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戦う考古学者と卵の世界  作者: いくさや
間章 少年編
37/179

35 特訓

 35


 礼拝堂を経由して、到着したのはシェロカミン大聖堂。


 最初に執務室に向かうと、そこにはお金に目のくらんだ不良シスターの姿。

 目を爛々と輝かして、隠し部屋の棚を見つめていた。


「ふふふ。やべえ、これだけあったら五十年ぐらい補助金も寄付金なしでもやってけんじゃねえの? やべえ、やべえよ。笑いが止まらねえぜ。でっかくなった奴らにも面倒かけちまってたからなあ。もう無理させなくていいなあ。くふふふ。ああ、あいつらにも服とか新品用意してやろっかなあ。お下がりばっかりじゃかわいそうだもんなあ。ひひひ。あ、飯だ、飯。まずはそっからだろ。ひゃはっ」


 言っている事は子供たちのためなのに、ところどころで漏れる残念な笑い声が台無しにしている。

 ちょっと(自称)二十代半ばの淑女さん。

 これ、子供たちが見ちゃいけない奴じゃない?

 そっと部屋を出ていくべきか俺が悩んでいると、そんな空気を読まない少女人形が声を掛けてしまった。


「ティレアママ様。よろしいでしょうか?」

「うおっ!?」


 わかっていたけど、全然気づいていなかったんだなあ。

 肩をビクッとさせたティレアさんが振り返り、いつものように腕を組んだポーズに移行。


「よう。待ってたぜ」


 何事もなかったように装っているけど、口元が引きつっている。

 親の威厳はどこにもない。

 これは少し言っておいた方がいいよなあ。シャンテには見せられないもん。


「ティレアさん、一応女の人なんだから、もうちょっと笑い方とか考えた方がいいと思うよ?」

「……ちくしょう。一応とかつけんなって言いてえけど、今は言い返せねえ」


 俺たちの事を一番に考えてくれているんだけどなあ。

 まあ、これは俺の心の中に秘めておこう。


「それで、どうかな?」

「ああ。大体はお前の中の爺さんの見立てで間違いねえよ。さすがは異世界の専門家だな」


 おお。儂が喜んでいる。

 何かとエロ爺疑惑を受けていた相手からの賞賛だからだろう。


「じゃあ、売ればお金になる?」

「おう。間違いねえな。それもかなりの額だ」


 この宝物庫の中身を、ヴィオラの補足を受けながら儂の目で売れる物、売っていい物、売れない・売ってはいけない物で分類したのだ。

 それで実際に売る前にティレアさんに見てもらい、確認してもらったわけだが、こちらの基準で見てもあっていると保証してもらえた。


「ただ、このまま売るわけにはいかねえな」

「だよねー」


 どこに売るかが問題だ。

 仮にテールの町で宝石を売ったとしよう。

 狭い街だ。俺の時のように噂はあっという間に広まってしまう。


 メリヤ孤児院が大量の宝石を売りに来た、と。


 どこから持って来たのか。まだあるのか。何に使うのか。そんな色んな憶測を呼ぶのは目に見えている。

 それがいきなり強盗とか、恐喝に発展するとは言わない。

 でも、テールの町の住人全てが善人ではないのだ。よからぬ悪事を思いつく人間はいるだろう。

 直接手を出すような実力も度胸もない人間だって油断はできない。

 そんな人でも実力と度胸のある人間に情報を売るぐらいはできる。


 悲しいけど、これが現実だ。

 大きなお金の動きは良くない事を呼び寄せてしまう。


 俺やティレアさんやロミオ兄だけならそれでもいい。

 物騒な事になっても自力で難を逃れる力を持っている。

 だけど、アリア姉やシャンテは違うのだ。

 二人のためにも安易な扱いはできない。


「まあ、それは考えてあるよ。俺に任せて」

「売る当てって……もしかして、この大聖堂の力か?」

「うん。転移機能を使って遠くの町に売りに行く。それなら大丈夫でしょ?」


 既に現在の地図を覚えたヴィオラ監修による新しい地図も完成していて、生きている転移ポイントも調べ終っている。

 二重のポイントの内、すぐに使えるのは半分だけだったけど、それだけあれば十分だ。


「それしかねえか。よし。行くときはオレも行くからな。それと場所とか設定とかもちゃんと考えてから。それと売ってもすぐに使わない。少しずつだぞ。いいな?」

「え? なんで?」

「バカ。貧乏な孤児院がいきなり金回りよくしたら目立っちまうだろ」


 なるほど、言われてみればその通りだ。

 売り方までは考えていたけど、俺はシャンテをもっと着飾らせてかわいくする事しか頭になかったな。


「まあ、それもおいおいな。とりあえず、オレは売る順番とか考えておくわ」


 そう言って棚に視線を戻すティレアさん。

 宝物を見て悦に浸りたいとかじゃないよね? ティレアさんの目が金貨になっているように見えるけど、気のせいだよね?


