第四杯「新しい朝②」
新しい朝が来た。
希望の朝かどうかは分からないが、朝だ。
5月に入り、晴れている日は朝から暑いと感じるようになってきた。
学ランの上着は脱いで前のカゴに入れ、自転車を漕ぎ出す。
新品の頃よりも鈍くなったチェーンの回る音が、住宅街に響いた。
入学したての頃は新鮮だった通学路も、1年も通っているとただ以下の景色になる。
くすんだ壁、さびれた商店街、ボロボロのカーブミラーなどを何の感情もなく通り過ぎていく。
橋の前の信号待ちで、いつもこの時間に来る坊主頭の先輩に並ばれた。
大柄でエナメルバッグをカゴに入れている所を見るに野球部らしい。信号が青になって先輩に先に行かせる。
名前を知らない先輩は、僕の方を一瞥する事もなく先に自転車を漕ぎ出していった。
学校に到着し後ろの入り口から僕は教室に入ると、いつも通り教卓の前の席でお下げの女子生徒が黙々と勉強をしている。いつも僕より早く来ている子だ。
その子が今日も、チラッとだけこっちを見てくる。
僕はその視線に気づかないフリをしながら、何ともつながっていない有線イヤホンを耳にはめて自分の席に着いた。
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昼休みのチャイムが鳴ると同時に、イヤホンが外れたラジオのように騒音が溢れ始める。
休み時間の教室は、まるで紙の世界地図のように集団が分かれていく。
6~7人の大所帯もあれば、2~3人の小集団もいる。もちろん、ぼっちも。
2、3時間目の休み時間までは控えめだった弁当臭が教室に広がっていく。
カバンからお弁当を取り出し、外で食べる準備をする。
僕はいつも、外でお昼を食べている。
晴れている日は中庭、雨の日は旧校舎1階の空き教室だ。
そして時間いっぱいまでラノベを読んだりして過ごす。教室に戻るのは5限が始まる直前だ。
騒がしい教室は食事にも読書にも勉強にも向かない。
同じ考えの人間はいるらしく、お下げの女子もお弁当箱を手に外に向かおうとしていた。
僕も後ろの扉から外に出ようと……
『2年1組 大鳥裕樹くん。2年1組 大鳥裕樹くん。放課後生徒会室に来て下さい。
繰り返します。大鳥裕樹くん。放課後生徒会室に来て下さい』
突然スピーカーから流れてきた生徒会長の声に、クラスメートの視線がこっちに集まる。
しかしすぐにまた談笑やバカ騒ぎに戻っていった。
……放課後生徒会室への呼び出し。
どうせまたあの件だろう。ここ半年、同じ話を繰り返され続けている。いい加減諦めてくれたらいいのに。
よし、しれっと無視しよう。
僕は放課後、生徒会長の呼び出しを無視してさっさと帰った。




