8話
恥ずかしい事無かった事にして、俺達はギグル山へと登って行く。ギグル山の街道は海側では無く、山の中へと続いている。
「揺れが非道い」
「山道だからな」
お尻が痛くなっている。もう二度と乗りたくない。改造したら別かも知れないけど。
「それより、盗賊を相手にする準備を整えておけ」
「うん」
ライサはライサで魔術を詠唱して、何時でも発動出来る準備を整えている。だから、俺も卒業試験の報酬である魔法適性を得られるカードを自身に使って、火属性適正を手に入れる。手に入れた火属性を弾丸に込めて火属性の弾丸を作っておく。
作業をしていると、山頂付近に到着し、そのまま何事も無く山を下っていった。
「盗賊出ないのかよ!!」
「みたいだな。まあ、いいじゃねえか」
「そうなんだけどさ~~」
しばらく愚痴ってると、次第に視界が開けて来て、下の方に浜辺が見えて来た。そこには家が多数建てられている。
「あれがそう?」
「ああ。あれがアデール村だ」
馬車は坂道を降って、アデールの村へと近づいて行く。その村の近くには森が広がり、海へと流れる川も有り、川の近くには畑も作られている。それらを覆うように木で作られた柵がつけれられている。
並木道のような坂をしばらく降りると、門が見えて来た。そこには武装した村人が門番として立っていた。
「止まれっ!!」
「よう、俺だ」
「マルクか…………一応、身分証を見せてくれ」
「あいよ。俺と兄貴、その嫁さんと…………餓鬼が1人だ」
「その子の身分証は?」
俺は卒業証書を見せる。
「冒険者になるつもりだけど、これじゃだめ?」
「いや、問題無い。ただ、ちゃんと登録してくれよ」
「は~い」
そのまま無事に通して貰えた。お金もかからないし、良かった良かった。
「マルクはこのまま店に商品を届けて来てくれ。ライサは家の準備を頼む。俺はギルドに報告して来る。それと、クレハもついでだし案内してやる」
「みんな、ありがと~~~」
「気を付けてね。また会いましょう」
フリオの指示で皆と別れる。俺はフリオに連れられて村の中を歩いて行く。村人の中には猫耳をした獣人の人もいる。ビバ異世界っ!!
「おい、こっちだ」
「は~い」
村の中でも大きめの建物に連れて行かれた。その建物には剣と杖が描かれた看板がかけられている。
「ここがギルドだ。ちょっと待ってろ…………シェアー、新人を連れて来たぞ」
「はいはい~」
カウンターの奥の方からウサ耳をした美人のお姉さんが出て来た。
「コイツが新人だ。後は任せた」
「わかりました~」
「後はコイツに任せればいい。それじゃあ、元気でな」
「うん、ここまでありがと」
「ああ」
フリオは別のカウンターで依頼の達成報告をしに行ったようだ。
「さて、それじゃあ、シェアーお姉さんが担当するね。それで、冒険者登録だったよね? 年齢確認出来る物か身分を証明出来る物は有る? 推薦状とかでも構わないのだけれど」
「これで良いはずだけど…………」
俺は卒業証書を渡す。
「訓練所を卒業しているのね。なら、問題無いけど…………年齢が足りてないわね。登録は出来るけど、本格的に活動出来るのは15歳になってからよ。それまでは討伐や護衛の依頼は受けられないわ。受けられるのは薬草採取とかだけど良い?」
「それで良い」
「じゃあ、登録金の銅貨5枚は訓練所の卒業で免除されるから良いし…………こっちの書類に名前と年齢を書いてね」
「うん」
渡された用紙に必要事項を書いていく。
「じゃあ、このナイフで指を切って、このカードに血を垂らしてくれるかしら?」
「ん」
