嫌な予感は的中したようです。
「そんなに嫌か俺とするのは」
「嫌。絶対嫌」
つん!と私はそっぽを向く。するとはあ、とポチはため息をはいた。
「見ろ。あいつを」
この間のように指し示された方を見ればなかなか交尾をはじめなくてしょんぼりしている御主人様がいた。
が、そんなの知るか、である。勝手にしょんぼりしてればよろしいと、ふん!と視界から排除した。
嫌なものは嫌なのだ。
はあともう一度ポチはため息をついてそして嫌な予感がするな、とこぼした。
●○●○●
それからまた数日後。
私とポチは綺麗に飾り付けられていた。自分達と同じようにお洒落させるくせに何故ペット扱いができるのかやはりわからない。
今日の私は自分で言うのもなんだがかなり可愛い。
薄桃の膝にかかる程度のパーティーの服。髪はふわりと巻いて綺麗なレースのリボンを着けている。
対するポチは白いスーツ姿だ。男物なためそんなに派手ではないがもう顔が派手なのでこれで充分だろう。
そんな私達に御主人様はやはり首輪をつけて、家を出る。どこに行くのか私達には全くわからない。ただ、普通の散歩でないことだけがわかるだけで。
ポチがまたぽつりと嫌な予感がするなとこぼした。
●○●○●
たどり着いた場所はそれはもう美しいパーティ会場だった。
そこでは私達二人は御主人様から鎖を解かれ、自由に行動して良いのだとジェスチャーで示された。
私は初めて見る豪華なシャンデリアにぼけえと口を開いていると転ぶぞ、とポチに手を引かれた。
こういうことを自然にやれてしまうところに私との違いを見せつけられる。元の世界では普通にやっていたんだろうなと思うと胸が痛むのに、触れた手から熱が広がるように感じる私は矛盾だらけだ。
会場には沢山の人達がいて中には私達と同じように首輪をつけた人達もいた。
この世界でこんなに人間がいるのを見るのは初めてで私は目を見開く。
人間は珍しい生き物だ。故に飼える人間は限られてくるし、それなりの財力がないと不可能だ。御主人様だってかなりの金持ちである。
そんな限られた者しか飼えない人間がこんなに集まっているなんて。
呆然としていると隣でチッと舌打ちが聞こえ我に帰り、どうしたのかと隣を見ると不機嫌そうなポチがそこにいた。
「嫌な予感が的中した」
「嫌な予感?」
いったいどういうこと?と首を傾げればはあとポチは重いため息をついていいか、と子供に言いつけるように、丁寧に言った。
「俺から絶対に離れるなよ。もし離れてもあの暗いところには行くな。明るいところで待ってろ。動くなよ。すぐに探しに行くから」
暗いところ。そうここには不自然に暗いところがあった。中はここからでは見えないほどに闇は深く、魔法であえて暗くしていることはよくわかった。
「? どういう……」
どういうこと?と言おうとした言葉はどんと誰かに体を押されたせいで途中で途切れた。いったい何事かと顔を上げればいつの間にかポチの周りに沢山の女の子達が集まっていた。首にはそれぞれ首輪がついていたから同じ人間だろう。
女の子達は皆それぞれ挨拶をして、様々な質問をしている。その頬は赤く色づいており、彼女たちがどんな感情を彼に持っているのかは一瞬でわかった。
ポチは迷惑そうな顔をしながらも彼女達の勢いに押されて、たじたじな様子だった。
ポチが困っている様子なのは見ているだけでわかった。けれど、なんだかこの状況が面白くなく、また、彼がやはりモテるのだと再認識させられ、違う世界の人間なのだと目に見える形で突き付けられ落ち込んだ。
心配そうにポチがこちらを見る。待ってろ、と目が語っている。でも、私はここにいたくなくて、彼に背を向けて歩き出した。