レベル19・スケルトン は ボス に なってしまった!
王国暦300年
迷宮都市の中層階にて、当時14歳であった大剣豪グラントの子孫である現剣聖ゲイル=アビルテア、及び鉄壁の槍騎士シードル=アイアータメルを含む4名のチームがスケルトンの特殊固体を確認。
一戦交えるも特殊固体は逃走、ゲイル達の証言によれば一太刀を入れることさえできないほどの強さであったという。
同年
スケルトンの特殊固体の目撃例が頻発、同時に戦闘能力の解明が進む。
高い戦闘能力を誇り、見た目が『真紅の血』に酷似していること、さらに彼の存在が出現した際の状況に近いとのことで、冒険者ギルドはスケルトンの特別固体に特別懸賞金を設定。
その際、目撃者の証言にあった爆発を利用した特殊な移動法を用いることから『爆発する者』という固有名詞を設定。
王国暦301年
懸賞金専門の冒険者チームが『爆発する者』を高層階付近にて発見。
周囲のモンスターを圧倒するほどの強力なモンスターになっているとのこと、この報告を受け冒険者ギルドは王国にこれを報告し、国をあげての正式な討伐隊を結成することとなる。
同年
第一次『爆発する者』討伐隊30名が迷宮都市に出立。
なお、メンバーにはゲイル、シードルを含め、現在の魔導王マホ=デーハナーや神託の巫女イータ=イーコも参加している。
同年
第一次『爆発する者』討伐隊、壊滅。
参加者30名のうち、帰還者は僅か7名。
王国・冒険者ギルドはこの報告を受け、全国家に対して「緊急事態宣言」を発令、世界中から選抜した強者による第二次『爆発する者』討伐隊の設立を提案する。
王国暦302年
第二次『爆発する者』討伐隊50名が決定し、正式に騎士団として設立。
王国暦303年
第二次『爆発する者』討伐隊、迷宮都市に出立。
前回参加者であるゲイル、シードル、マホ、イータもこれに参加。
同年
第二次『爆発する者』討伐隊、壊滅。
参加者50名のうち、帰還者はゲイル、シードル、マホの僅か3名。
その際、神託の巫女イータが残した遺言が報告される。
―――あれは『真紅の血』とは違う、何かもっと別のモノ―――
これをもって全国家は『爆発する者』を『真紅の血』以上の脅威と設定し、歴代最高額の懸賞金を設定する。
しかし被害の大きさから討伐隊の再結成は一時凍結される。
王国暦304年
剣聖ゲイルの提案により、少数精鋭による第三次『爆発する者』討伐隊が結成される。
初期メンバーはゲイル、シードル、マホの3名。
討伐隊はすぐに迷宮都市には向かわず、メンバーの募集と『爆発する者』に対抗できる武器・防具・魔法道具の回収を主な任務とした。
王国暦307年
第三次『爆発する者』討伐隊13名、迷宮都市に出立。
また、ここに至るまでの数年間に達成した偉業や功績を称え、全国家からの承認を受けた国境を越える独立騎士団『円卓の騎士団』と任命される。
同年
迷宮都市、消滅。
円卓の騎士団、全員生還。
ただし、報告によると任務は「恐らく失敗」したとのこと。
追い詰めこそしたものの、『真紅の血』と同じく「大消失」を起こし、ダンジョンを取り込んだものと予想される。
同年
迷宮都市跡地を特別進入禁止区画とすることを国家間協議にて決定、同時に円卓の騎士団による監視が開始される。
また、円卓の騎士団が自主的に世界中のダンジョン内にて同様の事例を調査・解決することを主な任務と定め、全国家はこれを援助することを承認する。
王国暦308年
『爆発する者』出現の兆しが現れないため、「緊急自体宣言」を一時的に解除することとなる。
円卓の騎士団に対する任務、及びそれに対する援助に関しては引き続き続行。
王国暦310年
