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戦う考古学者と卵の世界  作者: いくさや
第一章 シェロカミン大聖堂
6/179

4 現状把握

今度こそ説明回。

 4


 夕食を終えた儂は、再び部屋に戻った。

 シャンテと遊んでしまって、途中になってしまった確認の続きだ。


「なるほど。なかなか明るいな」


 ランタン型の魔導灯に屑晶石を入れて、灯りを点けると部屋が照らされる。四畳ほどの儂の部屋なら、これひとつで十分カバーできる光量があった。

 儂の感覚からすると理解しがたいが、こういった魔導具と呼ばれる道具がこの世界では広まっているらしい。


「便利な物だ」


 部屋の照明だけではない。料理の時もコンロのような魔導具が使われていたし、風呂場にも水を出すのと、水を温める魔導具があった。

 おかげで割と生活水準は高い。南米やアジアの奥地の部族の生活より、余程、快適だった。


 これらの魔導具は百年ほどで急激に普及した物で、魔晶石やその破片に含まれる魔力を使って動くのだとか。

 まあ、蒸気や電力の魔力版と考えればよいのかの。

 これも異世界の話では珍しくあるまい。魔力というのはよく出てくる要素だ。

 船の少年も『剣と魔法の世界』と認めていたからのう。魔法もあるのだろう。

 そんなライトノベルを青柳君が紹介してくれた事があった。


 ただし、少し違うのがこういった魔導具が使われているものの、人間は魔法を使えないという点だろう。

 魔法は精霊族と魔族の特性で、他種族には使えないのだ。

 いや、竜卵という特殊能力が竜人族の魔法と考えるべきか?

 獣人族も獣化という能力を持っているそうだしのう。


 では、どうして使えないはずの魔法を魔導具で再現できているのか。

 その秘密は遺跡にある。


 魔大陸にいる魔族や、今でこそ数を減らした精霊族と獣人族は、かつてはそれぞれの国を持つほどに繁栄していたそうなのだ。

 それどころか竜人族は当時、竜卵の力を持っていなかったため、最弱の種族として虐待されていたらしい。

 竜帝大陸はかつて暗黒大陸と呼ばれ、精霊族と獣人族と魔族の戦力争いの舞台となり、群雄割拠の時代があったのだとか。


 そんな人類を救ったのが竜帝と呼ばれる竜だった。

 竜帝の助力を得た人族は精霊族と獣人族に反抗していき、魔族さえも撃退し、暗黒大陸を平定してしまい、竜帝大陸として支配するようになったという。


 まあ、これは竜人族に伝わる歴史なので、どれだけ本当の事が語られているのかは疑問だ。

 巡廻神父の授業で使われる教科書に書かれた内容が真実とは限らない。

 往々にして勝者は自分に都合のいいように歴史を改竄するからのう。


「勝者の特権というか、横暴というか。まあ、その隠された真実を探るのが、面白いのだが」


 間違いなく教科書にも竜王国の監修が入っている。

 正しい歴史を知りたければ、他種族の文献や伝承を知る必要がある。


 閑話休題。

 そういうわけで他種族の住居跡というのが竜帝大陸には遺跡となって多く残っており、そこには魔法の力の技術が眠っている。

 竜人族はそれらを発掘し、研究し、自分たちでも使えるように魔導具を生み出したわけだ。


 そして、魔導具によって竜人族は急激に発展した。

 前世の世界でいうところの、産業革命のようなものだろう。

 儂が知る限りだと、この世界の文明レベルは中世と近代の間ぐらいだと思われる。

 この辺りのような辺境の田舎は発展していないが、王都などのような大都市では自動車や電車みたいな移動手段まであるそうな。


「しかし、そういう事か」


 ようやく納得した。

 どうして儂のような考古学者が世界に選ばれたのか疑問だったが、この遺跡の発掘に関して役に立つからだろう。


 もちろん、歴史も文化も違うが、同じ二足歩行の人類の歴史だ。

 魔法のような特殊能力があっても、そこまで的外れの成長はするまい。

 ならば、儂のノウハウが役に立つ。


 単純に発掘の方法から、遺跡の発見、文化形態の研究から、遺跡の予測まで。


 もちろん、この世界の勉強は必要だが、道筋を構築できるはずだ。

 そういう事なら、儂という人選も不思議ではない。


「ふむ」


 この世界は遺跡発掘を推進しておるという事は、竜人族を優遇したいのか?

