レベル10・スケルトン は イタイヒト に 遭遇した!
うーむ、謎。
果たしてこの誘拐犯が弱いのか、私が強いのか疑問が尽きぬ。
……いやどう考えても誘拐犯が弱いんだけどね。
熊を倒せるとか絶対ハッタリだよ、熊強いよ熊、あいつらモンスターじゃないくせして下手なモンスターより速いし力あるよ。
こんなおっそーい攻撃じゃ熊に当てるだけでも一苦労だって、なんていうか走る馬相手に子供がむきになって全力疾走で対抗してる感じ……あれ、この例え前に使ったな。
ここは剣豪スケルトンの真似をしてギリギリで避けて反撃……なんてカッコイイこと出来るほど練習してませんです、はい。
とりあえずただの振り下ろしだし、華麗にバックステップという名の緊急回避行動ですね。とうりゃ。
「らあっ!」
……わーお、それは予想外デス。
まさかの地面陥没とは恐れ入った、ダンジョンの地面って結構硬いのに。
避けてよかったー、あれ剣豪スケルトン(キリッ)とかやってたら吹っ飛んでたよ、バラバラになってたよ、なにあれ怖いんですけど。
あれか、彼はパワー特化タイプだったのか、スピード系は多分もう一人のほうなんだろうな、いや魔法使いかも……それは無いな、魔法が使えそうな顔してないもん。
「避けた……な」
「そう言ってんだろうが!」
いやまあパワーだけだし? 当たらなければどうということはないのだよ、当たったら終わりだけど。
まあ関節強化してなかったら最初の一発で終わってるね。
「手伝うか?」
「てめえは姫さんを見てろ!
コイツは俺がぶっ殺す!」
ひ、姫ですとっ!?
「カカカッ」
「こいつ……笑ってやがる!?」
やべ、声出ちゃった、いや出ないけど。
それにしても姫さんとか、姫ってあれだよね、モテモテの女の子に言うアダ名とかじゃないよね? あの子絶対にモテモテになりそうなタイプじゃないし、人間的にもスケルトン的にも。
「死ねやおらぁっ!」
え、ってことはあの子王族なん? うっそだ〜、王族って美男美女ばっかりで結婚するから生まれてくる子供は絶対美男美女になるもん、冒険者の記憶がそう言ってるもん、あの子はスケルトン基準だと全然ダメだし、人間基準でもいいとこ中の上くらいだよ? 全然王族っぽくないじゃーん。
「くっ、このっ!」
おまけに王族って基本性能、特に魔力保有量とかも気にするから全員魔法使えるもん、あの子使えるどころか一般人レベルだもん、一般人見たこと無いけど冒険者の記憶だとあんなもんだもん。
「ちょこまか動きやがって、てめぇ本当にスケルトンか!?」
あれ、ってことはもしかしてあれじゃね?
KA☆KU☆SI☆GOじゃね? 禁断の恋的な、メイドに手出しちゃった的な、若気の至り的な、まあなんかその辺のどれかみたいな。
あちゃー、やっちゃってたよ王様、やっちゃったよ。
もしかして立場的に正統な王位継承権持ってたりして。
「こんのっ、やらぁ!」
やべーって、それはやべーって、政権争いじゃん、政治家さん達が頑張っちゃうよ、ヤバイヨヤバイヨー。
……ってかなんかさっきからブンブン煩いなぁと思ってたら、誘拐犯さんだったのね、なんか息切れしてるけど大丈夫ですか?
「はぁっ、はぁっ、こ、この野郎……っ!」
うーん、避けられるんだけどなぁ、避けられるんだけども、あのパワーで殴られたりとか考えると怖くて近寄れないよなぁ、わざわざあんな剣とか使わなくてもパンチ一発で昇天できそうだもん。
……なんでやってこないんやろ?
「見ていられん」
うげ、もう一人こっち来た。
二対一はキビシー、さすがにキビシー。
あの人は短剣二本持ってるから多分スピード重視タイプだと思うんだよね、こっちの男の人と真逆のタイプじゃないかと思うんだ。
さすがにスピードで押されて隙あらばパワーが狙ってくるってのなぁ、剣豪スケルトンならともかく私じゃ捌けないよな、よし、逃げよう。
回れー右ッ!
あ、これ右側向いただけだ、後ろ向かな。
もっかい回れー右ッ!
