19話
翌朝、朝食をニコアナで食べた俺とレティシアは雑貨屋に来た。目的は塩の販売と足らない機材や食材などの買い出しだ。
「いらっしゃい」
「ニウスさん、塩を売りに来たよ」
ニウスさんが迎えてくれたので、要件を告げる。レティシアは隣に有る武具屋の方を見に行っている。
「わかった。3個頼んでいたが、何個持って来た?」
「20個」
「多いな…………流石に600万リラも金は無いぞ」
1個30万だから仕方無いね。
「こっちは現物でも良いよ。大量の鉄と魔石が欲しい」
「鉄と魔石か…………魔石は冒険者なら取って来た方が安いぞ。アレは冒険者ギルドが買って、商業ギルドや国に降ろしているからな」
「成程。鉄は?」
「そっちは問題無いが、600万となると時間がかかるな」
「なら、100万は現金で良いよ。残りの500万で鉱石系を売って。それと風の魔術書、結界の魔術書は有る?」
「わかった。風は初級なら有るが結界は無い」
「なら風だけでいいや」
それから、鉄を始めとして銀やクロム鉱などと風の魔術書を売ってもらった。それでも足りない部分は届き次第渡してくれる事となった。
買い物が終わったら食料を買って行く。
そして、自宅に戻ったら作業だ。
「なぁなぁ~」
「何?」
「どこまで要塞にする気なん?」
「…………」
工程を考えてみる。その全てが終わったら確かに要塞と言っても問題無いかも知れない。
「ビックラビットの襲撃を防ぐ程度? でも、どうせやるなら徹底的にが良いし。塩の事も有るからね」
「そっか。なら、徹底的にやろうか」
「うん」
また切り出して来た木を調整して、今度は浜辺に打ち込んで行って貰う。その上に四角い穴を開けた板を乗せて、桟橋を作って行く。それが終わったら、次は俺が丸太に溶かした鉄を塗りたくって鉄の壁を作って行く。上の方には四角い穴が空いた板をつけて術式回路を刻んでいく。もちろん、裏側の木の壁にも術式を刻んでいく。刻むのは障壁の術式なので一種の防壁だ。
「お昼にしようや」
「そうだね」
お昼ご飯は買って置いたサンドイッチだ。パンに兎の肉と野菜が挟まってる簡単な奴だ。
「あっ、忘れてた。ちょっと、待ってて」
「?」
食べ終わったら、昨日作ったボードを工房から持ってくる。それをレティシアの前で起動する。
「なんなんそれっ!!」
「移動用のフロートボード。ちょっと作ってみた。乗ってみる?」
「面白そうやな」
「試作段階だからどうなっても知らないけどね」
「うちは実験台? まあええや、どうせ傷なんておわへんやろうし。貸して」
「うん」
レティシアに渡して使い方をレクチャーして行く。
「思念操作とか大変そうやけど…………おもろいな~」
直ぐに浮き上がって、フロートボードの上でバランスを取る。
「発進前にちょっと展開しとこうかな」
レティシアの服装が代わり、黒いジャケットと黒いフレアスカートになる。前は開いていて、胸元で留めている。
「その格好って…………」
「その服と同じようなもんや。んじゃ、行ってくるで」
「気を付けてね」
「大丈夫や…………それじゃ、発進や!」
フロートボードの後方に取り付けられたジェットエンジンもどきから膨大な噴射が起きて加速していく。最初は魔力だけでだが、途中から風を吸い込んで、それまでもエネルギーに変えて速度を増して行く。
水面を水しぶきを上げて進んで行くレティシアは大きく弧を描いて戻って来る。
しかし、そのカーブの間にバランスを崩したのか、水面に激突したりしていた。
「これ、おもろいわ。もっと遊んでええ?」
「良いけど、ちゃんと畑を耕す準備をしたらね」
「了解や」
俺は午前と同じ作業をして、レティシアは地面を掘って行く。
こんな感じで時間が過ぎると凄い音が聞こえて来た。そちらを振り返ると大きな穴から水柱が出来ていた。
「何事っ!」
「あ~おっきい岩が有ったから叩き割ってん。そしたらご覧の通りや」
「水脈にぶち当たったと…………なら、其の辺を水の貯蓄場所にしよう。そこから畑と露天風呂に水を引いたら良いから」
「了解や。じゃあ、ちょっと道を作るわ」
レティシアは湧き出る水を塞いでから、穴から海へと続く道を木材で作って行く。
こっちも防壁に障壁の術式を作ったら、そっちを手伝う。
そして、出来上がったのが少し高くなった水路だ。
出来た穴の周りにも家の周りと同じようにして鉄でおおって防波堤を作り、一種の貯水池とした。御蔭でそちらに溜まった水は水路を通って海へと流れて行く。田んぼや露天風呂は水路に通路を追加して、そちらから水を引けば問題無い。
水路が完成したので、レティシアは畑を作り、俺は防壁をあらかた完成させる。防壁の最終段階は機関銃を取り付ける事なのだから、これは冬の間に作って取り付ける。
風魔術で匂いの漏れないようにした畑と水路に取り付けた加熱術式で露天風呂を作り、それが完成するまでで15日かかった。まあ、露天風呂は屋根とかも作って無駄に凝っているが。
もちろん、その間にもフロートボードを試作品と予備含めて4個作って練習に励んだ。
そして、冬越えの準備が食料と衣類以外整った時、フロートボードで釣竿と餌を持って海上ドライブに出かけていたレティシアがぶっ飛ばして帰ってきた。
「クレハ、クレハ!!」
「どうしたの?」
「ダンジョンやっ!! 未発見のダンジョン見つけてもうたっ!!」
レティシアの口からとんでも無い事が聞こえて来た。
ダンジョン。それはロマン。
ダンジョン。それは一攫千金の夢。
ダンジョン。それは…………レベル上げの獲物!
掛金が命でも、価値はある。
何故なら、報告するだけでもお金が貰えるからね!!