輝くナルタリア
モルジアールとの話が終り、執務室を出ると、サーシャが扉の前で待っていてくれた。
「お疲れ様でした~♪。お部屋に戻られます?」
品格の溢れていた先程までとは違い、また、妖艶で甘ったるような声のサーシャに戻っていた。
「わざわざ待ってなくても良かったのに」
気を使ってくれるのは嬉しいが、サーシャにばかり迷惑を掛けるのは悪いな、と、少し申し訳無い気持ちになる。
「勇者殿は私めがお嫌いですの?」
サーシャは爪をかじり、寂しそうにわざとらしくアピールする。
すると、いきなり表情を変え、
「まぁ、私めは勇者殿専属の使用人を任されましたので、勇者殿のお側にいることが仕事なんですけど~♪」
寂しそうな表情から一転し、明るく笑うサーシャ。
卑怯だ。卑怯。笑った表情可愛い過ぎるだろ!などと、少しの間、俺はサーシャに見惚れていた。
「しかし、勇者殿が、どうしても私めを嫌いと仰るなら…私めは…」
だから、卑怯だって、これがギャップ効果ってやつか!?悲しむ顔のサーシャもまた、綺麗だった。
「嫌いじゃないし、むしろ、サーシャみたいに綺麗な女性が着いていてくれるなら嬉しいぐらいだよ」
サーシャのペースに流されていては身が持たないと、流れを引き寄せるため、逆転の為の一言を放った。
「え…?」
サーシャは顔を真っ赤にし、下を向いて黙ってしまった。
普段は押してばかりだが、意外に押されるのには弱い。
うーん、実はストレートな表現には弱いタイプなんだなと、少し反省。
「ま、まぁ、それはそれとして、この国を案内してくれないかな?まだ、客室と、執務室ぐらいしか見てないし」
このままではお互い黙りが続くと思ったので話を切り替える。
「は、はい。どちらからご案内しましょうか?」
こちらの気遣いに気づいたのか、サーシャは案内する場所を考え始めた。
「えーっと、お城の中、城下町ぐらいならご案内出来るかと…」
「分かった。じゃぁ、城から頼むよ」
サーシャは仰せのままに、と一礼すると、城の案内を始めた。
サーシャと会話をしながら城を見て回る。
城は思っていた通り、RPGによく出てくるような感じだった。
記憶喪失の割に、ゲームとかの常識とかも分かるようだ。スラ○ムとか、チョ○ボなどなど。
不思議なもんだなーと考えていると、サーシャが声を掛けてくる。
「お次は城下をご覧になります?」
どうやら、城の案内が一通り終わったようだ。
まぁ、城の中の部屋とか、大広間なんかは機会があれば、また話そう。
「扉を抜ければ城下にございますぅ♪民も召喚なされた勇者殿にお喜びでしょう」
そう言って、サーシャは扉の前の衛兵に手で合図する。
扉は大きく、高さはゆうに6メートルはあろう。
衛兵が扉を開く。扉の開き方はスイッチを押しただけだ。
「い、意外にハイテクなんだね」
俺が苦笑いで言うと、
「はい。お城ですからね。やっぱり、最新技術ですよ~」
サーシャは扉が開ききった頃合いで、俺の手を取った。
「さぁ、参りましょう、城下へ」
外へ出ると、長い階段の下に街が見える。大きな街だ。
街はたくさんの人で賑わっていた。
至るところに[勇者祭]と書かれた紙が張ってあり、正にお祭り騒ぎと言えた。
「勇者祭って、俺の事だよな」
正直恥ずかしい。何をしたわけでもないのに、持て囃されていることが。
「そうでございます。皆、勇者殿に沸いておるのです。それと、あなた様が勇者であることはまだ、ご内密に…」
サーシャは口に指をあて、俺が勇者だと言うことは内緒だ、と表現した。
階段を降り、街の広場へ。
広場の真ん中に大きな噴水があり、屋台や売り子がたくさんいた。
「賑やかなもんだなー。かなり大きい国なんだね」
「いえ、これでも我が国、ナルタリアは国土で言えば下から数えた方が早い小国なのです」
「そうなのか。こんなに賑わってるのに。ってか、国の名前初めて知ったよ」
サーシャは言ってませんでしたか?と、笑っていた。
しかし、具体的な広さ等は分からないが、これだけ賑わっている国で小国とは驚きだった。
その後、いろいろな場所を回った。商店街やら、民家の集まる場所。だが、どれを見ても、モルジアールが泣くほどまでに、危機を感じる物は無かった。
むしろ、国民は皆笑い、戦争の起こっていた雰囲気など無かったかのように…。
いろいろ回った後、広場へ戻ってきた。
街を回るついでにサーシャから貰った地図を広げ、自分達の行った場所に印を付けていった。
その時、不思議な事に気がつく。
ナルタリアは城を中心に周りを街で囲うような造りの街なのだが、地図を見て左側の方だけは、全く手付かずだったのだ。
「サーシャ、こっちは何があるんだ?」
地図の印の付いていない辺りを指さし、サーシャに質問をする。
「………そちらは、第三市街にございます」
サーシャは視線を反らし、言いにくそうに言うと、続けた。
「先程まで、勇者殿と、回っていたのは第一、第二市街と、国の顔である商店街。第三市街は言うならば、この国の闇、裏の顔と言った所でしょうか…」
言葉を続ける毎にサーシャの顔が暗くなっていくような感じがした。
「闇…ね…なぁ、第三市街の案内頼めるか?」
「はい。勇者殿の仰せのままに」
明らかに先程とは違う雰囲気で第三市街の案内を了承するサーシャ。
一体、第三市街ではどれ程の事が起きているのか。
ナルタリアの光の部分は華やかだった。
街は明るく、人が賑わい、お祭りで盛り上がるどう見ても平和な国。
ただ、この国の光だけでは無く、闇も知らなければならないと、俺は感じた。