友好国という名の敵
この世界に召喚されてから二ヶ月程経った。
第三市街の事、ユイナの事もあったが、それ以外にも、小さな事や大きな事、いろいろあった気がする。
そして今、俺は初めての闘いのため、アムニスタの闘技場に来ていた。
「さて、行くか」
俺はグローブを着けながら闘技場へと足を進める。
闘技場へ入ると、たくさんの歓声が聞こえ始めた。
歓声の声を上げるのはナルタリアや、アムニスタの人々だ。
観客を見渡せばサーシャやユイナそれにモルジアールもいる。
王族席にはミナの姿も。
皆、俺を応援しに来てくれていた。
初めての闘いは友好国のアムニスタと。
闘いを申し出たのはアムニスタからだった。
友好国同士なので、どちらが勝ってもいい。しかし、そんな言葉は上っ面だけだ。
ナルタリアもアムニスタも本当は勝ち、領土を広げたいだけなのだ。
そこで使われる便利な、[友好国]という言葉。
正直な話、どっちもどっちだ、なんて思ったが、今の俺に重要な事は他国に勝つ事だけだ。勝たなきゃ救えないんだ皆を。
太陽が熱く照りつける中、俺は闘技場の中心に立ち、気合いの言葉を叫んだ。
「っしゃあぁぁぁ!!!」
俺の叫びに闘技場が沸き、それと同時にアムニスタの勇者も入場してきていた。
他の勇者の顔は知らない。なので、ガチガチのマッチョとか来たらどうしよう、などと考えてしまったが、闘技場に向かってくるシルエットは槍の様なものを持つ女の子だった。
「えっ?女の子?」
予想外の事に驚く。確かに、女の勇者もゲームじゃ、いたといえばいたが、現実では、やはり男の方が体格的に有利だ。
そこで俺の弱点が出てしまう。
自分で言うのもなんだが、女の子に手を上げるなんて、とても出来ない優男なのだ。
「女の子には手を上げらんねーよ、さすがに…」
呟き、どうしたものかと、考えている間に、アムニスタの勇者は俺の目の前に来ていた。
アムニスタの勇者は嬉しそうに笑っていた。
この状況を楽しめる奴って、相当ヤバイんじゃね?などと思いつつ、こちらも笑顔。恐らく、かなり引きつった笑顔になっていただろう。
「は、初めまして」
とりあえず俺は握手をしようと、手を伸ばしたが、アムニスタの勇者は俺の手を叩き、握手を拒否。
失礼な奴だなと、顔を再度見てみると、彼女は今にも泣きだしそうな顔をしていた。
いやいや、訳分からんし、泣きたいのはこっちの方だ。
二人の間によく分からない空気の中、沈黙が続く。
すると、闘技場の空間が歪み、突如、一人の女の子が現れた。
「え?」
「な、なんだ?」
俺とアムニスタの勇者は突然の事に驚く。無論、闘技場内も混乱している様子だった。
異様なのが現れた女の子の容姿。口と目だけが開けている拘束具を身に纏っている。そして年齢。恐らくユイナと同じぐらい、もしかしたらそれ以下だ。
しかし、異様な服装以上に恐怖を感じたのは、雰囲気。
その雰囲気からは、神々しさと禍々しさがぐちゃぐちゃに混ざったようなものを感じた。
闘技場全体が呆気に取られていると、女の子は口を開いた。
「こんにちは♪しんぱんしゃのピアです♪きょうはよろしくおねがいします♪ピアときがるによんでくださいね♪」
先程の雰囲気からは思いもよらない程の甘い声でピアと名乗る審判者は挨拶をした。
闘技場全体は、先程とは違う意味で呆気に取られていた。
「さて♪さっそくはじめちゃいましょうか♪」
言うと、審判者は突然、宙に浮き始めた。
俺を含めて闘技場中はまたもや驚いていたが、審判者はお構い無しに続ける。
「これより、ナルタリアとアムニムタの…ナルタリアとアムニスタの闘いをはじめます…」
噛んでしまい、恥ずかしそうにもじもじしている審判者。しかし、容姿が容姿なので、全くと言っていい程笑えなかった。
観客達も審判者が噛んだ事は誰も突っ込まなかった。多分、俺と同じ気持ちなのだろう。
「それでは、さっそく。よ~い……」
審判者が始まりの合図を始めた頃合いで、アムニスタの勇者が話しかけてくる。
「貴様だけは、絶対許さない…!!!」
「え?」
俺は聞き取れず、もう一度聞こうとしたが、
「ドン!!!」
審判者の合図と共にアムニスタの勇者は瞬く間に俺との距離を詰めてきた。
「はぁ!!!」
「え?うそ?」
相手勇者の攻撃速度は凄まじく、回避が間に合わなかった俺の腹部に槍の穂先が突き刺さる。
「ま、マジ…かよ…」
体感したことの無い痛みが腹部を襲った。