派らしい投球では無かったが、結果を出せたことが何より嬉しかった。

 その後は実戦を通じてリリースポイントや腕の角度を微調整し、俺はオープン戦合計19イニングを7失点で終える事ができた。

 技巧派としての投球は想像以上に面白い。打者の裏をかいて凡退させるのもいい物だ。その分、自分の決断の遅さを悔やんでしまった。

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