血を垂らすと、カードは変化して行く。そして、俺の名前や年齢、クラス、ステータスなどが書かれている。だが、クラスは魔導技師しか乗っていない。どうやら、サードジョブはレアみたいだ。
「名前とか大丈夫?」
「大丈夫だけど、クラスは一つ?」
「クラスは基本的に一つね。ランクが上がるとクラスが増える人もいるみたいだけど、そのランクのカードでは表示されるのはメインの一つだけね」
「やっぱりランクと有るんだ?」
「ええ。Gランクから始まってSランクまで有るわ。クレハちゃんの場合は訓練所を卒業しているから、Fランクスタートね。カードの色はランクが高くなると自由に変えられるから、希望が有ったらランクアップの時に言ってね。ちなみに、Eランクから変えられて、一人前として扱われるわ」
今のカードの色は黄緑色…………若葉色だ。
「わかった。それと、両替って頼める?」
「大丈夫よ」
「じゃあ、これをよろしく」
箱から見つけた金貨1枚を置くと、シェアーの顔色が変わった。
「あはははは、金貨なんてこんな田舎町で両替出来る訳ないじゃない」
「これ以外は一文無しなんだけど…………どうしろと?」
「大丈夫。口座開設して、貯金してくれればギルドの系列店ならカード払いとか、少しだけ出す事も出来るから」
「なら、お願い」
「うん。手数料が半銀貨1枚かかるけど良い?」
「良いよ」
1万で良いなら安い物だ。この世界なら、仕方無いだろう。
「どこのギルドでも引き出せるから。それと、手続きに一週間くらいかかるからギルドがお金を貸しておくね。返却は口座が出来たらそこから引かせて貰います」
「わかった。それでお願い。それと、女の子が泊まっても大丈夫な宿屋は有る?」
「今は部屋もあるだろうけど、冬も近いから長期滞在するならお金も有るし、家を建てた方がまだ安くて良いわよ?」
「家か…………」
家を買ってしまえるくらいのお金だけど、どうするかな。
「野宿は凍死するから駄目よ。それと、本格的に雪が降り出したら出入りできなくなるから、食料もいるわ。」
「ちなみにどれだけ積もるの?」
「1メートルは積もるわ」
「仕事は有る?」
「仕事は結構あるわよ。あのチェリム森林には魔物も沢山いるし、漁師のお手伝いとかも出来るしね」
「わかった。取りあえず、家を作ろうかな」
どこかに拠点は欲しいし、ここは海だから塩も作れる。問題は無いだろう。
「って、買えないの?」
「買えるような家は無いから作るしかないわ。土地は豊富に有るのだけど」
「ちっ。なら、浜辺に近くて、森も近い所が良い。木とかも切り出すんだし…………」
「いえ、待って。買える家があるわ。ただし、古くて壊れかけだけど、修理すれば大丈夫だと思うわよ」
「ちょっと見て考える」
「そうね、行きましょう」
お姉さんに案内されて、ギルドを出て行く。
案内された場所は村の外れで、確かに海も森も近い。そして、その家はボロかった。一般的な家より大きな25畳くらいのログハウス。ただ、土台はしっかりしているみたいだけど、壁に穴が空いていたり、何かわからない物が入っていたりする。
「うん、修理と掃除してくれれば良いよ」
「銀貨1枚で販売。あの大きな木がある辺までは好きに使っていいわ。それで、掃除と修理代として銀貨1枚くらいかしら? 超特急にするなら追加でさらに銀貨1枚の合計3枚だけど…………どうする?」
「構わない。やっちゃって。それと、家具も良い奴が良いし、窓もガラスにお願い。半金貨2枚まで出すから」
「ええ、任せて。それじゃあ、本気で作ってもらうとして…………3日ね」
とんでもなく速い。それで大丈夫なのか?
