無人島でヤンデレと。
【あらすじ】
タイトルそのまま。
【注意】
虫嫌いの方。
ひょんな事から、無人島でタクトと2人漂流。
しかし、タクトがあまりにも役に立たない。
「ハルちゃん、どこ行くの?」
「水汲み」
「僕も行く!」
ってな具合に…。
お前は、濡れ落ち葉か。
行くとこ、行くとこ、ついて来る。
「タクトは、火を起こしてて」
「えー。ハルちゃんと一緒がいい! 僕が一緒にいない間に何かあったら、どうするの? それに、水汲みは男手があったほうがいいでしょ?」
「…じゃぁ、私が火を起こすから」
「ダメだよ! ハルちゃんが火傷したら、どうするの? 一緒に火起こししよう? 二人の共同作業だよ!」
うざい。
うざいし、効率が悪すぎる。
唯でさえ、やる事はいっぱいあるのに。
無人島では、ヤンデレなんて、全然役に立たない。
私のイライラが止まらない。
ーーなので
タクトに黙って、ひとりで魚を突きに行く事にした。
「キャア!!」
足を滑らせて海にドボン。
岩で、足を切ってしまった。
「ハルちゃん!!」
私を捜しに来たタクトに見つかってしまう。
(げっ)
タクトは、私を見るなり無言でお姫様抱っこをして、私たちが根拠地にしている場所まで連れて帰ってくれた。
「……」
「…ごめんね?」
「……」
「…タクト?」
嫌な予感がする。
油断していたわけじゃないけど、こいつはヤンデレだ。
黙々と私の傷の手当をした後、いつものタクトらしからぬ様子で、てきぱきと寝る場所を作ってくれた。
「ありがとう」
「……」
タクトに何を言っても、返事をくれない。
この日の夜は、気不味い思いをしたまま終わった。
▽▲▽
(ん?)
朝――のはずなのに、真っ暗。
風を感じない。
鳥の鳴き声も虫の声もしない。
ここはどこ?
まだ、夢の中?
でも、お尻に感じる冷たい石の感触。
昨日の脚もまだジンジンと痛む。
「――ハルちゃん」
「タクト? 夜なの? でも、星が見えないし…」
空?を見上げても、何もない。黒一色。
無人島の夜は、星の光で都会の夜より明るく、夜目が効いた。
最初は星の美しさに、感動したのを覚えている。
「ここは、僕が見つけた洞窟」
「どうくつ?」
「そう、いい感じでしょ?」
いい感じでしょ? と言われても真っ暗で何も見えない。
自分の手足も見えないので、すごく不安定な感じがする。
「これでスコールが降っても、安心だね」
「…うん。……ねぇ、タクト…昨日はごめんね」
「いいよ。別に」
「よかったー。許してくれて」
「違うよ」
「え?」
「許してない。許さない」
「タクト?」
!!
何かが私の脚に触れる。
生温かいソレは、私の脚を撫であげて
「…ッツ!!」
昨日の傷の上を、ひっかいた。
「痛い!」
「ハルちゃんは、しばらくここから出ないで」
「…っつ」
カチッ
視界を覆う白――――光?!
「痛い!! 目が痛い!!」
「ごめんね? 急に明るくしたから、目が驚いたかな?」
「明るくって……どうして、タクトって懐中電灯なんて持っていた?」
「うん。昨日、ハルちゃんが寝ている間に、届いたよ」
「届いたって…何を言って…」
ここは無人島でしょ?
涙がポロポロ溢れる目を瞬いてから、ぼんやりと見えるタクト。
「大丈夫だよ? 食料も、定期的に届くしね。届くっていうよりも、降ってくるっていった方がいいのかな。クスクス」
「降ってくる?」
「うん。 パラシュートをつけて、しゅーーーーーって」
自分の言った言葉がさも面白い事のように、ジェスチャーを交えてニコニコと説明するタクト。
私の強ばった表情に気付いたのか、口を尖らせる。
「ハルちゃんが“監禁なんてありえない”って言うから、島を買って、放し飼いにしてあげようと思ったんだよ? なのに、やっぱりダメだよね。調子に乗らせちゃ。こんな、ケガまでつくってさ。許さないからね」
「島を買った? ここ、無人島でしょ?」
「そうだよ。僕たちしかいない僕たちの楽園」
信じられない。
「…帰る!!」
「どこに?」
「どこって、私のマンション!」
「無理」
「まさか、勝手に解約したんじゃ…」
「違うって」
クスクスクス
「~~じゃあ、実家に帰るから!!」
「だから、無理だって」
クスクスクス
「はぁ?」
意味がわからない。
何を言ってるの。
「はぁ? じゃないよ。ハルちゃん。 ハルちゃんの住んでいたマンションも、実家も、市も、…まとめて言えば国もないから? 可笑しいね。ハルちゃん」
ダメだ。
タクト、何を言ってるの。
頭がおかしくなったの?
