表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/31

始まりの狼煙

「勇者さま…朝…です!」


 体を揺すられ目が覚める。

 俺を起こしてくれたのはユイナだった。ユイナの後ろにはサーシャもいる。


「勇者殿、モルジアール殿がお呼びです。仕度が出来次第、執務室に来てほしいとのこと」


「ああ、分かった」


 多分、闘いの事だろう。詳しい話はまた次の時にと、言っていたし。

 俺がベッドから出ると、ユイナはベッドでゴロゴロと、寝転がっていた。

 そんなユイナをサーシャは注意し、ベッドメイクのやり方を教えていた。


「楽しそうだな♪俺も混ぜてー♪」


 俺はベッドへと飛び込みユイナを抱き締める。


「勇者さま、くすぐっ…たいです~♪」


 ユイナはくすぐったそうに、微笑んでいた。

 俺達を見るサーシャはやれやれと、少し呆れ顔だった。

 平和だ。少なくとも、今、この場所は。

 俺はこの小さな平和をもっと大きなものにしたいと、心から感じた。

 短い時間だったが、3人の平和な時間過ごした後、俺は身仕度をして、執務室へ。

 執務室では、当たり前だがモルジアールが待っていた。

 モルジアールと軽く挨拶を交わし、早速本題へ。


「お話とは、闘いについてです。恐らく、そろそろ各国の代表者が揃う頃合いでしょう。今一度問います。勇者様、私共の国のため、闘いに参加して頂けますか?」


 モルジアールは重い口調で語る。

 俺は深く息を吸ってから、口を開く。


「ああ、やってやるさ」


 今の答えはやれるとこまでじゃない。必ずやり通すという答え。

 救いたい第三市街を。サーシャを。ユイナを。


「そうだ、参加国…というか、この世界に、今現在、この世界には国はいくつあるんだ?」


 思っていた疑問を口にする。最終的に1つに統一するのだから、重要な事だし、国の数が分かれば、闘いの数もある程度は計算出来る。


「この世界には現在、328ヵ国存在します。大小は様々ですが、この闘いは、国土、財力、軍事力は問わないので、実質、どの国もが平均。闘いは厳しいものになるでしょう」


「328か…最高でも8回闘いがあるのか…」


「いえ、トーナメント制では無いので一概に試合数は決められないかと…条件の中では、日程などの記載もありませんでしたし」


 つまり、最悪、327勝しなくてはならない可能性もあるということだ。

 予想外の事に少し不安になる。が、

 俺はそんな不安を吹き飛ばすため、勢いを付け、乗り切ろうとした。


「まぁ、結局目指すは一番トップだ。やってやるさ、絶対にな!」


「おぉー!!!頼もしい限りですぞ!勇者殿!」


 勢いをつけたはいいが、やはり不安なのは内緒だ。

 その後もモルジアールとの作戦会議、というか話し合いは続いた。

 ある程度、話し合いが進んだとこで、大変な事に気がついた。

 それは、俺自身が強いのか分からない。

 何故、今まで考えなかったのか分からない。

 むしろ、一番重要な事なのに。


「な、なぁ、モルジアール、俺さ、自分がちゃんと闘えるか分からないんだけど大丈夫?」


 俺は苦笑いで話す。


「………………」


 モルジアールは目を閉じ、何かを考えているようだ。

 流石は大臣なだけある。こんな時も冷静だ。


「分かりませぬ!そこは、勇者殿の努力でどうにかしていただくという事で!」


 モルジアールは物凄い覇気を放ちながら言う。鬼の気迫を感じる。

 実際、このおっさんが闘った方がいいんじゃね?とも思ったが、代表者オンリーの条件なので、仕方ない。


「分かったよ…頑張ってみます…」


 俺は力無く返事した。


「おっと、早速参加の合図の準備をしなくては!」


 話し合いの終わった俺達は解散した。

