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最後もシンカー  作者: 元帥
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崖っぷちの元エース

 多くの者が夢見て目指し、少数が光り輝く陰で多くの者が散りゆく舞台はこの世に多くある。中でも俺が目指した舞台は「MLB」、世界最高峰の野球リーグだった。

 一度メジャーに上がれば50万ドルの年俸が保証され、ブレイクした暁には数億ドルが手に入る。

ブレイク出来なくてもメジャーにしがみつければ数百万ドルは稼げる。何年かメジャーにいれば年金だって支給される。俺のように貧しいラティーノにとっては十分すぎる額だ。そもそも数千ドルの契約金でさえ、親兄弟をちょっとの間食わせてやれるんだから。


 俺の名前はアレックス・グティエレス。パナマ出身の投手で現在36歳。

 俺は子供の頃から野球が好きだった。打つ走る守る投げる、どれをとっても好きだしそこそこ上手くやってこられた。それでもMLBに入るなんて夢見たことは殆ど無かったし、今の状況も想像出来なかっただろう。タイムマシンで過去に戻って家族や友人全員にこっそり伝えても誰も信じないはずだ。


 俺が三年連続二桁勝利を挙げて弱かったチームの大躍進に貢献した事。

ワールドシリーズ第7戦に先発し、見事な完封勝利を飾って生まれ故郷の英雄になる事。

数々の活躍が認められ7年契約を勝ち取り、親兄弟に高級なプレゼントをいくつも買い与える事。

アメリカで出会ったタレントと結婚し子供まで出来る事。 


そして、今の俺が年俸2000万ドルも貰いながらボストンの高層マンションで一人ひっそり暮らしている事。


 三年前の事故で俺の人生は変わってしまった。

 あれ以降俺の成績は低迷し俺は今では成績の悪い高給取り、嫁にも取り巻き共にも見捨てられチームも俺を厄介者扱い。マスコミは揃って俺を不良債権扱いしやがる。ファンも俺が投げればヤジばかりだ。

 当然だ。俺が投げた試合の半分以上でチームは敗戦、ポストシーズン常連だったあのボストン・レッドソックスは俺の成績に合わせるように低迷した。

 いつの日にか俺にはあだ名がついた。「投げる足枷」。鋭いシンカーとカッター、チェンジアップで空振りを奪うエースだった男が、今や投げれば打たれる様を見たファンにつけられた。


 チームとの契約は来年で切れる。良くも悪くも引退を考える時だ、と考えていた去年の12月に俺は編成部に呼び出されて通告を受けた。

 「申し訳ないが、君をメジャー25人枠から外すことにした。自由契約を選ぶかマイナー落ちするか早いうちに決めてくれ」


 なんとなく予感はしていた。チームは地区4位に終わったオフにトレードやFAで何人も名のある選手を獲得していた。先発投手が新しく2人チームに来ていた。

 それでも、俺は呆然としてしまった。


 結局俺は自由契約を選んだ。行く当ては無い。でも、もうボストン・レッドソックスの一部でいる気力は残っていない。俺はマンションの無駄に広いリビングで1人ため息をついていた。マスコミがこぞって俺の「戦力外」報道を流した以上、外に出るのも恥さらしのような気がしてしまう。数週間、俺はマンションと行きつけのデリカッセンの往復以外で外に出ていなかった。


 でも俺にはもう一度チャンスが与えられた。シアトル・マリナーズが俺に契約を持ちかけてきた。俺が最初に契約したチーム。最初にメジャーの土を踏ませてくれたチーム。そして、最後に俺をトレードに出したチーム。

 

 即決だった。俺はこのチームで再起をかける。そしてレッドソックスに目に物見せる。

 契約後にボストンのマンションを売り、俺はキャンプ地へ飛び立った。

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