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戦う考古学者と卵の世界  作者: いくさや
間章 少年編
36/179

34 抗争

 34


 今度こそ平穏な日々が続いた。


 前振りとかじゃない。

 そりゃあ、ご主人様騒動が落ち着くまでは少し時間が掛かったけど、ティレアさんが前もって話を作ってくれたおかげで鎮火も早かったのだ。

 計画通りヴィオラを孤児院に連れ出し、いっしょに生活していくうちに話のも定着して、すぐに新しい話題に移っていた。


 まあ、今でもたまに『ご主人様、今日はいい天気だね』とか『ご主人様はヴィオラちゃんと仲がいいね』とか『ご主人様、攻めるっていうのは痛めつけるのと違うんだから、ちゃんとそこのところを……』なんて声を掛けられるけどね。

 言うまでもなく、最後の台詞はマリンさんだけど、少年に何を指導しようというのか。


 ともあれ、平穏な日常だ。

 うん。平穏だ。平穏なはずだ。平穏じゃないとおかしい。


「お兄ちゃん、こっち!」

「ご主人様、こちらをどうぞ」


 左右からそれぞれ押し付けられるタオル。

 挟まれた俺の顔は愉快に変形している事だろう。

 ちなみに、右がシャンテで左がヴィオラ。

 ロミオ兄との訓練が終わったところにヴィオラがタオルを持ってきてくれて、対抗したシャンテもまたタオルを押し付けてきた。


 どうもこの二人、相性が良くないらしい。

 というか、シャンテが一方的にヴィオラを敵視――とまではいかなくてもライバル視している。


 シャンテにとって初めて家族以外の同居人というのもあるだろうけど、そんな人間じゃないけどが俺の世話を甲斐甲斐しく焼いている。

 それが気に食わなかったのか何かに連れて対抗するようになった。




 同居から数日の朝食後、いきなりシャンテは椅子の上へといきり立ち、ティレアさんに叱られて摘まみ下ろされ、それでもヴィオラをきっと見据えて吠えた。


「お兄ちゃんはシャンテのお兄ちゃんなの!」


 そのまま俺の手を取って、ヴィオラから引き離そうとする。


「ほかの人はお兄ちゃんとなかよくしちゃダメ!」


 小型犬が威嚇しているみたいでかわいいな。

 なんて、和んでる場合じゃないか。


 うーん。

 いや、嬉しい。嬉しいんだよ?

 お兄ちゃん大好きアピールとか、シスコンじゃなくても嬉しいよね?


