交尾を再び求められました。
「だから絶対ポチだけは嫌……!!」
そう涙目で睨むように訴えれば目を丸くしたポチがこちらを見ていた。
「は?好き……?は?」
「だから絶対ポチだけはいやあ!」
「え?ちょ?え?」
「はーなーしーてー!」
全力でバタバタと暴れるけれどポチは目を丸くしたまま固まっているせいで脱け出せない。
「ちょっと意味がわからないんだが……」
「好きだから嫌なの!なんでわかんないの!?」
「いやこれでわかれという方が無理があるだろう!?え?というかお前俺のことが好きなのか?!」
「だったら悪いかこの野郎ー!!」
私は力の限り叫ぶ。
「私だってわかってるよ!釣り合わないことくらいわかってる!でも、私だって女の子なんだもの!こういう行為をしたら絶対に期待しちゃうの!気持ちが欲しくなっちゃうの!!だから絶対にポチだけは嫌!!」
最後まで言い終わると同時に涙がこぼれた。涙目だけでとどめていたのに、もう止まらない。止めどなく流れてシーツに落ちる。
私が嗚咽をもらして泣いているとそっとポチの手が私の頬に触れた。
「意味がわからない。全く意味がわからない。そもそも釣り合わないってのはなんなんだ?」
「うう……。だって、どう見たって私とポチじゃ、釣り合わないもん……!」
「やっぱり意味がわからない。釣り合わないって、なんで俺とお前とは釣り合わないんだ?」
「だって!だって!皆言ってたもん!先輩と私じゃ釣り合わないって!そしたらポチとなんて釣り合う訳ないじゃない……!!」
身の程知らずなのはあの日よく理解した。理解したから、もうこれ以上苦しめないでほしい。
もうやだ、と目を強く閉じれば、突然口元に柔らかい感触を感じた。
驚きで瞼を上げる。すぐそこに、本当にあと少しで重なるほどの距離にポチの顔があった。
いや、待って。そもそも今の感触は何?
あと少しで?本当にあと少しだった?口に触れたあれは何?
「先輩とか、皆とか、誰を指してるか知らないけど、そんな奴らが言ったことに何か意味はあるのか?」
「意味……?」
「そもそも誰が釣り合ってる釣り合っていないを決めるんだ?何を基準で決まっている?説明できないだろう?そんなものになんの意味もない」
「で、でも……!」
「でも、じゃない。なにより釣り合わないからとかそんなくだらない理由で受け入れられないなんて俺が可哀想すぎるだろ」
その言葉に今度は私の方が目を丸くした。
「可哀想?ポチが?なんで?」
そう聞きながらも期待でどくんと心臓が音をたてた。
駄目だ。期待しちゃ。そう思うのに、止められない。
期待するような眼差しで彼を見てしまう。
だというのに彼はなんでもないことのように、何をいまさら、とその言葉を口にした。
「そんなのお前が好きだからに決まっているだろう」
「っ!?う、嘘だよ!!」
思わずそう言うと、むっと彼は眉をしかめる。
「嘘な訳あるか。だいたい好きじゃない女と寝ようとなんてする訳ないだろう」
「だ、だってそれは慣れてるからで……」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ?好きじゃない女と寝る訳がないだろう」
「で、でもでも……!」
「なんだ。お前は俺がお前のことが好きじゃない方がいいのか?」
「そんな訳!……ない、けど」
思わず声を張り上げて言ってしまい、気まずくて途中で目をそらす。視界の端で満足そうなポチの顔が見えた。
「なら、問題ないな」
「え、何……ひゃっ!?」
胸元にポチの顔が落ちてきてぎょっとする。
「待って!待って待って!」
「待たない」
「な、ななななんで突然……!?」
「待ってやっても良いことはないと気づいたからな。お前というやつは俺が優しく待っていてやっているうちにフラフラしやがって」
「でも、その、なんというか、心の準備が……!?というか、早くない!?こういうことするにはまだ早くない!?」
「わかった。待とう。十、九……」
「十秒!?少なすぎでしょ……!?」
「俺のこと好きなんだろう?」
「好きだけど!でも両想いになったばっかりでこれは早すぎだと!心の準備だってまだ……!」
「だから五秒待ってやると言っている」
「減った……!?」
無理無理無理無理!!と首を振る。顔はもちろん真っ赤だ。だって、恥ずかしすぎる!
「大丈夫。すぐに良くなる」
「生々しい……!」
断固拒否!の姿勢をするけれど、駄目か……?とまるで本物のポチのようにきゅーんと落ち込んだ顔をされれば呆気なく陥落してしまった。
すぐに見せたポチのその幸せそうな顔にまあ、いいかと私は彼に身を任せた。