……
…………
………………
回れー右ッ! もっかい!
あ、ヤバイこいつら気づいてない。戦う気満々だ、もうちょっと空気を読む能力を鍛えてくださ……あ、俺が邪魔で見えないのか。
左にサイドステップ、フロントステップ、回れ右してバックステップ! よし、完璧なステップだ、こんだけ空けてやったんだから見えるだろう!
「そんな動きで俺が騙せるかよ」
ダメだったー!
こいつアホや! 騙されてるよ、逆に騙されてるよ! やった本人も意図してない方向に騙されてるよ!?
そして速いな、いつの間に俺の隣に来た……あ、俺が近づいたのか。
「所詮スケルトンはスケルトン、大人しく消えやがれ」
あ、思ったより遅かった、これなら普通に避けられるわ。いつぞやの飛ぶ斬撃を放ってた冒険者のほうが全然速い。
顔を狙ってくるのはさすがですけどねー、スケルトンの弱点って頭蓋骨らしいからねー、でも横薙ぎだと軌道がバレバレなんで避ける方向っていっぱいあるんよねー。
とりあえず屈んで避ける、と。
そうすると俺の頭蓋骨は胸の前あたりに来るわけなので、こいつの選択肢は膝蹴りかもしくは……
「シッ!」
突きくらいしか無いんですよね。
で、これを腕の外側に避けるとあら不思議、なんと無防備な背中を狙えちゃいます!
まあ攻撃なんてしないけどね、ここで踏み込むと多分あれが来る。
「おらぁっ!」
訂正、踏み込まなくても来ました。
なんかもう流れ作業みたいなノリやなー、連携パターンっていうか、右足だして左足出すと……歩ける! くらい当たり前のようにやってきたなー。
仲良かったんやね、よしよし。
……げ、ヤバイ。
反対側の通路にチラッと見えたアレはさっきのアレのアレだ、ってことは俺の後ろにもアレのアレがアレしてるよね、逃げ場が無くなってまう、はよせな。
「チッ、俺も本気でやるか」
「へっ、スケルトン程度になんだったっけか?」
やっぱ仲悪いんかな。
というか俺の強さとかどうでもいいので早く気づいて下さい、多分もう完全にアレされてるので俺がアレするにはアレになってくれないとあかんやん、はよ気づいてや〜。
およ、スピード君がなんか怪しい武器取り出した。
魔石……は付いてないけどなんか怖いなアレ、なんちゅーか黒い。いや別に見た目は普通のナイフなんだけど、放ってる気配が黒い。モンスターの骨か牙でも素材にしてんのかね?
ダンジョンに食われる前に必要な部分を切り離せば普通に持ち歩けるしなー、ダンジョンがいらんて判断したもんはその場に食い残す場合もあるし、ありえるっちゃありえるけどレアケースだなー。
あと加工がめんどいらしいからあんま出回らないって冒険者の記憶が言ってる。
「死ねっ!」
受けたらアカン、これはダメだ。
娘さんの……姫さんだっけ? そっち側のほうがいいかな、回避行動的にも周りのアレ的にも。
……む?
明らかに刃が届いてないあたりが切れてる。
刀身が延長された……ってより見えない刃が伸びてるような感じかな、あの黒い気配がするあたりが多分見えない刃部分かな。
ダンジョンの硬い床を切るくらいだし、受けてたら剣ごと真っ二つだったね、アッハッハ。笑えない。
「ほう、暗殺剣ブラックリッパーを避けるとは中々やるではないか」
あ、暗殺剣ブラックリッパーだとぅ!?
……いや知らんけど。
なにその厨二病的なネーミングセンス、別の意味で怖いんだけど、いい精神科のお医者さんに見てもらったほうがいんでない?
っていうかキャラ変わってるよ、今宵の虎徹は血に飢えておるわ、とか言い出しそうな気配だよこの人。
「今宵の暗殺剣は血に飢えておるわ、フハハハハ!」
言ったー! 言っちゃったよこの人!
ダメだこいつ早くなんとかしないと!
……あ、本格的にヤバそう、周りの気配が変わった。
気配とかよーわからんけどなんか変わった感じがする、これはアカン、はよ逃げな。
どっか逃げ道は無いかー?
「そこまでだっ!」
あー、来てもーた……
どうやって逃げよ。