ep3 修行する? する。
ルーサスとであった次の日からジンは修行を開始していた。と言っても基本座学で合間に走り込みや筋トレと戦闘的なことはしていない。幸い、ジンはリサとの特訓のおかげで微量であるが魔力を扱えるのでそちらについて学んでいる。
「いいかジン。魔力はなるべく温存しておけよ。お前はテクニックタイプみたいだから少しずつ牽制に使ったり、決めれる時にぶっぱなす。そんな使い方が一番いい」
「でもルーサスさん。僕は魔力ほとんど無いに等しいですよ?」
下位魔法を一度使えば、半分以上なくなってしまう。それほどまでに微量の魔力しかない。
「心配するな。後で一気に増える。それも宮廷魔道士団長をも抜き去るさ」
「マジですか!? 頑張ります!」
そして、下位魔法を使い、それを一日中維持すると言うトレーニングをしながら毎日体力づくりを行うジン。そんな毎日が二週間ほど続いた。
「ジン、調子はどうだ?」
「走り込んでも息切れが少なくなりましたし、体力はついてきたみたいです」
「トレーニング以外魔法を使わないという約束は?」
「守ってますよ」
そうかそうかと、ルーサスは満足げに頷いた。
「じゃ、次のステップに入ろうか。次はそのファイアボールを大小に変化させながら走り込みな。それ以外の時は維持だけで。いいな?」
更に二週間後、ルーサスは今度ファイアボールの温度を変えながら走り込みというお題を出し、ジンはそれを継続し続けた。
そして三週間後ジンはついに戦闘訓練を受けることとなった。
「体力もついたしそろそろだろ。ジン、戦闘訓練に入るけどその前にこれを飲んでくれ」
出されたのは蒼い石。小さいが太陽光を反射してキラキラしていてとても綺麗だ。
「これはなんですか?」
「これか? 我らが王国の秘密さ。な、細かいことは気にせず飲んでくれ」
「怪しさムンムンですね。まぁ、飲みますけど」
出された水と一緒に石を飲み込む。別段変化はないようだ。その事実に少しほっとするジン。
(腕とか生えてきたらどうしようかと思ったけど、何もないみたいだ)
「……よし、それじゃ、これから俺とバトルな?」
ジンの修行生活はまだ終わらない。
ジンがルーサスとの戦闘にあけくれるころ、世界救済の旅に出たリサとカイルは、魔族の領土に比較的近い場所にいた。
「このあたりは魔素がキツくなってきてるわね」
「そうだな。このあたり――ファーミルン地方は魔族領に近いせいか魔素の量が多い」
そう話す二人の姿からは数週間前からは想像もつかないほど力に溢れていた。並みの量じゃない戦闘をたった数週間でこなし、彼らの力は必然的についていったのだ。
「ここに居られたのですか、お二人共」
「リヴァイス王子……」
二人に声をかけたのは、共に旅をしている王国の第二王子であった。リサは声をかけられた途端に嫌悪をあらわにしたが、王子には気づいた様子もない。
「カイル殿、魔道士殿が探していましたよ? なんでも、今後の戦闘について相談したいことがあるとか」
「そうなのか? 悪い、すぐに行く」
カイルは、リサに悪いなと目で伝えてから行ってしまった。仕事となれば急がないわけにはいかない。
「さ、リサ殿。探しました私の愛し人」
王子は二人きりになると恭しくリサの手をとり、キスをしようとする。
「やめてください」
だが、リサは素早く手を払い王子のキスから逃れる。気持ち悪い。リサのこの男に対する感情はそれしかなかった。暇さえあれば街にの女を口説き、情事に至る。なまじ顔が良い上に身分のこともあってこの男はそれをやめることを知らない。
「おや、ひどいな。そんなに嫌がらなくてもいいではないですか。私でも傷つきます」
「あなたがその女遊びをやめて、真面目に魔族と戦うのなら触っても構いませんのよ?」
所詮この王子は王国側が王子に手柄を立てたいがために参加させたもの。戦力にはならないくせに足を引っ張り、厄介事を運んでくるのは常にこの男だった。軟派で弱い。なのになぜかプライドだけは高い。リサが最も嫌いな人種を誰が好きになろうか。
「……ふむ。まぁ、いいでしょう。手に入らないからこそ燃えるものもある。帰国後が楽しみですよ」
そう言って王子は何処かへ行ってしまった。またどこぞで拾った女のとこへ行くのだろう。
「もう、サイアク」
リサは気分をなおすために愛しい人を想像する。
「……ジン」
幼い頃より一緒だった彼は自分に勇気を、力を与えてくる。リサ自身が戦う理由でもあり、存在理由でもある。
「待っててね。すぐに帰るから」
昔、彼にプレゼントされた赤い石がはめ込まれたネックレスをそっと撫でる。自分の成人の際にくれたものだ。
『君の髪の色の緋に赤を合わせるのは安直かもしれないけど、リサなら似合うと思って』
若干照れながら言う彼に内心ドキドキしていたのは真新しい記憶だ。
「さて、ここからが正念場ね。頑張らないと」
気を取り直したリサは、これから苛烈を極める戦いに対し再度気合を入れるのであった。