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戦う考古学者と卵の世界  作者: いくさや
間章 学園編 1
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65 特待生寮

 65


 そこから俺の行動は早かった。


「くっ!」「きゃ」「きゃあっ!」「うわっ!」「ふあ……」


 土煙が舞い上がる。

 竜卵による強化を全開でヴィオラに接近し、肩に担ぎ上げ、講堂の裏へと全力疾走。

 開始から終了まで数秒と掛かっていない。

 熟練の誘拐犯顔負けの犯行だ。

 いや、さすがの儂でもそんな手合いの知り合いはいないが。


 おそらく、飛び出した時に起きた土煙が煙幕の代わりとなっているから、五人は俺とヴィオラを見失っている。

 俺がいない間に彼らの間でどんな話が進んでしまうのか恐怖は捨てきれないけど、今はこの従者人形をどうにかしないといけない。


 俺が肩からおろすとヴィオラは真剣な顔で語りかけてきた。


「ご主人様。よろしいでしょうか?」

「なんだ、言ってみろ」


 さすがに声に険が交じってしまう。

 そんな俺の態度に臆することなく、ヴィオラは続けてきた。


「私を攫ってどうするつもりだ! ま、まさか、私をその太くて大きいモノでいためつけるつもりなのか!? ええい、辱めを受けてまで生きるつもりはない! やめろ! 触るな! くっ、殺せ!」


 無表情のくせして声だけは演技力抜群なのがイラッとくる。

 本当にこいつの製作者は無駄な機能ばかり搭載しやがってからに。


「よし、いい度胸だ。ご褒美にヴィオラの頭にこいつをくれてやろう」


 さあ、唸れ、俺の七層竜卵ふとくておおきいもの

 ドMにおかしくなった従者人形の目を覚ましてやろうじゃないか。

 いや、もう割と本気で。

 こいつの制御プログラム、絶対バグってるから。


「……ご不満だったしょうか?」

「不満しかねえよ!」


 シュンとしても子犬のイメージが見えるけど、もう騙されないぞ。

 その子犬、きっと内心では叱られて悦んでるだろ。


「しかし、私が教わった話ではご主人様の年頃の男性はこのようなシチュエーションでは喜ばれると……」

「だから、マリンさんの話を信じるなって言っただろ!」

「はい。マリン女史から提供された情報は一時凍結して、再検討を進めております。ですから、これはテールの町の洗濯屋のロッコに教わった情報です」

「ロッコ君、まだ十歳児だよな! 誰だよ、そんな事を教えたのは! っつうか、テールの町には変態しかいないのか!? 子供の教育に悪すぎるだろ!」


 故郷の町が本気で信用できなくなってきた。

 シャンテの自立とか後回しにして、こっちに連れてきた方がいいんじゃないだろうか。

 ああ、もう頭痛いなあ。


「とにかく、話を戻すぞ。何がどうしてここにいるんだよ?」

「正門前でお話した通りです。先ごろ、ノーツ総合学習院と契約関係になり、先日より所属しております。丁度、学習院が寮の管理人を募集しておりましたので、応募の上、最高成績で採用されました」