「あっ、お風呂も欲しい。追加で半金貨1枚で出来る?」
「ええ。それじゃあ、早速手続きをしましょう」
「うん♪」
ギルドに戻って、早速手続きをした。それが終わったらオススメの宿屋を教えて貰い、そちらへ出向く。既に夕方で太陽は落ちてきている。
「いらっしゃい。泊まりかい?」
この村唯一の安全で大きな宿屋に向かうと、30歳くらいのおばちゃんが出迎えてくれた。他の宿屋は小さく、女の子が泊まるとどうなるかわからないらしい。嘘か本当か知らないが、女の子はこっちの方が断然いいみたいだ。なにより風呂が有るのがいい。
「取りあえず3日でお願いします」
「銅貨3枚だね。食事は別だよ。朝は半銅貨5枚、昼と夜は銅貨1枚だよ。食材の持ち込みも可能だからね」
皆、持ち込みしているのか。1日の基本料金が銅貨1枚。後は本人次第って事か。
「わかった。後、お風呂は?」
「宿泊客は6時から14時、17時から20時までは自由に入ってくれて良いよ。ただし、皆が入るんだから、ルールは守るんだよ」
「は~い」
俺はお金を払って、部屋の鍵を貰った。そして、2階にある部屋を確認したら食堂に向かって降りていった。すると、カウンターにいる女将さんに呼び止められた。
「自己紹介していなかったね。タチアナって言うんだ、よろしくね」
「クレハ、新米冒険者よろしく。御飯食べても大丈夫?」
「ああ、旦那のニコライと子供達が食堂にいるから、金を渡してやって」
「わかった」
食堂に行くと、小さな女の子と男の子。それに加えて同じ年くらいの身長の少女が給仕をしていた。
「いらっしゃいや。持ち込みの食材はある?」
黒い綺麗な長髪をした同い年くらいの女の子が声をかけて来た。
「持ち込みの食材は無いから、普通にお金を払う」
「1,000Rやで」
「はい」
「ほな、そちらの席で待っててや」
それから直ぐに硬い黒パンと魚の塩焼き、魚介スープが運ばれてきた。それらの味は美味しかった。でも、米が欲しい!!
でも、綺麗に平らげて、お風呂に向かった。
相変わらず自分の身体を見るのは恥ずかしいので、目を瞑って身体を洗う…………なんて事は無い。自分の姿に興奮?
確かに美少女の外見だ。好きな紅葉とそっくりだし、髪型を三つ編みにすると、ラケーテンとかほざけるゲボ子だ。でも、あくまでも自分の身体だしね。他人のは恥ずかしくなるけど、有る程度は大丈夫だ。というか、身体を傷つけてしまいそうで、自分でも触れない。それにBADENDを迎えずに生き残る為に必死なのだから。
「あ~~生き返る~~~」
身体を洗った後に湯船に浸かると、疲れが一気に抜けて行く。風呂好きは日本人の血だ。というか、女の身体になったせいか、男の視線や匂いに敏感になってしまった。逆にそれは自分が他人にどう思われるかもで、毎日綺麗にしている。なにげにあのタオルは無茶苦茶使える。濡らして身体を拭くと、綺麗に浄化してくれているのだ。だから、肌も髪の毛もツヤツヤでサラサラだ。
「お邪魔するで~~」
「邪魔するなら帰れ」
「ほな、さいなら~って、嫌やよ! 服を脱いだの損やんか」
お風呂に入って来たのは、さっき食堂で働いていた髪の毛の長い子だった。
「そっちかよ…………まぁ、もう上がるから良いけど」
「にしてもお客さんはそっけないな~」
「というか、そっちは客商売なんだから、もっと気を使えよ」
「あっ、うちは本当の店員ちゃうから許したって」
「そうなのか?」
「うん。単なるお手伝いさんや。なんや、冬場は凄く忙しいみたいでな。うちはこの店から食料調達の依頼をうちが泊めてもらう代わりに引き受けただけや。せやけど、凄く忙しそうやったから、ちょっと手伝ってん。君も一緒に手伝わへん? お給料はええよ?」
「いや、今は金に困ってねーし、良いよ」
「そっか、残念や。あっ、髪洗うの手伝って…………」
「だが断る」
背中を向けている間にさっさと脱衣所に移動して、何時も通りの服に着替える。
しかし、寝間着も用意しないとな。明日は買い出し決定だな。取りあえず、柔らかいベットと着替えがいるか。基本的にこの服装で良いけど、やっぱり普段着や寝間着は欲しい。
「髪の毛乾かすのメンドーだな…………」
魔術で髪の毛をさっさと乾かしたいが、下手したら髪の毛燃えるしな。まあ、いいや。ドライヤーは部屋で使うか。こんな所で裸の女と遭遇したら大変だしな。
部屋に戻って、ガチャガチャで手に入れたドライヤーで髪の毛を乾かし、そのまま硬いベットで眠りに着いた。やっぱ、柔らかいのが欲しいわ。