4話
魔力の回復とマガジンを作ってはアイテムストレージに仕舞う作業をして、眠りに着いた。
翌々日、俺は牢屋のような所から、20代前半ぐらいの金髪碧眼女性に出された。
この女性はこの孤児院に勤めているエメリナ先生だ。そう、ここでは奴隷として売る時に価値を上げる為か、読み書きなども教えてくれている。
「クレハ、院長に逆らってはいけません。分かりましたね?」
「…………」
「表面上だけでも良いですから」
「嫌」
あんなの受け入れるとか、無い。むしろ、どうやって仕返ししてやろうかと考える。
「ご飯も録に貰えませんよ?」
「大丈夫」
俺はそのまま走り去る。
「待ちなさいっ!!」
エメリナ先生の声を無視して走り出し、孤児院の庭に出る。
庭に出て辺りを見渡す。直ぐに目に入るのは外と外界を繋ぐのは大きな門。周りには隔離されるように高い塀が建てられている。
これでは、まるで孤児院では無く刑務所だ。
庭自体は広く、他の子供達も遊んでいる。だが、前の俺には友達がおらず、端っこに1人で字の練習などをして過ごしていたようだ。その御蔭か、日本語でいうひらがな程度は覚えている。
「クレハ…………まだ話は終わって…………」
「アタシには無い」
一人称を前の自分と同じような俺では無く、アタシにして走る。
「だから、待ちなさいっ!!」
この身体のスペックを調べると同時に鬼ごっこを開始した。身長差とかで軽く追いつかれるが、そこはスキルで相対する。そう、ニュータイプのようにピキーンと来るのだ。それに従って逃げると、上手くいく。天賦の才はありとあらゆる物に補正を付けてくれるので、第六感にも有効みたいで、容易い。といっても、子供の体力なのでしばらくしたら脇に手を入れられて、持ち上げられてしまった。捕まってしまうと足をプラプラさせてもどうしようも無い。
「この子は…………」
「おい、どうした?」
こちらに近づいて来る人影が居た。
「院長…………」
「あっ、くそ…………変態爺だ」
「誰が糞爺や変態爺かっ!! どうやら反省していないようじゃの」
「アタシは悪くねえっ! 本当の事を言ってるだけだ!」
「それは…………そうなんだだけど…………」
エメリナ先生も納得しているじゃんかよ。
「何か言ったか?」
「いえ、何でも有りません。この子には良く言って聞かせますから」
「ふん。良いじゃろう…………だが、次は年長組と同じメニューをさせるぞ」
「はい…………」
年長組ね…………何させてるんだろ?
糞爺はそれからエメリナ先生にクドクドと文句を言って、去っていった。なので、聞いてみる。
「年長組がやってるメニューって?」
「それはね…………あの建物で訓練を受けているのよ」
エメリナ先生が指差した先は、門が有った。その上から見える先には3階建てくらいの大きな建物が有る。
「あそこは?」
「ギルドと国が運営している戦闘訓練所。又は軍事訓練所と言われて居る場所よ。あそこでは厳しい訓練が行われているわ。10歳以上になった子供達はあちらに預けられて戦闘技術を身につけるの」
「何で?」
「魔物と戦う為ね。もっとも…………別の者とも戦わされるのだけど…………子供には早い事よ。それより、お腹空いたでしょ。ご飯を食べに行きましょう」
子供に早く、魔物以外との戦いね。人しかいないじゃん。まあ、魔物に関しては予想通りだし、人もそうだ。しかし、ここは徹底的に価値を叩き上げる気なんだな。読み書きを教えて、戦闘訓練まで施すとなると、軍人や護衛としてかなり優秀な部類に入るだろう。そして、出来上がった子を売りつけるか。あっちが国営なのは魔物の脅威を減らす為と軍人の戦力増加目的か。そんな建物の横に有る時点でこっちの運営も国が関わっているかも。
ちっ、普通に力押しで爺を潰す事は出来なさそうだな。
「うん」
それから、食堂に移動して、ファンタジーおなじみの硬いパンと大量に作られた野菜スープを食べた。こちらは味が薄いし、芯が多かった。
食事を終えたら直ぐに就寝だった。流石にロウソクとか勿体無いので夜は早いみたいだ。