 ああ、うん。従者としての能力は高いからね。

 支給されたらしいメイド服もよく似合っている。


 確かにヴィオラはルト神父に学習院に所属しているとか言っていたけど、その場しのぎの方便じゃなかったのかよ。


「ですので、今の私は貴族子女が行儀見習いのために学習院の寮で働いているという設定になります」


 ティレアさんも嘘の話に現実味を帯びるために色々と手回ししていたから、それなりの偽装はできていると思っていたけど、学習院の面接を突破できるほどだったのか。

 ご丁寧にその設定だと俺とヴィオラの関係はテールの町と同じになる。

 つまり、行き倒れていたところを助けた命の恩人で、貴族子女に復帰したけど、ご主人様と慕っている、というあれだ。


「って、それなら従者でいいだろ! なんで、奴隷とか言ってるの!?」

「『肉』は余計だという事で抜いたのですが、やはり必要でしたでしょうか。申し訳ありません。すぐに訂正してまります」

「いらねえよ! そもそも奴隷がいらねえよ!」

「しかし、ロッコが言うには……」

「ロッコの闇をこれ以上深めるな! あいつは今度帰った時に修正してやるから!」


 マジでね。

 シャンテの身が危険だから。


「とにかく、設定が生きている以上はもうご主人様とかは諦める。でも、従者な。そこはちゃんと訂正してよ」

「承りました」


 ああ、これからの寮生活が心配だ。

 とにかく、戻って皆の誤解をとかないと。




 戻ってみると、さすがに奴隷云々は冗談だと思ってくれたようだった。

 まあ、青柳君に見せてもらった異世界の物語では奴隷制度は多く見られたし、この世界にも昔はあったそうだが、現在は存在しない制度なのだから当然かもしれない。

 特待生寮へと向かう道すがらに俺とヴィオラの説明もしておいた。


「へえ。じゃあ、カルロに助けられて、仕えたいって思ったのね」

「ふん。その性格は昔からか。余計な苦労ばかり背負うとは酔狂な奴だ(優しい奴だな。つらい時は力を貸すぞ)」

「素敵、です」

「苦労しているようだな。トランジス男爵家も気を付けねばならん」

「そうね。貴族と言ってもきっかけひとつでどうなるかわからないわ」


 ヴィオラが微妙に脚色しているけど、つっこむほどの内容じゃない加減になっていて、おかげで俺のカブが上がった。

 なんか、騙しているようで罪悪感を覚えてしまうな。

 そうしている間に目的地に辿り着いた。


 学校施設と商店街の境い目あたり。

 この辺りは各種寮集まっているらしい。

 画一的にいくつも並んでいるのは平民用の一般寮。

 それより豪華で大きな造りになっている貴族寮。

 他にも職員や教員の寮も奥の方にあるのだとか。


「ヴィオラ、ここで間違いないの?」

「ええ。間違いございません」


 そんな中で、ここだけが異質だった。

 なにせ、寮と言ってもアパートではない。


 四角柱の塔。


 かなり高い建物で、ざっと窓の数から想像しても二十階建てぐらいあるのだろうか。

 純白の石造りで、大理石に似ているけど、別の素材だな。

 どことなく学習院を囲む黒い壁に通じる印象だ。


「こちらが特待生の方の専用寮レグルスでございます。どうぞお入りください」


 ヴィオラが正面扉を開けて、中に入るように促してくる。

 一階は広いロビーになっていた。

 入口にカウンターがあって、ヴィオラと同じメイド姿の女性が俺たちを迎えてくれた。


「ようこそ、レグルスへ。受付などの事務仕事はお任せください。メイド長、お部屋の準備はできております」

「ご苦労様です」


 お前がメイド長なの!?

 採用されたばかりなのに?

 採用試験でどんな成績を出したらそうなるんだよ。

 部下のメイドさんがヴィオラを見る目が憧れで輝いているし。


 そんな俺の内心に気付く様子もなく、ヴィオラはロビーを進んでいく。

 テーブルとソファーが並んでいた。


「こちらは応接室とお考えください。私どもメイドが常に待機しておりますので、ご用向きの際はお声掛けを」


 そして、正面の壁まで進むと二本の柱が並んでいて、鉄格子みたいな扉が付いていた。

 これはもしかして。


「昇降機?」

「ええ。魔導具となっております」


 俺とリィナが地下祭儀場から脱出した時と似たような仕組みなのだろうか。

 そんなものが学生の寮についているとは思いもしなかった。


 驚く俺たちを乗せて、エレベーターは二階へ。

 この階は食堂とか浴室とか、遊戯室とかがまとめられていた。


「他の先輩はいないのか?」

「はい。どなたもご自分の目的のためにお忙しいようで、お部屋から滅多に出てこられないか、お帰りにならない方が多いのです」


 説明会で言われていたほとんど学習院にいない人ってこの寮の先輩なのか。

 なんというか、うちの学年からも予想できるけど、他の主席と次席も変人なんだろうな。


「そして、ここから上の階、それぞれが皆様のお部屋になります」

「は? 部屋? 階が部屋なの?」

「はい。ご自由にお使いください」


 実際に空いている階に行ってみる。

 エレベーターの前にはそれぞれ専属のメイドさんが控えていて、来訪者を取り次いでくれるらしい。


 中に入ってみると、とにかく広い。

 大部屋がひとつに、中部屋がふたつと小部屋がよっつ。

 小部屋でさえも俺が孤児院で使っていた部屋と同じぐらいの広さだ。


「特待生の多くが自室で研究を進めるため広いスペースを用意しております」

「あ、じゃあ、ここに簡単な工房を作ってもいいのかしら?」

「工房つきの部屋は最上階から六室です。決まりではありませんが、例年魔導学科の生徒が使っておりますが、ご案内いたしますか?」

「「ぜひ」」


 マルスとカナンが声を揃えた。

 引っ込み思案なカナンもさすがは魔導学科の次席。

 工房と聞いて興味津々らしい。


 呼ばれたメイドさんに案内されて二人は行ってしまった。

 そのまま部屋も決めてしまうつもりらしい。


「俺たちはどうしようか?」

「空いておりますのは五階、六階、十階、十四階になります」


 他の階は二年と三年の主席たちが使っているんだな。

 まあ、どこでも一緒といえば一緒だけど。

 残った四人で顔を見合わせる。

 最初に手を上げたのはミレーヌ。


「では、わたくしは十四階でもいいかしら。上が工房なら少しうるさくなってしまっても迷惑にならないでしょ?」


 うるさくって、何をするつもりなんだ?

 カナンの階の近くを選んだとかじゃないよね?


「では、私は十階にしよう。カルロとリィナは同じ遺跡学科。近い階の方が何かと便利だろうからな」


 サムエルが提案してくれた。

 確かに相談したい時とか近いと手間が省けるかもしれない。


「そっか。ありがとう」

「ふん。余計な気を回さないでもいいのだがな(サムエルはいいのか?)」

「問題ない。どこでも勉強はできる」


 こうして俺たちの入寮が終わった。

 持ち込んだ荷物が少ないせいで殺風景な部屋には俺とヴィオラ。


「では、ご主人様。お世話いたしますのでよろしくお願いいたします」

「まあ、そうだろうね」


 俺の専属メイドは当たり前みたいにヴィオラだった。

 なんだかな。

 孤児院を出たのに、前と変わらないような気がするのは俺だけだろうか。

寮の名前に深い意味はないのでお気になさらず。

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