2話
頬っぺたに気持ち悪い感触がして、意識が覚醒していく。眼を開けると、そこには視界一面にいやらしい笑みを浮かべた爺の顔面が有った。
「ひっ!? うわぁっ!!」
俺は慌てて爺を弾き飛ばす。しかも爺は裸だった。身体が怠くて変な感じがしたので、下を見ると、そこには湯気が出る少し赤くなった白い肌。俺は何も着ていなかった。俺は慌てて手で股間を隠す。すると更に違和感に襲われた。股間にあるべき物も無かったのだ。
「痛いのっ! 何するかっ!!」
「そっちこそ何してやがるっ!!」
「儂は風呂に入れてやったらのぼせたお前を介抱してやっただけじゃぞ!」
その言葉で思い出すのは、風呂場での記憶。孤児院にある風呂場でしわくちゃな手でいやらしく洗われた記憶だ。
「五月蝿いっ、変態爺っ!!」
「口の悪い子にはお仕置きじゃっ!!」
「あぐっ!?」
糞爺は何故か置いてあった鞭を振るって、背中や腕、手足などを打たれて行く。俺は何とか身体を庇って耐える。
「はーっ、はーっ」
「何をしているんですかっ!!」
しばらく鞭打ちされて意識が朦朧としていると、風呂場の方から女性の声が聞こえて、俺は意識を失った。
身体の痛みで目覚めると、そこは真っ暗な場所だった。光も無く、狭くて足を伸ばして座る事も出来ない。ただ、床には毛布が有るようだ。
「くそっ、あの爺…………」
手で壁などを暗い中で探して見る。感触で分かった事は、木製の扉で鍵がかけられて閉じ込められているという事だ。
「身体は痛いしっ、最低だ…………」
しばらくして、暗闇に目が慣れてきた。そして、だんだんと落ち着いてきたので、現状を整理してみる。
1.キャラクターを作って意識を失った。
2.気づいたら糞爺に頬っぺたを舐められていた。
3.反抗したら鞭打ちを食らって、ここに入れられた。
「理不尽な…………」
取りあえず、記憶は有るようなので、そっちを思い出してみる。
名前は設定ネーム通りにクレハ。年齢は5歳。孤児で、気づいたらこの孤児院に入れられている。両親は不明。そして、これまた設定通りに女性。身長などは年相応というか、幼い。しかし、容姿はかなり優れている部類に入るだろう。自重はしていないから。しかし、記憶が有るという事は転生とか憑依になるんだろうか?
「…………」
そんな非科学的な事じゃなく、これはゲーム…………な訳は無い。そもそも、ただのMMOにそんな事は出来るはずも無い。ましてや、VR技術ですら存在しないんだし。いや、既に開発されているのかも知れないが、市販で出回る事は無いと思う。
「ログアウト、ゲーム終了、ステータス」
淡い期待を込めて声に出して言ってみる。何の反応も無かった。しかし、ステータスと言った時、俺の目の前に四角い光る枠が現れた。その枠には日本語で文字が書かれている。
『新しい世界、新しい人生へようこそ。現在、貴女の年齢は5歳です。設定より10年前となっております。これは身体に慣れて貰う為とチュートリアル、及び記憶の統合時における障害を緩和する為です』
これはまだ理解出来る。記憶が色々とごちゃ混ぜになってしまっている。それに普通なら身体を鍛えるのも出来るし、悪い事ばかりではない。小説とかによくある赤ん坊の恥辱体験は無いんだし。しかし、本格的に帰れないのか…………まあ、家族とは死別しているし、いいんだけど。いや、こっちでもあっちでも死別してるとか、どんだけ運が無いんだろうか?
考えても仕方ない事だね。
5歳なのも身体がある程度動けて、記憶が出来だした時期って事か、単純に10年前にしたのかも知れない。どちらにしろ、はっきりしているのは、このままだとろくな目に合わない事だけだよな。
『チュートリアルをスキップしますか? チュートリアルを始めますか?』
ここはチュートリアルをやろう。だって、スキップしたって、時が進む訳でも無いんだしな。だから、チュートリアルを始めるを選択する。
【チュートリアル①】
・ステータスを確認しましょう。
・達成報酬:ヒットポイントポーション
「っ! ステータス…………」
苦痛を我慢しながら、先程と同じようにステータスと言葉に出して言うと、ステータスが書かれた枠が現れた。
【ステータス】
Name:クレハ
Class1:魔導技師Lv.1
Class2:戦術家Lv.1
Class3:魔導師Lv.1
HP: 30/100
MP:300/300
Str:10
Agi:10
Vit:10
Int:10+20
Dex:10+20
Luk:10
【パッシブスキル】
《魔導知識Lv.1》《戦術眼Lv.1》《部隊運用Lv.1》《魔力回復(小)》《魔力操作Lv.1》《分割思考Lv.1》《戦闘の才能Lv.MAX》《天賦の才Lv.MAX》《獲得経験値上昇Lv.MAX》《老化遅延Lv.MAX》《寿命増加Lv.1》《第六感Lv.1》《体力回復(中)Lv.1》《魔力回復(中)Lv.2》
【アクティブスキル】
《魔導器召喚Lv.MAX》《魔導器生産Lv.1》
【装備】
ティルヴィング(剣、封印)
ステンノ(銃、封印)
エウリュアレ(銃、封印)
麻の服(女性用上下セット)
革の靴
なんか、魔導器に封印が追加されてる。呼び出せないって事か?
しかし、本当にこのままだと悪いな。武器すらまともに使えなさそうだ。
『チュートリアル①の終了を確認しました。報酬のヒットポイントポーションはアイテム欄に保存されています。続いて、チュートリアル②に移ります』
【チュートリアル②】
・所持スキルを確認しましょう。
・パッシブスキルを有効にしましょう。
・達成報酬:スキル強化カード
有効になってないのかよ…………取りあえず、この光ってるスキルを押せって事だな。指でパッシブスキルの場所にあるスキル名を押して見る。
【体力回復(中)】
・1時間毎にヒットポイントを20%分、ゆっくりと回復する。
・ヒットポイント自動回復量200%増加。
・現在、無効になっています。
・有効/無効
有効を押すと、身体がかなり楽になった。俺は色んなスキルを有効にしていく。ただ、《老化遅延》。このスキルだけはいただけない。理由はスキルを見れば分かるだろう。
【老化遅延】
・肉体の老化を限り無く遅くする。
・有効にした状態を固定し、寿命の尽きる寸前までそのままの姿を維持し、維持できなくなると急激に老化する。
・現在、無効になっています。
・有効/無効
いくらなんでも、5歳児で固定されたくは無い。
『チュートリアル②の終了を確認しました。報酬のスキル強化カードはアイテム欄に保存されています。続いて、チュートリアル③に移ります』