ep2 傭兵ルーサス
二人が村を出てから一週間と少し。ジンは……過激ないじめにあっていた。
「嗚呼、リサさん。なぜあなたは行ってしまわれたのですか。あなたのその見るものすべてを魅了する美貌に、私は虜にされていたというのにッ」
少し、いや、かなり危ない男にジンは蹴られ、吹っ飛ばされる。
「せめてこの美しいボクを連れて行ってくだされば」
口元に手を持って行き、なんと嘆かわしいことか! とポーズをとっている。
「ま、そのおかげで玩具も手に入ったしチャラにしてあげるさ」
男は、すぐさま態度を一転。ニヤリと笑い、ジンを何度も何度も必要に痛めつける。ジンのほうは殴られながらも、必死に頭部は守り続けている。頭は何があっても守ったほうがいい。と、カイルからの教えを忠実に守っていた。
「こら! 何をやっとるか!」
「チッ、村長か。あばよ」
最後にジンに蹴りを思い切りぶち込んで逃げるナルシスト。
「大丈夫かジン」
村長の問いに、少しむせながらも大丈夫と答える。殴られた箇所が痛み、呼吸も少しばかりしづらい。
「すまんな。カイルのボケが居れば自由にはさせないのじゃが」
目が届かなくて済まない。と頭を下げる村長。
「気にしなくていいですよ。あっちが勝手に恨みを持ってるだけで気にしてないので」
昔からだった。リサやカイル。容姿もよく、文武両道で村のみんなが認める二人に自分のような人間が一緒にいるのが気に食わない人種もいるのだ。
「……あの、どうかしましたか?」
村長に手を借りて立ち上がると、見慣れない男が近づいてきた。村の人間ではないみたいだ。見た感じ結構若い。剣を持ってるし、傭兵か冒険者かな? とジンは思う。
「おお、すまんな。この子がいじめられていたのでな。ジン、こちらは傭兵のルーサス様だ」
「どうも、ジンです」
「ふむ…………」
ジンが自己紹介をすると、ルーサスは急にジロジロとジンを観察し始めた。そして、何か考えているようだ。
「む? 少年。その左手の痣は?」
「ああ、これですか? 火傷です。直ぐに冷やしたんですけど、跡が残っちゃって」
「そうか……村長。彼を弟子に欲しい」
ルーサスの言葉にジンは驚く。彼は今弟子にしたいと言った。自分を? なぜ? 疑問がジンを支配する。
「彼、ですか」
村長がなぜですか? と聞く。
「彼こそ私のすべてを継承するのにふさわしいと思ったからです。それ以外にない」
「でも僕、急に言われても困ります」
「戸惑うのもわかる。けど、必要な事なんだ」
でも……とジンは渋る。急に言われても困るし、急に剣術だ魔術だなんて言われても自分にはできない。戸惑うジンに、ルーサスは言う。
「……きみは少し前に親友が二人、魔王討伐に出ただろう? 彼らとともに戦いたくはないか?」
「え?」
「彼らにはこの先、自分たちの手では変えることのできない悲劇が待っている。しかし、君が力をつけたならそれを回避できる」
自分がカイルたちの力になる? ジンには諦めていた選択肢だった。その選択肢が、今目の前にある。歓喜すべきことだ。しかし、同時にジンは恐れた。この男はなぜ事の顛末を知っているかのようにしゃべるのか。
「あなたは、リサやカイルがこの先どうなるのか知っているのですか?」
「知っているさ。なに、案ずることはない。彼らは無事に魔王を討ち果たすさ。だが、問題はそのあとなんだよ。どうしても、君の――ジンの力が必要なんだ。理由は話せない。俺がなぜ未来を知っているかも話すことはできない。言えるとすれば、預言者とでも言っておこう」
ジンは何も言えなくなった。ルーサスの顔が今にも泣きそうな顔だったからだ。後悔しているような、悔やんでいるような、いろんな思いがあるのだろう。ジンには想像もつかないようなことがあったのだろう。
「……分かりました。そこまで言われたのなら、僕には選択肢は一つです」
「そうか、ありがとう」
自分の諦めていたことと、彼の願いが同時に叶うのだ。悪くない、そう思ったジンはルーサスへの弟子入りを決め、新たに強くなることを決意した。