 モルジアールは準備をすると言い、城の兵士達に声を掛けていた。

 兵士が呼びに来るとの事なので、俺は一旦部屋で待機。

 一時間程待っていたら、部屋に兵士が。

 特に準備することも無いらしいので、そのまま中庭へと向かった。

 中庭は大広間から繋がっているらしく、ひとまず大広間へ。


「勇者様、皆様がお待ちです」


 兵士は言いながら中庭への扉を開く。すると、中庭には多くの兵士が集い、その数は1000人を越えていたと思う。

 兵士達は綺麗に整列し、奥にはこの国のお偉いさんらしき人物達が居た。

 その中でも庭の奥にある豪華な椅子に腰掛け、兵士1000人の迫力をも退ける、圧倒的存在感を放つ少女が居た。


「来たわね?勇者。ワタシがこの国の第一王女のミナレア・リーン・ナルタリアよ!!!」


 圧倒的な圧力に俺は無意識に地面にひざまずく。


「は、はい。お目にかかれて光栄です。王女」


 顔を上げると王女は椅子を離れ、俺へと近付いてくる。

 その歩き方は優雅で、見惚れてしまいそうになる程だった。


「ふーん。アンタが勇者?冴えないし、弱そう…ねぇ、アンタ、ホントに戦えるの?」


 随分口が悪い王女様だ。せっかくの綺麗な立ち振舞いや、顔立ちが台無しだ。

 などと、考えていたら、多分顔に出ていたのだろう。

 王女はいきなり俺の胸ぐらを掴み、


「アンタ今、ワタシの事バカにしたでしょ!?」


 と、突っ掛かってきた。

 こんな王女あり?言動に気品もなにもあったもんじゃない、とは思ったが、次は顔に出ないよう頑張り、その場を収めるために謝罪をする。


「申し訳ございませんでした」


 もう、泣きそうだ。王女とはいえ、年下の女の子に、心を読まれ、胸ぐらを掴まれ、挙げ句、謝る以外の選択肢が無いなんて。


「次はこれだからね!!!」


 と、王女は拳を握り、次やったら殴る、と表してきた。

 本当になんなんだ。この王女は、と考えていると、モルジアールが今回の目的である、参加の合図に取り掛かり始めた。


「この日、勇者様が正式に闘いへの参加を申し出た!我が国、ナルタリアは衰退の一歩を辿っていたが、勇者様がご活躍なされば、再び、前進する事が出来る!」


 モルジアールの声は大きく、その声量は城中にも響いてるのではないかと思う程だ。


「勇者様、こちらへ」


 兵士に案内され、王女の前で再度跪く。


「我が国の未来をそなたに託します。我が国に希望と繁栄を」


 先程までとは明らかに別人の王女。

 清んだ声は俺の耳ではなく、心に響くよう感じがした。

 先程の存在感とは、別物の存在感。

 王女の姿は気品と慈愛で満ち溢れているようだった。

 

「「「「ナルタリア国万歳!!!」」」」


「「「「ナルタリア王家万歳!!!」」」」


「「「「勇者万歳!!!」」」」


 兵士達の声が中庭に響く。声は壁の如く、俺の体にぶつかるかのようだった。

 暫く経ち、兵士達の声が止む。

 中庭の中心部へ向かうモルジアールの手には何やら水晶のような物が。


「では、参加の合図を始める!!!」


 モルジアールが水晶のような物を空中へ放り投げると、瞬く間に加速し、天高く舞い上がって空中で破裂した。

 破裂した様はまるで花火だ。

 俺の知っている花火とは違い、火では無く、光が破裂していて、とても幻想的だった。

 隣で見ていた王女も花火を見上げている。

 花火の光が王女の顔を様々な色で染める。花火と、それを見る王女もまた、幻想的と言えた。

 参加の合図は完了した。

 これでもう、退くことは出来ない。いや、出来なくていいんだ。

 みんなのために闘わなければいけないのだから。

 決意と不安と希望。三つ巴の感情の中、俺は始まりの狼煙はなびを見上げていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