 あまり残念な姿は見たくない。

 これでもなんのかんので孤児院の母として尊敬しているから悲しくなってしまう。


「じゃあ、俺は日課の方にいくよ」

「ああ。大丈夫なのは知ってっけど、気を抜いて怪我するんじゃねえぞ?」


 よかった。

 ちゃんとお金の亡者になりつつも、子供の心配はしてくれるようだ。


「それから」

「うん?」


 ティレアさんは困ったような、なんともいえない微笑みを浮かべていた。


「わりいな。子供に金の心配なんてさせちまってよ」

「気にしないで。俺の夢のためでもあるんだからさ」


 保護者として色々と思うところがあるのかもしれない。

 でも、本当に気にしないでほしいんだ。

 ティレアさんは今までもこれからも俺たちを守ろうとしてくれているんだから、これぐらいの親孝行はさせてほしい。


「ガキが生意気言いやがって」


 そんな俺の気持ちが伝わっているのか、ティレアさんは乱暴に俺の頭を撫でると、最後に背中を叩いて送り出してくれた。




 ティレアさんと別れて、俺とヴィオラが向かったのは下層の回廊の果て、巨兵人形と戦った処刑部屋だ。

 真っ暗だったドームの天井には水晶の照明が点き、殺風景な景色を見渡せるようになっている。

 そのドームの中央には例の巨兵人形と十体の銀人形が整然と並んでいた。

 けど、前と違って俺が入り込んでも反応はない。


 適当に人形たちから距離を取ってから、扉の辺りで待機しているヴィオラに声を掛ける。


「じゃあ、始めて」

「承知いたしました」


 一礼してからヴィオラは祈りのポーズを取った。

 それに合わせて人形たちの宝石が赤く輝き出して、頭部を俺に向けてくる。


 訓練開始だ。


 ポシェットから竜卵を取り出し、こちらから巨兵人形へと肉薄する。


 成長した竜卵のおかげで一呼吸の内に間合いへ侵入する。

 巨兵人形から降り注がれる四本の剣を、さらに加速して回避。

 飛び散る破片も置き去りに、巨兵人形の足関節に竜卵を叩きつける。


 キィィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイインッ!


 足首から先が砕け散った。

 バランスを崩して片膝をつく巨兵人形の背後に抜けるようにして退避。

 離れるところに次々と襲い掛かってきた銀人形の追撃も躱していく。巨兵人形がこっちを振り返る前に倒したほうが楽だけど、敢えて回避に専念。


 そうしていると、巨兵人形は自ら倒れ込むようにして剣を振るってきた。

 横薙ぎと振り下ろしの一刀を同時に。

 仲間の銀人形も巻き込む軌道だけど、同士討ちは覚悟の上だろう。

 巨大剣が直撃すれば真っ二つになるか。ぺしゃんこに潰されるかしかない。


 逃げるなら後ろ。

 でも、俺は横から迫ってくる横薙ぎに向かっていった。

 間にいた銀人形が二体、まとめて薙ぎ払われる光景に息を飲みながらも、体を寝かせて巨大剣と地面の間に滑り込み、


「ぅおおおおっ!」


 剣身を掬い上げるように卵アッパー。


 遺跡群特効が巨大剣を半ばから砕き折る。

 衝撃を受けた巨兵人形はまるで万歳するみたいなポーズで倒れていく。

 そして、体を起こせば目の前には巨兵人形の脇腹があった。


 そこに卵オーバースローから、追撃の卵ドロップキックの連打を入れれば、巨兵人形の胴体が半ばまで砕けていく。

 こうなれば巨兵人形は満足に身動きも取れないだろう。

 左側の腕も沈黙していた。


 生き残った銀人形が掴みかかってくるのを警戒しつつ巨兵人形の頭部に接近。

 右半分で起き上がろうとしているけど、それより先に宝石へ竜卵を叩きつけていく。

 一撃、二撃、三撃と繰り返したところで宝石にひびが広がり、砕け散った。


 最後に銀人形を倒してきれば、訓練は終了だ。


 あれだけ苦戦した巨兵人形が相手でも問題なし。

 確実に遺跡群特効の力は強くなっている。

 黄金人形軍との戦いで成長していたし、それからこういう訓練を何度も繰り返しているから、当然と言えば当然なんだけど。


「お見事でした」


 ヴィオラから差し出されるタオルを受け取り、苦笑する。


「まあ、寸止めルールのおかげだけどね。どうやってもこっちが有利だよ」

「そのようなことは……」


 いや、事実だからね。

 当たりそうになったら止まるとわかっている攻撃が相手だから、こっちは少しぐらい無理な行動を取れるのだ。


「申し訳ありません。ご主人様は大聖堂の主ですので、どうしても……」

「責めたわけじゃないよ。お仕置きもいらないよ! むしろ、そこはありがとう。本当にやってくれたんだから、ヴィオラはすごいね」


 背後に喜んで駆け回る子犬オーラを発生させるヴィオラ。

 無表情なのにわかりやすいよね。


 でも、本当に感謝している。

 例のお願いをヴィオラは見事にやってのけた。

 一ヶ月にも及んだルールとの戦いを制して、俺をシェロカミン大聖堂の司教という立場にしてくれたのだ。

 おかげで、その従者人形であるヴィオラの自由度も上がり、完全にこの遺跡を掌握したと言える。

 これならたとえ魔族が接触してきても、為す術もなく奪われる事はないらしい。

 いや、まあ、向こうからしたら俺の方が奪ったわけだけどね。


 というわけで、計画通りに金銭面や移動面で今後は活用していくわけだけど、竜卵の成長と実戦経験を積むためにも利用している。

 既に竜卵の印は三層目を完成させて、四層目がひとつ発生していた。

 ゆくゆくは黄金人形軍にもリベンジを果たしたい。


 それから、ティレアさんにもだ。

 やり返したいとかじゃなくてさ、守られるだけじゃなくて、守れるんだって証明したいんだよね。

 まだまだ道は遠そうだけど。

 三日前の模擬戦でもボロ負けだったけど。

 千里の道も一歩からだと儂が言っている。


 その一歩のためにも今は訓練だ。


「さあ、次のをお願い。今度は黄金人形を一体で」


 ドームの中央に魔法陣か描かれ、別の場所に待機させていた黄金人形が転送されてくる。

 俺は竜卵を片手に戦いを挑んでいった。

そろそろ少年編も終了予定。

もう一話ぐらいでしょうか。

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