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召喚されて記憶飛ぶ②

 苦しい、とにかく苦しい。首を絞められているような感覚。

 なんだ、これは?冗談じゃない。記憶を失い、挙げ句、首を絞められて、絞殺?ふざけるな。不幸にも程があるだろう。死んでたまるか!!!

 もがく。俺はそんな理不尽に対し、必死で足掻あがいた。自分の首を絞める何かを外そうと、自分を襲う何かをけようと。

 しかし、首を絞める何かは一向に収まらなかった。いや、むしろ強くなってる気が…

 あれ?ヤバイかも…俺、このままじゃ死ぬ?

 意識が遠退く寸前で目が覚める。なんだ、夢だったのかと安心するが、体の違和感に気付く。

 息が深く吸えない。体が起こせない。

 まだ、夢の中なのかと思い、苦しさから逃げようと再び目を閉じる。

 息はまだ苦しいままだが、目を閉じていると、右頬に違和感を感じた。

 風が頬に当たっている。絞められている首を少し無理矢理に右へとひねると、昨日の褐色肌の使用人が俺に抱きついて、寝ていた。


「はい?」


 なんなんだこの状況は。記憶の無い俺が、以前からモテていたのかは分からないが、昨日、鏡を見た時点では、あまりモテはしなかっただろう。などと、冷静に自己分析。

 その結果、そうか、これは夢なんだ。そうに違いない。と、またまた脳内で逃避行動を開始した。

 とりあえず、抱きつく腕をどかし、女性に背を向け睡眠に逃げようとしが、


「ん…起きられたのですか?勇者殿」


 背後から声が聞こえる。女性の声だ。恐らくは隣に何故か寝ていた使用人であろう。


「いや、起きてないです。これから寝るというか、むしろ、もう寝てるような感じです」


 自分でも、訳の分からない返事だと思ったが、それだけ動揺している証拠だ。


「寝ぼけてらっしゃるんですか~?」


 使用人はつやっぽい声で、言いながら俺の背中へ抱きついてきた。

 (勘弁してよー!!!当たってるから!当たってるから!)

 と、心の中で叫び、にやけそうな顔を必死に抑え、冷静を保とうと頑張る。カッコつけたいのだ。悲しきかな男のさが


「あー!もう!起きるよ!いや、起きたよ!」


 恥ずかしさに耐えきれず、使用人の腕から逃げるようにして、ベッドから立ち上がった。残念だな、俺の度胸。


「おはようございます。昨晩はあ~んなに深く…」


「えっ?えぇぇぇぇ!?」


 俺は叫んだ。動揺?パニック?わからないが、とにかく焦る。

 昨日は勇者やら、記憶喪失で、全然気付かなかったが、使用人は、かなり綺麗な女性だった。

 燃えているように赤い髪は褐色肌と見事に合っていて、一言で例えるなら美人だ。

 (俺、初めてだったのかな?それとも経験者?つか、こんなに綺麗な人と?)

 ここにきてやっと、記憶喪失であることを恨んだ。

 そんな、慌てふためく俺を不思議そうに見ていた使用人は、一瞬、意地悪そうに微笑み、


「勇者殿ったら、スゴい深く、深く、わたくしめは、あ~んなの初めてでしたわぁ」


「ま、マジかよ!?」


 (何してんだよ!俺!?勇者だかなんだかと祭り上げられて、調子こいたか俺!?)

 脳内で葛藤する俺を余所よそに使用人は話を続けた。


「ンフフ♪すごーく深~く…深~く…」


 使用人は爪をかじり、モジモジしながら言葉を切らす。

 (やめろ。やめてくれ。もう耐えられない!!!)

 と、自分の中の何かが壊れそうになった所で、使用人が再び口を開いた。


「フフフ♪深~く、深~く…眠ってらっしゃいましたぁ~♪」


「はい?」


 使用人の言葉に呆気に取られる。そう、使用人は、俺をからかっていたのだ。


「んだよ!人をからかうのも大概にしとけよ!」


「申し訳ございませんでしたぁ。勇者殿の反応があまりにも可愛らしくって♪」


 純情を弄ばれた怒りやら、恥ずかしさやらで、俺は顔を真っ赤にして怒った。

 そんな、一人暴走する俺の様を、使用人は楽しそうに見ていた。

 暫くし、ようやく落ち着いた俺は、話を切り出す。


「で、なんで俺のベッドに?」


 服を整えながら、使用人に質問をする。


「昨晩、モルジアール様が勇者殿をお呼びになられたので、勇者殿にお声掛けをと…」


「いやいや、起こせよ!!!」


「ですが、よくお眠りになられてたので…」


「だって、重要な要件とかじゃなかったの!?」


「いえ、要件の内容までは聞き及んでいませんでしたし、モルジアール様に勇者殿は眠っておられると、お伝えした所、明日でも構わない。とのことだったので~…」


「なら、いいんだけどさ。ん?いやいや、アンタがベッドに入ってた意味と全然関係無くない?」


 納得しかけたところで、使用人がベッドに入る理由が無い事に危うく気付く。


「それは…念のため、もう一度勇者殿が起きていられるか確かめようと顔を出したのですが、やはり、眠っておられたので…一緒に…寝ちゃった♪」


 使用人はテヘッと、可愛らしく笑う。


「寝ちゃった♪じゃねーよ!結局、理由無いじゃねーか!!!」


 地団駄を踏みながら叫ぶ俺。


「理由理由って、一人の女が、強い男に惹かれる。それではダメなんですの?」


 不思議そうに使用人は言った。

 [強い男]という言葉はやはり嬉しい。いや、かなり嬉しい。やっぱり悲しきかな男の性。

 嬉しい気持ちを隠しつつ、モルジアールの要件について聞き始めた。


「んで、大臣は今から会いに行っても大丈夫か?」


「はい。この時間ですと、恐らく執務室にられるかと」


 壁に掛けられた、恐らくは時計であろう物を確認し、返す使用人。

 ここの時計はどうやら俺の知っている時計とは見方が違うようだ。


「んじゃ、悪いけど案内頼めるかい?」


「はい。もちろんですわぁ♪」


 ある程度身なりを整えてから部屋を出た。

 執務室に向かうため、使用人と二人、廊下を歩く。


「そう言えば、使用人さん、名前は?」


「はい、私めは、サーシャと申します」


 執務室に到着する迄の間、俺はサーシャに質問ばかりしていた。

 サーシャは嫌な顔一つせず俺の話を聞き、答えてくれた。しかし、サーシャからの質問は一切無く、記憶を失った俺への気遣いなのかは分からないが、俺の話をただただ聞いてくれるサーシャと居て、少し気持ちが楽になった。 

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