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戦う考古学者と卵の世界  作者: いくさや
間章 学園編 2
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87 双子

 87


 翌朝、ヴィンセントが帰還した。


 どの遺跡にどの探索チームが入っているかは申請書で確認されている。

 当然、ヴィンセントの名前は第三皇子ディアロスの隊に含まれていたため、すぐに学習院の教師陣に『保護』された。

 まあ、保護とは言っているが、実際は軟禁じみた事情聴取だろう。


 ディアロスらしき竜砲が何度も放たれていたのは外からも確認されていた。

 ただ事ではない事態が発生しているのはわかっていたのだ。

 そこに探索隊のメンバーが一人だけ脱出したとなれば、何が起きたか聞き出そうとするのは当然だ。


 その辺り、ヴィンセントはうまく説明したらしい。


 最深部に辿り着いたが、自分は扉の前で力尽きてしまった。

 ディアロスが他の取り巻きと最深部に入り、中心の宝石を手に入れようとしたら地面の下から大量の屍が這いだしてきて、皆殺しにされてしまった。

 強制治癒のおかげで一命を取り留めたものの、動けるようになった時には生存者はゼロ。

 命からがら逃げてきた、と。


「それ、信じてもらえたの?」


 普通ならヴィンセントが仲間をはめて、手柄を独り占めしようとしたとか疑われるだろう。

 そうじゃなくても、学習院としては施設内で皇族が命を落としたのだ。

 責任逃れに誰かを槍玉に上げそうなものだけど。


「まーね。ディアロス、とことん人徳なかったし」


 対面のソファで出されたお茶菓子を食べながらミリムが肩を竦めた。


「いや、仮にも第三皇子でしょ。王宮から働きかけとか、責任追及とかは?」

「そっちも問題なしっしょ。もうどんどん話が進んでたよー。準備万端って感じ?」


 噂話なんかじゃなくて、本当に見限られていたんだな。

 後継者レースの的なんて話も真実味を帯びてくる。


 それにベリアン院長が擁護に動いてくれたのかもしれない。


「で、話はその報告?」


 俺たちが向かい合っているのは、特待生寮レグルス一階のロビー。

 この『俺たち』というのは俺とミリムのことだけじゃない。

 俺の隣にはリィナが不機嫌そうに、ミリムの後ろにはティムが仁王立ちで、それぞれ控えていた。


 これは一体なんの会合なんだ?