『爆発する者』に酷似した特殊固体の目撃例が、迷宮都市から遥かに離れた場所で冒険者パーティーから報告される。
しかし被害が治癒可能な軽度の怪我のみであり、地理的な変形や消失等がおこっていないことから誤報か酷似した別の存在と認定された。
念のために調査団が派遣されるも、それらしい存在や『真紅の血』の時のようなモンスターの軍団等は特に確認されず、その地域の平常時と変化は無かったため、後日正式に誤報と認定される。
~著書「【災厄】と呼ばれた歴史」より一部抜粋~
――――――――――
雷が暴れ狂う黒雲が立ち込める空、その下に広がるのは命の枯れた荒野。
荒野へ続く場所には生命力の溢れる森が突如として現れ、進んだ先には命を育む湖と、その先に広がる命を削り取る雪山が聳え立つ。
森を抜け、荒野を凌いで、湖にて休み、雪山へと向かう。
戻った森の先にあるのは人の住む領域、どこから来ても険しい道のりを超えねばならないこの地域は、攻め入るに難く住むに容易く、しかし特産物と呼べるものも無ければ運搬の難しさから交易も少ない、戦争の通過点としてもデメリットのほうが遥かに多くなるような、そんな地域。
ここに人が来るとすれば、戦火を恐れて逃げてきた、逃がされてきた訳有りの人々と、雪山に住むという龍を討伐せんとする冒険者達くらい。
雪山に向かって戻ってきた者はいない、言っても無駄だとわかっていながらも村人は口を揃えてそう告げる。
言われながらも、自分達だけは大丈夫と慢心した冒険者達は今日も雪山を目指す、戻らない冒険者達の全てが同じ思いをしていたとも知らずに。
目指す道の途中に、龍よりも恐ろしい存在がいるなど考えもせずに。
そして冒険者達は、恐ろしい存在に出会う。
「ぐうぅぉおあぁっ!」
爆発音が響き、告いで金属と金属が高速で擦れあう耳に痛い音が鳴り響く。
金属音が鳴り止むと同時に再度爆発音が響き、それは連続で空気を振るわせた。
風船が割れるような空気の破裂音ではなく、衝撃波を伴った質量のある爆発音。
それを放っている者は、異形の騎士とも呼べる姿をしていた。
それは憤怒が形を成したもの、と例えることができるであろう。
光さえも反射しない黒い鎧の隙間から、赤い炎が呼吸をするかのように噴出しつづける姿は、まるで地獄の一部が歩き回っているかのような錯覚さえ覚える。
どこかの王国の鎧に似ていなくもない姿だが、あつらえたかのように鎧の各所に開いた炎を吐き出す噴出孔と、骸骨をそのまま変形させたかのような邪悪な兜がその姿を異形にしている。
鬼の顔を象ったような巨大な盾も、峰側に鎧と同じような噴出孔がつけられた巨大な片刃の曲刀も、それら全てを装飾する赤い模様から噴き出している炎も、何もかもが異形。
少なくともこの冒険者達は、そんなモンスターの存在を知らない。
「来るぞ!」
異形の剣を受け止め、大きくへこみができている全身を隠せそうなほどの大盾を構えた大男はそう叫ぶ。
異形の騎士の背部にあった噴出口から、爆発音が……いや、文字通りの爆発が起こる。
それは爆発という衝撃波を利用した高速移動手段、間違いなく超重量を誇っているであろう異形の騎士を、一瞬で移動したかのように錯覚させる人間ではできない行動。
そうしてくる、という予測が無ければ防御することすら難しい高速戦闘技能だ。
片手剣と普通サイズの盾を持ったリーダーであり、アタッカーでもある男。
巨大な盾と本来であれば両手で使う槍を持った大男。
神聖なる術で支援や回復を担う僧侶の女。
魔力を用いた強力な攻撃手段を持つ魔法使いの女。
バランスのとれたチームである場合、最も狙われる相手、それは……
(回復役だっ!)