 でも、これはちょっといき過ぎているような気もする。

 幼い独占欲ぐらいならいいけど、それで他の人間関係を傷つけては問題だ。

 遺跡の一件から、俺へのシャンテの懐き方は強くなったなと思っていたけど、これはブラコンの領域に片足を突っ込んでいる。

 そんじょそこらの奴にシャンテをやる気はない俺でも、嫁ぎ遅れにしてしまうのはもっとダメだと理解しているのだ。


 で、俺はこの時に対応を間違えた。

 すぐにでもシャンテをなだめるなり、ヴィオラに一声かけるなりすれば良かったのに、出遅れてしまった。

 ヴィオラは無表情のままシャンテを見下ろし、一声。


「お断りします。カルロ様は私のご主人様です」


 と、七歳児に真正面から対抗してしまう。

 二人は真っ向から睨み合って、俺の言葉元届かなくなる始末。

 他の家族は頼れない。

 ティレアさんはケンカするなよとだけ言い残して行ってしまい、アリア姉は二人を微笑ましそうに見守って、ロミオ兄はにっこりと優しく見える笑顔で俺の肩を叩いた。


「カルロ。しっかり仲を取り持つんだよ?」

「そんなこと言わないで助けてよ! あ、もしかしてこの前の肉奴隷、根に持ってる?」

「さあ、なんのことかなー」


 優しく見える『だけ』の笑顔を深めて、ロミオ兄は行ってしまった。

 というわけで、二人の仲裁をしなくてはならなくなったのだが、俺の頑張りも虚しく、二人は何かに連れて対抗戦を繰り広げている。




 すぐに対抗するのも飽きてしまうと様子を見る事にしたんだけど、これが予想に反して一向に飽きない。

 シャンテは毎日のようにヴィオラと戦い続けている。

 家事に取り組むヴィオラの後ろを追う姿も


 まあ、結果として、性能的には高性能なヴィオラに負けまいとシャンテはお手伝いに積極的になったのは良い事だ。

 スキルアップに集中しているせいか、能力の暴走も起こさなくなっている。

 実にすばらしい。


 間に挟まれる俺が以外は。


「じー」

「………」

「あー」


 じっとりと見つめてくる左右の目。

 今日は洗濯勝負なのだろう。

 どっちのタオルを手に取るかで勝敗が決まってしまう。

 俺としては何に置いてもシャンテを優先したいところだけど、そのシャンテは自分の方の何が良かったか質問攻めしてくるのだ。

 そこでちゃんと説明できないと拗ねてしまう。

 ヴィオラには実力で勝ちたいらしい。

 実に高潔で、向上心溢れる妹だ。愛している。


 拗ねたシャンテもかわいいが、兄としては妹の成長を妨げるわけにはいかない。


 となると、どうしてもヴィオラを選ばざるを得ないのだ。

 このタオルにしても柔らかさが違う。香りも違う。傷み具合も違う。

 シャンテの頑張りという特別項目を封印しなければならない客観的なジャッジだと、ヴィオラの勝利は揺るがない。


「ごめんね、シャンテ」


 俺はヴィオラのタオルを受け取った。

 勝利を確信していたのだろう、シャンテはガーンとショックを受けて、信じられないものを見たとばかりにポカンとしてしまっている。


 これ、この表情がきつい。

 妹の成長のためなら心を鬼にして悪役を演じる覚悟はあった。

 でも、シャンテの茫然とした顔を見る度に心が抉られるようだ。思わず理屈なんて抜きにして力いっぱい抱きしめてしまいたくなる。

 新手の精神修行としてノルト神父にお勧めしたい。


 しばらくすると、シャンテはショックから立ち直った者の、今度はぶるぶる震えて、口をきゅっとしてしまう。

 泣くのを我慢しているようだ。

 まあ、目元の水滴は見なかった事にしてあげるのが優しさだろう。


「ごはん! ごはんでかつもん!」

「受けて立ちましょう」


 判断が難しいな。

 果たして、ヴィオラはシャンテの成長のために敵役を演じているのか。それとも七歳児と同レベルで対抗意識を燃やしているのか。


 しかし、今日はダメだろう。


「ヴィオラ、今日はあっちだよ」

「……失礼いたしました。罰は如何様にも」

「だから、乗馬ムチなんて出すな!」


 そっと差し出されたムチを奪い取って、シャンテから隠しておく。

 くそ。これ、マリンさんの差し入れだろうな。ケガはしないように布を巻いてやがる、っていうか如何にも実用品ですって感じの雰囲気が嫌だ。十歳児にこんなのを持たせるんじゃない。

 ヴィオラが情緒豊かになるのはいいけど、そっち方面を強化しないでもらいたい。


「お兄ちゃん、それなあに? シャンテも見たい!」

「はは、何かなあ? それより、シャンテ。今日はお兄ちゃんお出かけの日なんだよ」


 隠された何かを見ようとぴょんぴょんするシャンテの頭を撫でるふりで押さえながら、話題を変える。


「帰って来たらシャンテのご飯、楽しみだなあ」

「シャンテ、がんばるね! いっぱい食べてね!」

「うん。約束だ」


 泣きそうになったり、好奇心でいっぱいだったシャンテが笑顔を輝かせて、孤児院へと駆けていく。

 転ばないか見守ってから、俺とヴィオラは礼拝堂へと向かった。

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