 今日は一日休息に当てるつもりだったのだ。

 学習院側も未解遺跡オリジナルの謎が解けると詰めかけそうな雰囲気だったけど、昨日のうちに記録を取ったノートや写真を渡しておいた。

 それにベリアン院長が直々に教員たちを止めてくれたののもあって静かに過ごせるはずだった。


 だけど、昼食の後にヴィオラから来客を告げられたのだ。

 誰かと思って下に降りてみると、ヴィンセントの従者の双子が待っていた。


 で、とにかく話をしようとソファに座ったところで、通りかかったリィナが有無を言わさぬ雰囲気で隣に着席したわけだけど。


「いんや、こっちが本題だよー」


 ミリムが立ち上がり、だらけた雰囲気から一変して背筋を伸ばした。

 後ろで仁王立ちしていたティムと一緒に深々と頭を下げてくる。

 奇麗な姿勢だ。

 離れて見ていたヴィオラが対抗心を燃やして、無駄に奇麗な足取りを披露し始めるぐらいに。


「ヴィンセント様を助けていただき、ありがとうございます」

「ありがとうございます!」


 頭を下げたまま二人とも動かない。

 俺がいいというまでいつまでも続けそうな雰囲気だ。


 俺としては感謝されるいわれはないだけに戸惑うばかりだ。


「いいよ。別に成り行きだし、こっちにも都合があったんだ。そもそも、俺は君の頼みを断っただろ」

「ですが、ヴィンセント様が生きて戻れたのはあなたのおかげなのは間違いありません」


 あー、もう。

 普段、だらっとした態度だけに真剣な語り口になられるとやりづらい。


「とにかく、頭を上げてくれ」

「はい」


 強くいったらやっとやめてくれた。

 ティムはそのまま立ったままだけど、ミリムの方は元のようにソファに座る。

 もう普段の雰囲気に戻っていた。

 どっちが彼女の本当の姿なのか、一度ヴィンセントに聞いてみたいな。


「じゃあ、話は終わりでいいのかな?」


 とにかく、なんの準備もなくこの子と接するのは危険だ。

 俺が席を立ってしまえば自然と解散の流れになるだろう。


「あー。待って待って。もう一個あるの」


 が、手を掴まれた。


「ふん!」

「あいた」

「ありゃ?」


 で、手刀で払い落とされた。


 いや、リィナさん、思いっきりそっぽ向いてますけど、どう見てもあなたの犯行ですよね?

 だけど、リィナの背中には耳を塞いで丸くなったウサギさんが見える。

 何を言ってきても聞こえないぞーとばかりに。

 これは追及しても無駄かなあ。

 なんだか機嫌が悪いみたいだし、さっさと話しを終えてしまおう。


「で、もう一個ってなに?」

「うん。おっぱい、もむのかなーって」


 ガタン!


 リィナが音を立てて立ち上がった。

 俺を見下ろす視線は酷く冷たい。


「カルロ、僕の親友。君を見損ないたくないんだ?(ちゃんと説明してくれ)」


 真面目なリィナには耐えがたい発言だったか。

 俺も親友に軽蔑されて喜ぶ趣味はない。

 ここはきっぱりと否定しないとな。


「違う違う。俺のリクエストじゃないから。ミリムが勝手に言い出した報酬だよ」

「しかし、遺跡の帰り道でも言っていたじゃないか。もむとか、もまないとか」

「そんなのよく覚えているね? じゃあ、もまないって言ったのも覚えてるでしょ? ミリムも忘れればいい事を持ち出さないでよ」


 話の矛先をミリムに戻す。

 全ての元凶はこいつだ。


「やー、お礼になんでもするって言ったし、年頃の男の子がしたい事って言ったらエロいことじゃない?」

「そうなのか!?」

「俺に聞かないでよ! リィナは自分の胸に手を当てて考えればいいじゃん!」


 なんで、二人掛かりで俺に問いかけてくるんだ。

 特にリィナ。

 君も年頃の男の子だろう。


 そりゃあ、俺だって男だ。

 異性にまったく興味がないと言ったら嘘になるけど、儂の影響のせいか思春期っぽい感覚に振り回され程ではない。

 儂、初恋に心を捧げてたからなあ。

 記憶として知っていると、一時の感情に身を任せる気にはなれないよ。


 それに万が一、億が一、こんな所業がシャンテの耳に入ったらどうするんだ。

 シャンテに『お兄ちゃん、不潔!』なんて言われたら俺は死んでしまうぞ。


「と・に・か・く! お礼なんていらないよ! どうしても気になるって言うんなら、ヴィンセントが俺たちに絡まないように工夫してくれればそれでいいから!」

「あーい、わかったよー。でも、本当にいいのー? 割といい体してるよー?」

「もみしだきながら聞いてくるな! ヴィオラ、お客様がお帰りだよ!」


 ヴィオラを召喚して、双子の従者を強制退去させた。


 本当に、もう、ね。

 あの子、苦手だ。


「……カルロ、話がある」

「リィナ?」


 俺に言われた通り、胸に手を当てて考え込んでいたリィナが見つめてくる。

 真剣な目に察した。


 昨日はグニラエフ立石群の中だったし、ディアロスたちがいたから落ち着いて話もできなかった。

 出自の事などをリィナが説明してくれるつもりなのだろう。


「なに?」

「ここでは話せない。今夜、時間があるか?」

「いいよ。じゃあ、夕食の後でいい?」

「ああ。僕の部屋に来てくれ」

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