デッドエンドを回避せよ
【あらすじ】
クリスマスの次の日。後輩の光君に呼び出された。
そしたら彼は、ナイフを持っていて.
そして私は、この世界が乙女ゲームと気付いたのだった。
【注意】
残酷描写あり
えー、Mayday、Mayday。SOS。SOSです。
こちら、乙女ゲームの世界です。
ただ今、「BAD END」に入っているようです。
攻略対象者である、ショタ担当の後輩にナイフを持って迫られています。
このままでは、私、刺されちゃいます。
「せーんぱい。僕が殺してあげるからね」
「っ…」
えーー、つい先ほどなんですが『私ってば、前世でやっていた乙女ゲームに転生してたわ』って思い出しまして。
絶体絶命のピンチです。
どうぞ。
***
「先輩は、どうして僕の気持ちを分かってくれないのかなぁ」
「どうしたの?」
二年に進級して、いつの間にか仲良くなった一学年下の後輩。
光君は、可愛いイケメン顔の頬を膨らませた。
(うわぁ。 可愛い)
つい、ツンツンとしたくなって、右手の人差指がプルプルと震える。
「…先輩、その人差指なに?」
「さぁ?」
私は誤魔化すように、右手を後ろに隠そうとしたのだが、光君が早かった。
私の手を取り、まだ伸びていた人差指をパクリと食べた。
「あ!!!!」
「おいひい」
「おいしい?って、 ちょっと、やめて! お腹壊すよ!」
「………」
ジュゥゥゥゥゥ。
レろ。
「!!!!」
吸われて、舐められた。
引き抜こうとしても光君の手が私の手首を固定して動かせない。
次第に舌使いが怪しくなり、ぬめぇっとした感触が指の先から伝わって、この状況に真っ青になる。
「………」
ガリッ
「ぎ!!!」
噛んだ! 噛んだ! 噛みよった!!
「光君!! 痛い! 骨まで噛んでる!! バカ! 離せ!!」
やっと離してくれた人差指からは唾液が光り、刻まれた歯型からは血がにじんでいた。
「左手、薬指」
「はぁ?」
「今度は、左手、薬指につけてあげようか?」
何を言っているのか。
目の前のショタイケメンは。
「先輩、こういう時ってさぁ、顔を青くさせるんじゃなくて、真っ赤にさせるべきじゃないの?」
「………怒りで真っ赤になりそうだよ」
「先輩が悪いくせに」
そう言ってまた頬を膨らませた。
私は、散々いたぶられた人差指を、じっと見つめ途方にくれる。
(洗いたい…)
キョロキョロと辺りを見渡しても、近くにそういう場所もなく。
「………(このベトベト)どうしてくれよう」
「! じゃあさ、こうだ!」
「!! んぐ!!」
今度は、私の口の中に、光君の人差指が入った。
びっくりして、大口を開けるがそのまま口内に指を入れられ、舌の裏まで嬲られた。
「うえっぷ」
喉の奥まで指を入れられ、嘔吐いている間に、私の口にいれていた人差指を、今度は自分の口にパクといれた。
「甘い」
「…さっき、チョコを食べたから……って!! そうじゃないでしょ!! いきなり何をするの! それに、指を舐めない!」
「え~~。じゃぁ、直接、口でしていいの?」
「ダメダメダメダメダメ!!」
何をおっしゃるうさぎさん。
私は、大げさに顔を横にブンブンと振り、両手で口を隠した。
「………」
OK。
OK。
落ち着け私。
光君と私。1歳差だけど、すでにジェネレーションギャップだ。
彼の行動の一切合財、意味が分からん。
何がどうなった。
昨日までは、可愛い後輩だったじゃないか。
昨日は、クリスマスだった。
その日、私は友人達を集めてクリスマスパーティーを開いたのだ。
平凡な私からは勿体ないくらいの、高スペックな友人達は、高校2年に進級してから、急に仲良くなった。
(昨日は、楽しかったなぁ。ケーキが特に美味だった…)
「……そのネックレスは、会長から?」
ハンカチで人差指をぬぐいつつ、私が昨夜のケーキに思いを馳せていると、険のあるトーンで光君が言った。
「え? うん」
「ピアスは、アイツからで、その髪飾りはアイツからかな」
「…うん。昨日、クリスマスプレゼントって」
「…僕のは? 気に入らなかったの?」
「え? 全然! 嬉しかったよ!!」
昨日のクリスマスは、なぜか友人達からプレゼントを頂いた。
プレゼント交換とは別に、個人的にくれたので恐縮をしたのだが、一切聞き入れてもらえずに無理やり渡された。
その中で、光君はチョコの詰め合わせ。ちょっと重厚なハートのケースに入っていた。ちょうどいい腹ごなしになると、今日は鞄に忍ばせて、それを待ち合わせ時間に食べていたんだけど……。
「じゃあ、なんで付けてないの?」
「つけて…?」
「アハハハハハハハハハハハ!!!!」
ビクッ!!