クレハに与えられている部屋は大部屋で、各自が毛布2枚持って好き勝手な場所で寝るのだ。俺は人気の無い奥の隅っこへ行く。そこに毛布を重ねて、幼い小さな身体がちゃんと入るように計算して引いて、その上にポスンと座る。
辺りには適当に寝る準備を整えていく子供達が居る。中には小さな子供を世話している大きな子供も居るが、時折こちらを見るぐらいだ。他の子達で精一杯みたいだ。
「さて…………と。やるか。んしょ…………」
毛布の上で伸びをしたり、股を開いたりしていく。股関節と太ももなど、身体を柔らかくしていく柔軟体操だ。漫画などで言われている、武道家に身体の硬い者はいないという事が沢山あげられている。だから、戦闘をする準備期間として有効的に使わせて貰う。子供の身体とはいえ、余り運動してこなかったのか、結構硬くなっていたので、ゆっくりと解して行く。それと同時に並列思考の訓練をする。
並列思考の訓練はひたすら思い出した知識を枠に付いていたメモ機能に念写していく事だ。
そして、もちろん魔力操作の訓練もしていく。こちらは使えない辺りに漂っている大量の魔力を少しずつ自分の魔力で削って、削った物を身体全体に浸透させて、自分の物にしていく作業だ。これは漂っている魔力を収束させているのだが、白い悪魔の少女からヒントを得てやってみたが魔力の回復速度が上がっていい感じだ。そして、身体の中に魔導知識を利用した魔力回路を作るようにイメージして行く。そう、そちらはどこぞのサーヴァントを従える魔術師の奴と同じようにする。身体中に回路を作ったらかなり効率良く魔法を使えるはずだ。大人では激し痛みに襲われるだろうけど、柔軟な子供ならどうだろうか?
と試してみたのだ。
「~~~~~~~~~~~~~っ!?」
痛みにのたうち回るような苦痛を必死に丸まって耐える。ヒットポイントゲージもマジックポイントゲージもみるみる減って行くし、なんとか耐えて行く。そして、それすら耐えられなくなって気絶した。
次の日、目覚めると激痛に襲われた。アイテムストレージの中にあった課金ガチャガチャで手に入れた痛み止めを飲む。これは10個1セットで、20個入っていた。それを飲むと有る程度マシになった。
「クレハ、大丈夫っ!!」
「だい…………じょう…………ぶ…………」
「大丈夫じゃないわよっ!!」
抱き上げられる感触がすると、どこかに運ばれて柔らかいベットに寝かされた。どうやら、そこは医務室のようで、白衣を着た男性が居た。
「先生、どうですか?」
「どれどれ…………」
身体を好き勝手に触られたり、口の中を見られる。
「アナライズ」
鑑定の魔法のような物なのか、スキルや装備、職業がバレたら不味いと思った瞬間、隠蔽しますかと出て来たので、急いで思念で“はい”を選択する。
「うん。これは栄養失調だな。前から食事を十分に与えていなかっただろう。栄養の有る物を取らせるか。そうだな…………ルブスを食わせれば問題無いだろう」
「分かりました。それでは、用意してきますね」
「ああ。ここで回復するまで寝かせて置く」
「はい」
そして、少ししたらエメリナ先生がドロドロした緑色の何かをお皿に入れて持って来た。
「さあ、食べさせようか」
白衣の先生は私の身体を押さえつけた。その理由がエメリナ先生が近づいて来ると理解出来た。そのドロドロした奴が臭いのだ。
「はい。それじゃあ、しっかりと食べてね」
そして食べさせられたそれはクソ苦くて、不味い物だった。そう、舌の細胞が破壊された様な気がするほど痺れたりするのだ。俺は暴れるが許して貰えない。どうにかしようとあがき、仕方無くそれを舌などに触れる前にソレを魔力で覆って、胃に落とす。それだけでかなり楽になった。それを何度か繰り返し、眠りにつくと数時間後には元気になっていたので、ベットの上でバレないように柔軟体操と回路作成をする。するとまた衰弱するので、アレを食べさせられるという循環が2ヶ月間程続いた。
その間、ベットで寝れたので良しとする。そして、2ヶ月間で身体の殆どに魔力回路を生成出来た。後はそれを太くしたり、整えて改造していくだけだ。