「ふざけないでっ。国がないとかって私がこの島にいている間に、隕石でも落ちてきて、国が消えたとかいいたいの?」
「違う違う。もっと単純だよ。ハルちゃんの帰る所がなくなっただけ」
「??」
「まだ分からない? 戸籍だよ戸籍」
「……戸籍?」
「そう。ハルちゃんは、転覆事故で死んじゃったから戸籍がなくなったの。死者には帰る所はないでしょ? お葬式はとっくに終わったしね。安心してね。僕もちゃんと出席しておいたから」
豪華にしておいたよー。白い薔薇を引き詰めてさ。うっとりとした表情で語りだす、タクト。
「冗談?」
「何が? 綺麗なお葬式だったよ」
おかしい。タクトはずっと私の側を離れなかった。私が勝手に海に行ったのも、1時間も立ってなかったはずだし。
「いつ?」
「…ハルちゃんが、寝ている間? ちょっと時差があるから詳しくは秘密だけどね」
信じられない。
「ハルちゃんは、ちゃんとわかるまでここに居てね?」
カチッ
そう言って、懐中電灯の電気を消した。
「ヒャッ! ちょっと、タクト消さないで!」
タクトが居るであろう場所に手を伸ばすが空をきる。
「タクト! ふざけないでよ!」
四方八方にむちゃくちゃに、腕を振り回したのに空をきるだけ。
真っ暗。真っ暗だ。
「タクト、いるんでしょ?」
何も見えない。
「タクト、タクト、タクト」
静かすぎて、耳が痛い。
「タクトってばーー」
視覚を奪われて、自分の身体も不安定。
「………タクト」
いつの間にか、寝ていたみたい。
でも、起きても真っ暗で、起きている実感がない。
「タ…ゴホゴホゴホ」
声がガラガラ。
さっき叫びすぎた。
水飲みたい。
カサカサカサ
!
足に這う、無数の脚の感触。
「ハッ! タク…ト!! ぐ ゲ ホ ッ ゼ ェ ゼ ェ…」
動かないようにジッとしていると、嫌な感触が通りすぎた。
気持ち悪い。
虫は触りたくない。
触ったら噛むかもしれない。
今動いたら、虫を潰してしまうかもしれない。
潰した後に座りたくない。
「…… …… …タ … ク ト」
ヒユゥゥ~。 ぜ、ハァハぁ。
返事がない。
暗い。
静か。
一人。
助けて。
何もない。
今日はいつ?
何年何月何日何曜日何時何分何十秒?
私って本当に生きてるのかな。
タクトの言った通りに、転覆事故で死んだんじゃないのかな。
マックラ
ナニモキコエナイ
ナニモミエナイ
タスケテ
タスケテ
タクト
タ
ク
ト
タ
ス
ケ
テ
「ハルちゃん、愛しているよ」
タクトは優しい。
いつも、一緒にいてくれる。
「ハルちゃん、甘えたなんだから。ちょっとソコを見てくるだけだよ?」
「嫌、嫌、嫌」
ブンブンと振る私の頭を優しく撫でてくれる。そして、「いいよ」って言ってくれた。
ほら、やっぱり優しい。
タクトと、手を繋いで海岸沿いを歩く。
タクトがいないと不安。
タクトがいないと生きていけない。
後から、ついてくる私の手をギュッと握ってくれて、ニコニコ笑うタクト。
タクトは優しい……?
(――もう、暗いのは嫌)
(――もう、静かなのは嫌)
(――もう、一人は嫌)
「………?」
「ハルちゃん?」
「ううん。なんでもない」
無人島でタクトと2人。
タクトのお陰で私はここにいる。
だってここは、私たちの楽園だもの。
【あとがきを兼ねた登場人物紹介】
ハル
しっかり者の彼女。
でも、うっかり者。
嫌いなもの 虫
タクトに、洞窟に閉じ込められちゃって、ついでに調教もされちゃった。うっかり娘さん。
タクト
ヤンデレ。島を持つ金持ちのボンボン。ハルを放し飼いと思っていたのに、やっぱり最後には閉じ込めて、お仕置きもしちゃったよ。