過去に囚われた男/Wait
昔よく聴いていた曲が流れている
オレは懐かしい気分になるわけでもなく 無表情のまま窓際の席に着いて待ち人を待つ
注文した値段の高い珈琲 ミルクを全て注ぎこんで何度も掻き混ぜる
立ち昇る湯気にコーヒーの香りを確認したあと 味のない液体を流し込みひとり微笑む
窓の外を通り過ぎていく学生たち まるで時間が止まったかのような錯覚
制服の色や形は変わっているのに まるで時間が戻ったかのような錯覚
過去を思い出し続ける限り 過去は存在し続け
未来を想像することを止めた時 人は前に進むことを止める
立ち止まることと 歩き続けることを止めることの違い
左手に嵌めていた時計はもうそこにはなく オレはスマートフォンで時刻を確認する
待ち人が来るのか それとも来ないのか
どちらでもいいことにオレは気づきながら 窓の外をじっと見続ける
再び昔よく聞いていた曲が耳に流れ込む 最後の珈琲を飲み干して席をたつことを考える
過去に囚われている自分に苦笑しながら 心の何処かでそれを愉しんでいる
時間に意味があるわけでもなく 意味を持たせることを生きる理由にして
今日もオレはひとり もしくは誰かと今という時を生きている
注文した値段の高い珈琲 ミルクを全て注ぎこんで何度も掻き混ぜる
立ち昇る湯気にコーヒーの香りを確認したあと 味のない液体を流し込みひとり微笑む
昔よく聴いていた曲が流れている
オレは懐かしい気分になるわけでもなく 無表情のまま窓際の席に着いて待ち人を待つ




