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レベル1・スケルトン が あらわれた!

 カツン


 硬質な物質同士が軽くぶつかり、独特な音を奏でる。

 現代でイメージの近いものを言うのであれば、石で出来た道を歩く時に鳴る靴の音が最も近いだろう。


 カツンカツン


 歩くスピードに合わせるように、一定のリズムを刻んで響く硬質な音。


 カツンカツンカツン


 周囲の景色は洞窟のような、石に囲まれた硬質な空間。

 鍾乳洞ではなく単純な洞窟らしく、石筍等は一切無い。

 単純に石に囲まれた空間が広がるのみで、灯りの類いも無い。

 暗闇の広がる空間の中で、何者かが生み出す硬質な音だけが響き渡る。


 カツン……


 やがて、音が止まる。

 すると硬質な音の代わりに、誰かもわからない男の呻き声が聞こえてくる。


「ううっ、ぐ……」


 暗闇の中に頼りなく揺れている炎の灯りは、男が落としたのであろう壊れたカンテラの最後の灯火だ。

 油が漏れ、そこに燃え移った炎が揺らめいているに過ぎない。

 風前の灯、すぐにでも消えてしまうだろうという意味の諺が、炎にとっても、呻き声をあげる男にとっても相応しい。

 今にも消えてしまいそうに揺らめく炎は、呻き声をあげる男の残る人生を表現しているかの如く、弱々しく儚い。

 炎の灯りに照らされている男の体は、生きているのが不思議なくらいの瀕死であった。


 切り裂かれた腹。

 肘から先が欠けている左腕。

 足と頭は辛うじて無事ではあるが、無事であることと無傷であることは違う。

 流れ出る血は眼を塞ぎ、ズボンを赤く染め上げる。

 四肢欠損、内臓損傷、出血多量。

 どれをとっても、現代であれば十分に死という結果につながる状態。

 それでも彼の命が未だ尽きていないのは、彼が冒険者という種類の人間であること。

 そしてこの世界に魔力が、そこから生み出される魔法という手段があるからだ。

 時間さえかけることができれば、彼は万全の状態同様の姿に復活することもできただろう。


 時間さえかけることができたのならば。


 カツンカツンと再び音が鳴る。

 音の発生源が近づくにつれ、男の表情は焦りと絶望に染まっていく。

 男はその音の正体が何かを知っている。

 その正体が目の前に迫った時、自分の未来がどうなるかを簡単に予想できる。

 惜しむべきは、どこまでも時間が無かったことであろう。

 あと数時間あれば、走ることこそできなくとも自由に歩き回っていただろう。

 そうなっていれば、音の正体に見つかることなくもっと遠くにいたはずだ。

 あと数十分あれば、音の正体を察知した時点で隠れることも可能だっただろう。

 そうなっていれば、少なくとも命の危機は脱していたはずだ。

 あと数分あれば、少なくとも抵抗くらいはできただろう。

 そうなっていれば、魔法や魔法の力を持つ道具を使って何とか切り抜けることができていたはずだ。


 カツン


 連続して響いていた硬質な音は、男の直前で鳴ったのを最後にして止まった。


 揺らめく炎が音の正体を露わにする。


 使い込まれてはいるが、壊れている様子は全くない簡素な革靴。

 どうやら音の正体は靴の音ではなかったようだ。

 骨のように真っ白で、どんな細身のモデルでもここまでスラリとした者はいないだろうというほどの細い足。

 腰には革製のベルトから五角形の革製パーツが吊られた簡単な腰当て。

 それをつけている腰周りは、本当にちゃんと装着できているのか疑わしくなるほどの細い体だ。

 強く掴めば折れてしまいそうな細い腰から、均整のとれたいっそ美しいとさえ表現できる細い上半身が続き、子供の腕かと勘違いしそうなほど細い、しかし成人男性ほどの長さがきちんとある腕が続く。

 上半身に防具らしきものは装着していないが、女性の象徴とも言える脂肪の塊は存在しない。

 恥ずかしがるような素振りも無く、それが当たり前かのような態度をとっていることから、音の正体の性別は恐らく男に分類されるのであろう。

 男であるからなのか、右手には今時の新人冒険者が使うような安い鉄製の片手剣が握られ、左手には木の板に取っ手をつけただけの盾らしきものを持っている。

 男というものは冒険者に憧れるものであるからして、剣と盾という組み合わせが自分の戦闘スタイルでは無いとわからないうちは、とりあえず似たような装備をするものだ。

 取り分け、自分を客観的に見ることが苦手とされる男はその傾向が非常に高い。


「フーッ、フーッ……」


 男の荒い息遣いに何を感じたのか、音の正体は男の顔にゆっくりと顔を向ける。

 ランプの炎が、消える直前になってその勢いを僅かばかり強める。

 命の残りカスなど少しも残さないと言わんばかりに、最後の一瞬、時間にすれば本の1秒ほど。

 強くなった炎が、音の正体の顔をはっきりとさせる。


 病気のように、というよりも絵の具の白を顔に直接塗ったかのような真っ白の顔。

 目は窪み、口はだらしなく半開きになっていて、頭からは一本の毛も生えていない。

 まるで頭蓋骨そのものが動いているかのような存在が、炎の揺らめきに照らされ、そして暗闇の中へ飲み込まれていった。


 ランプの炎が消え、訪れる暗闇と静寂。


「うあああぁぁぁ!」


 ランプの炎と、男の命が消えるのは、ほぼ同時のこと。


 残ったのは、顎の骨が口の骨にぶつかって、カツンカツンと硬質な音を奏でる暗闇だけだった。




【スケルトンがレベルアップしました】

【パッシブスキル:疑似生命を獲得】

【パッシブスキル:疑似意識を獲得】

【パッシブスキル:学習能力を獲得】

【パッシブスキル:魔力操作を獲得】

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