ep1 親友の旅立ち
「リサ、カイル。忘れ物とかないか?」
とある森の中の村の入口。数名の騎士たちに囲まれて、一人の少年が二人の親友を送り出そうとしていた。
「子供じゃないのよ? 大丈夫よ。それに昨日あれほど確認したじゃない」
「ジンは心配性だな」
二人は笑っているが、ジンはそれどころではなかった。二人がこの村から出ていく意味。これから二人の背負うものを考えると、彼らのことが心配でならない。
「それでもだよ。だって、魔王を倒しに行くんでしょ?」
魔王討伐――近年活動が活発化している魔族を、その王を倒す。王国の宮廷星導師が占い、この二人が魔王討伐隊の一員に任命されたのだ。
「もう、ジンは本当に心配性ね。大丈夫よ。国の方でも実力者を数名見繕ってくれるらしいから。少し村を出るだけじゃない。直ぐに帰って来れるわよ」
そんな、「少し隣町まで買い物に行ってくるわね」的な感じで言われても困る。
「だって、なんで普通の農民のハズの二人が行かないといけないのさ! 僕は二人のことが本当に心配なんだよ」
幼い頃から三人でいつも暮らしてきた。楽しいことも、悲しことも、三人で経験してきたはずだ。「なんで二人が……」とうつむくジンの頭をカイルが撫でる。
「大丈夫だって。心配するくらいなら無事に帰ってこれるように応援してくれ。それに、何があってもリサのことは守る」
決意のこもった目で、ジンを見る。
「うん、わかった。二人とも、頑張ってね。それで、無事に帰ってきてね」
「もちろん」
「当然だろ?」
三人で約束をする。すると、騎士のひとりが「もう時間だ」と言って二人を連れて村を出ていく。だんだんと、二人の背中が小さくなっていくの見つめるジン。
「ジーーーーン!!」
暫くすると、リサが振り返り、ジンの名前を呼ぶ。
「帰ったら私、あなたに言いたいことがあるの! それまで、待っててくれる!?」
リサは、一つ思いを固めていた。この長い旅が終わったら、彼に自分の思いを伝えることを。
「うん! 待ってるよーーーー!」
そんな思いに気付かないジンは、二人が帰ってくるのを当然待つつもりなので、返事をする。そして、旅立っていく親友たちを見届けるジン。
「無事に帰ってきてね」
彼にはまだ、祈ることしかできない。