目の前で急に笑い出す、光君。
手で顔を抑え、笑いが止まらないみたいで。
なんだろう。
何か嫌な予感がする。
心臓がドクドクと早鐘を打つ。
「……」
「!!」
指の隙間から見えたのは、狂気の瞳。
「……先輩? 僕はその他大勢になるつもりはないから」
「は、ひ?」
「共有なんて、悪趣味もない」
「共有?」
「たった、一つの年の差でさ、子供扱いされるのももう、真っ平なわけ」
そして、光君はコートのポケットからヒカル…ナイフを取り出した。
「だから、僕だけのものになって?」
***
私は『逆ハーレムEND』を、昨日のクリスマスに迎えていたようです。
すごいぞ、昨日までの私!!
どうりで、あれだけの高スペックな人たちと、何度も接点があったはずだ。
最初はツンツンしていた、友人達も徐々に心を開いてくれて、私自身は沢山友人が出来た事に喜んでいた。
いや、気付こうぜ!
どこの世界に、友人相手に
『…俺は、お前がいるだけでいい』
『君って、耳が弱いよね?』
『僕を…選んでよ』
なんて言うか? そして、そんな友人達に囲まれて、何も気づかずにヘラヘラと笑っていたのか……我ながら恐るべしだなヒロイン!!!
しかし……
どう間違ったのか、光君が暴走中。
昨日の『逆ハーレムEND』からの『刺殺END (BAD END)』
WHY?
何が、どうして?
考えろ!
思い出せ!
前世の私の記憶よ! もっと甦れ!!
その時、首元のネックレスが光った。
――『……そのネックレスは、会長から?』
『じゃあ、なんで付けてないの?』
あああ!!!!!
「光君! ストップ!!!!!」
「ん? どこを刺されたいかリクエスト?」
「ちがーーーう!! ちょっと、待とうか。鞄にあるから!!!」
慌てて鞄の中に入れておいた、ハートのケースを取り出す。
そして、中のチョコに紛れ込んでいた“ある物”を見つけ出した。
「ほらほら!!!」
「………」
私の手の中には、指輪。
「……どうして、僕のは身に着けてなかったの?」
「!! 違うの!! 駅、駅のトイレで手を洗う時にね、外して…そのまま忘れていたの!」
もちろん大嘘です。
しかし、私は必至だった。
いや、必死にならざるも得ないだろう。
今、ここで対応に間違ったらBAD ENDまっしぐらだ。
『逆ハーレムEND』では、クリスマスに各攻略キャラから、アクセサリー類のプレゼントをもらう。
好感度が高い順に、『指輪』『ネックレス』『ピアス』『髪飾り』というわけだ。
他のプレゼントは身に着けて、一番好感度が高い彼のプレゼントを身につけなてなかった事態、逆鱗に触れたらしい。
チョコ好きの私の為に、チョコも“おまけ”で入れてくれたようだけど、その…“おまけ”に私は食いついてしまって、メインの“指輪”なんてアウトオブ眼中(死語)だった。
「とっても気に入っていて、傷を付けたくなかったの」
私は震える手で、指輪を指にはめようとした。
すると、光君はナイフをポケットにしまって、指輪を奪い取り、呆れた声をだす。
「違うでしょ」
そして、はめた指は……
「……光君」
「ほら、ここに決まっているじゃない」
左手薬指。
「……うん。可愛い」
「…ありがとう」
満足そうに微笑む光君に安心する。
(よかった…BADENDを回避できた?!)
しかし、そんな安心もつかの間。
次の言葉に凍り付く。
「……でも、指輪は外しちゃうんだよね。やっぱり、消えない傷をつけておこうね?」
左手薬指を、指輪を、ぐりぐりと、彼の綺麗な指でこねられ、もう反対側の手が…またポケットに………。
「あ……光…くん?」
「傷をいっぱいつけた方が、自分のものっていう気にならない?」
また、さっきの瞳。
***
Mayday、Mayday!! SOS! SOS!
BAD ENDを回避しても、この先の未来がやばい気がします!!
SOS! SOS!
至急、助けを求めます!
どうぞ!
【あとがきを兼ねた登場人物紹介】
先輩(主人公・ヒロイン)
乙女ゲームのヒロインだった転生者。
そうとは気付かず、『逆ハーレムEND』を迎えた。
しかし、好感度が一番高かったのが、ヤンデレの光だったのが運のつき。
彼が、逆ハーレムを許すわけがない。
甘いものが大好き。
チョコが一番好き。
光(ショタ担当後輩・攻略対象者)
先輩が子ども扱いしてくるのが気に入らない。
クリスマスは二人で過ごせると思っていたのに、余計な“先輩の友人達(攻略対象者)”が居て驚いた。
真相を聞こうと、次の日に呼び出したら、自分のあげたプレゼント以外を身に着けていて一気にヤンデレモード全開になる。
きっと、彼女の体には彼につけられた、歯型と切り傷だらけになるだろう。