リーダーと大男は同時に動く、僧侶の両脇へと。
その読みは間違いなく正解であり、異形の騎士は大男側に移動していた。
僧侶の女は仲間を信頼しきっている、大男と騎士の衝突に怯むことなく、自分の成すべきことを成す。
衝突の直前、彼女の術は成立し、大男とリーダーは強化の光に身を包まれた。
強化の光を受け、先ほどの一撃を受け止めた大男は油断していた。
異形の騎士は、噴出孔から爆発を生み出せる。
それがなぜ「刃側」ではなく、「峰側」についているのかを理解していなかった。
爆発という現象を攻撃ではなく、移動に利用しているというのに。
移動させられるものは異形の騎士だけではないということに。
そのことに大男が気づいたのは、剣の噴出孔に炎が集まり、今まさに爆発せんとする光景を見た後だった。
「―――――っっ!」
爆発によって急加速した剣、それは空気の壁に衝突し、空気もろとも大男に襲い掛かる。
盾は大きく「く」の字にひしゃげ、もはや盾としての機能を残していない。
衝撃波での攻撃に変化したことにより、盾ごと切り裂く「斬撃」とならなかったことだけが唯一の救いとなったかもしれないが、それを差し引いても有り余るほど強力な一撃。
それは大男を一瞬で再起不能にするのに十分すぎる威力を誇っていた。
「きゃああっ!?」
大男の背後に隠れるようにして立っていたことが仇となり、大男と共に僧侶も吹き飛ばされる。
「き、きさまああーーーっ!」
仲間の防御を崩されたことに、恐怖を覚えるべきであったのだろう。
しかしリーダーの男はそれよりも、自らの惚れた僧侶の女を傷つけられたことに憤りを感じていた、恐怖よりも、先に。
逃げることよりも、戦うことを選んでしまった。
それが、致命的な結果に繋がるとも知らずに。
「くらえ!『ブラストソード』!」
リーダーの剣が光り、異形の騎士へ向かっていく。
剣を振り切った姿勢であることが隙であると判断してのことなのか、それとも感情に任せた何も考えていない行動なのかは本人にもわからないだろう。
確かに隙であったかもしれない、異形の騎士が異形の盾を持っていなければ。
次の瞬間、リーダーの目の前に現れたのは鬼の顔、怒り狂ったような表情で睨みつけている。
輝く剣は盾へと吸い込まれるように向かっていき、衝突する。
魔力により付加された能力は衝撃波、異形の騎士が放った物理現象としての衝撃波と違い、それは魔力によって強制的に生み出された超常現象。
故に彼我の力にどれだけ差があろうとも、その差を覆す手段に成り得る強力な攻撃手段だ。
「……なんだと」
いや、「だったのだ」と言うのが正しいだろう。
必殺とまでは言わずとも、それなりに強力な一撃であった、少なくともリーダーにとっては。
少なくないダメージは与えられると思っていたし、今まではそうであった。
だが結果として、異形の騎士の身は「無傷」というもの。
僅かばかりに後退したのか、地面には土を抉ったような跡がついている。
しかし、それだけでしかない。
本体はおろか、盾にさえ傷もついていないという状況がリーダーの目の前に広がっていた。
盾の横から半分だけ、死神のような騎士の兜がリーダーを覗き込んでいた。
「……っ!?」
死の恐怖。
頭で考えるよりも先に、本能よりも早く、心の根底にある感情が心臓に触れたような感覚がリーダーを襲う。
「避けて!」
それが全身を硬直させるより一瞬早く、仲間の声がリーダーに届いた。
その声は魔法使いのもの、どんなモンスター相手にでも致命傷を与えてきた、頼りになる切り札の声。
一瞬見えた絶望の前で、それを打ち消す希望が見えたような気がして、リーダーは声に反応することができた。
咄嗟にバックステップで距離をとる、ちらりと魔法使いのほうを見て、強力な水系の魔法がすでに出現していることを理解する。
その魔法の攻撃範囲に自分と仲間が入っていないか確認しようとして、視線を吹き飛ばされた大男と僧侶のほうに向ける。
そして、リーダーは決定的な判断ミスをする。
そこにいたのは、回復魔法を受けて立ち上がる大男と、親指を立てて戦えることを示している僧侶。
仲間が無事であったことを知り、リーダーは再び前を向く、異形の騎士に向かっていく巨大な水流と氷塊の魔法を見る。
戦うことを、選んだのだ。
「カカカカッ!」
一瞬のことだった。
異形の騎士が赤く光った。
次の瞬間、視界が真っ白に染まっていた。
それが、異形の騎士を中心として起こった大爆発だと理解できたのは、爆発に巻き込まれて吹き飛んでいく自分を、どこか他人事のように感じている時だった。
水と氷の魔法は爆発の熱に耐えられずに蒸発し、仲間も全員爆発に巻き込まれている。
存在としての格が違いすぎた。
逃げるべきだった。
一目見たその瞬間に。
武器を構えたその瞬間に。
大男の盾をへこませるほどの一撃を放った瞬間に。
盾ごと大男と僧侶を吹き飛ばした瞬間に。
魔法に気をとられていた瞬間に。
死ぬ前に。
爆発が収まり、空中に打ち上げられている自分達。
自由落下する際の独特な浮遊感がする中で、リーダーはしっかりとそれを見た。
僧侶の女が意識を失いかけ、今まさに死へと高速で向かっている最中であるというのに。
希少な絶対回復薬と名高いエリクサーを取り出し、こちらに向かって投げつけた瞬間を。
そして。
投げられたエリクサーを、空中で奪い取った異形の騎士の姿を。
「カカカカッ」
まるでスケルトンが動いている時のような、不気味な笑い声を聞きながらリーダーの意識は途絶えた。