 魔導具の発展と普及。

 それは竜人族の繁栄を意味している。

 ならば、儂以外の転生者がいるとすれば、魔導具の研究と、普及に関する才能の持ち主かもしれない。


 まあ、これは想像でしかないな。

 世界の意志と断じるのは時期尚早だろう。


「しかし、なるほど、確かに冒険できそうだ」


 遺跡というのも色々ある。

 単なる住居であれば危険もないが、それが重要な施設だったり、軍の拠点であった場合は、防犯のための機能があるものだ。

 長い年月で壊れてしまうものだが、中には活きている場合もある。

 そういった時、発掘には危険が伴う。


 というか、そこは異世界。

 ほとんどの遺跡が活きているそうな。

 罠どころか、迎撃機構として様々な障害が立ち塞がるらしい。

 意志持たぬ人形であったり、獣であったり、虫であったり、多彩だというが、この辺りは創作のお話から得た知識なので鵜呑みにできん。


「名前は、遺跡群か。ふふ、楽しみだわい」


 他にも単純に遺跡に辿り着くまでが大変な場合もある。

 地面の下に埋もれているのは基本中の基本。

 長い時間が過ぎて森の中に飲まれたぐらいならいい方で、湖の底に沈んでしまってもおかしくはない。

 それに大切な場所こそ、守ろうとして人跡未踏の地が選ばれるというのも自然な流れだ。


 だが、全て覚悟の上でこの世界を選んだのだ。 

 危険だろうが、だからこそ、その先に隠された真実に辿り着けた時、喜びもまた大きくなる。

 まだ知らぬ遺跡を想像すると、ワクワクが止められん。


 と、気が早すぎるか。

 無知で突撃するのは冒険ではなく、無謀なだけと何度言い聞かせればいいんじゃ。

 まったく。儂、落ち着け。

 今はまずは力を蓄えねばならない。


「となると、どこかの町の探索チームに入らねばな」


 遺跡の事なら専門家の下で学ぶに限る。

 発掘を生業とする人間たちが集まるチームが、大きな町にはあるそうだ。

 しかし、これにはコネか実績がなければ、門前払いされてしまう。


「それか専門学校――古代学習院で学び、高評価を得るか、か」


 大都市には遺跡発掘のノウハウを学べる教育機関がある。

 三年の在学期間中に実績を出せた者や、優秀な成績を残した者は探索チームからスカウトされて入隊するのだとか。

 まずは学習院に入って基礎を学び、探索チームで実戦的な経験を重ねるというのが王道なのだろう。


 こちらはある資格さえ満たしていれば、入学試験を受けられる。

 資格はひとつ、竜卵がアームズかストレンジである事。


「ここで竜卵が絡むとはな」


 ポシェットの卵を撫でつつ唸る。


 竜卵の最大の特徴は他種族の特殊能力を打ち破る力を持つ事なのだ。

 遺跡群特効と呼ばれているそれは、とてもシンプルな効力である。

 有効打を与えれば遺跡の防衛機構を止められるそうな。

 まあ、元々は竜帝から他種族に対抗するために与えられた力なので、内容としては妥当な能力だろう。


 その点、儂はストレンジ。

 入学資格を満たしておる。

 有名な古代学習院を狙うなら、他にも知識や運動能力のテストも必要になるそうだが、儂ならクリアできる自信がある。


「しかし、弱った……」


 問題がふたつある。


 まず、辺境の田舎町であるこの近辺には古代学習院がない事だ。少なくともカルロの知識では片道でも数日以上の日数が必要になってしまう。

 あまり地理に詳しくないので、次に巡廻神父のノルト神父が来た時に聞くが、どうしたところで下宿しなくてはならない。

 そうなれば、否応なく孤児院を出る事になる。

 かわいいシャンテを置いていくなどとんでもない。


 もうひとつの問題。

 それは授業料である。

 この孤児院の経営はあまり芳しくない。

 カルロの時は聞いていても理解できていなかったが、教会からの援助金と、ないに等しい寄付だけだ。ティレアさんとロミオ兄が内職のような事もしているが、ないよりはましという程度。

 できるだけ自給自足をして、節制をしているおかげで家族五人、なんとか暮らせているのが実情である。


 しかし、古代学習院の入学(寮費含む)に金貨三十枚。更に三年の授業料が金貨百枚だ。

 ちなみに、金貨一枚で銀貨十枚分。銀貨一枚で銅貨十枚分。銅貨一枚で銭貨百枚分という計算になる。

 さらについでだが、平均的な月の生活費は金貨一枚程度。メリヤ孤児院なら自給自足と節約生活のおかげでその半分程度と考えればいい。

 まあ、ようするに金がない。


 ティレアさんに頼む?

 そんな事できるものか。

 金貨が三十枚もあったら五年は生きていけるわ。授業料まで含めたらもう十五年以上はプラスできるじゃないか。

 二十年分以上の生活費を捻出しろなんて無理に決まっておる。

 そもそも、そんな大金があるなら、皆の食生活を改善して、アリア姉やシャンテにもっといい服を買ってやるわい。

 儂ら男なんぞ継ぎはぎだらけのお古で十分だがの。ティレアさん? あの人はいつもシスター服だから対象外じゃ。


「世知辛いものだなあ」


 異世界で冒険するためには、まずは金を稼がなければならないらしい。

 この世界に牛乳とか新聞の配達とかあるのかのう?

といいつつ、最後は孫(幼女と少女)のおしゃれについて考察する案件。

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