第二十八話 メイド長とから揚げ
実家の味は強い!
「なんでメイド長のフランシスさんが来たんですか?」
「それは山よりも高く、海よりも深い理由がございます」
「お、おう」
どうしよう、これでめっちゃしょうもない理由だったら。
「ユウキ様の異世界レストランに移りたいというメイドは沢山いました。というか全員でした」
「え?」
「ですが、当然技能が高いものが選抜されました。それはメイド長の私もその一人です。決してメイド長の権限を活用したわけではありません!」
あ、大丈夫か、フランシスさん。めっちゃメイド長の権限をフル活用した匂いがするよ。
「そして、ユウキ様の配信に映り、あわよくば夜の大運動会にも混ぜてもらおうという魂胆でもございません!」
メイド長のフランシスさんの後ろに十数人のメイドたちがずらっと並んでいるのだが、どの子も目がギラギラして怖いんだが⁉
フランシスさんの発言もめっちゃ怖いよ。
「あーその」
「何でしょう?」
「チェンジで」
「チェンジ⁉ 私の何が不満なのです!」
「全部だよ! 配信目的とかもそうだけど俺の貞操を狙わないで⁉」
「残念ながら私をチェンジしても、第二、第三の私がここに来ますが?」
「怖い! グラリア伯爵のメイドさん怖すぎる!」
コメント欄はこのやり取りにめちゃくちゃ草生やしてました。
お前ら、他人事だと思ってよお。四人でも充分きついんだぞ。
てかチェンジって言葉通じるんだなって思いました。
まあ娼館とかもあるからそういう用語もあるんだろう。
「諦めて私たちを雇ってくださいまし」
「はあ……。でも料理が下手だったり接客がダメだったら雇わないよ?」
「そこは安心してください。グラリア伯爵様のメイドたちは料理もできるようにしっかりと教育されていますので」
俺はその一言でとりあえず、ルルたちと共に、先ほど作ったレストランの一階に案内する。
「これは木の温もりがとても伝わる素敵なレストランです」
「これは掃除しやすそうだわ!」
「食材を保存する場所はどこにあるのでしょう?」
最初がフランシスさんで後は他のメイドさんの言葉だな。
「食材は、俺が今から作る棚に入れてもらおうと思ってる」
「棚? ですが……普通の棚では傷んでしまいますが」
ここでコメント欄が盛り上がる。
ユウキ、ここで作るんだな⁉ アイテムかばん的な棚!
食材が傷まないとか日本よりもすごいじゃん。
転移魔法もあるから神聖の森に住んでても一瞬で来れるよな。
俺はアイテムかばん、的な棚を作るために、棚を買おうと思ったのだが。
「考えてみりゃ、冷蔵庫にアイテムボックスの機能をつければいいか。冷やした方がいい食材もあるからな」
俺はママゾンで売られている業務用冷蔵庫を購入する。
そしてアイテムボックスに一旦収納し、簡易クラフトで業務用冷蔵庫に時間停止、時間加速を付与する。
「あ、普通にできた」
「ユウキ、自重してください……」
何故かクリスが呆れた顔をしている。
「あれ? 空間拡張って機能もつけれるな。ほいっと」
「こ、この業務用冷蔵庫って国宝級の魔道具では?」
「ユウキ、ステイ」
フランシスさんがおののき、ルルは何故か俺にステイを命じる。
俺はチートは目一杯使う派だからな。自重などしないのだ。
はっはっは!
出来上がった業務用冷蔵庫を開くと、とんでもないものが出来上がっていた。
「すげえ、瞬時に取り出したいものが出るようになってるし、中は冷たいけど、冷やさないようにもできるんだな」
「こ、これは……下手したらこの魔道具だけで賊や国に狙われますわ?」
珍しく、聖女エメリアからツッコミが入る。
セキュリティか。確かにそうだよな。
でも業務用冷蔵庫、めっちゃデカいから持ち出すのは不可能だと思うんだよね。
まあ後で考えよう。
次はメニュー決めだな。
ここはコメント欄に聞こう。
やっぱり和食じゃね? 日本人の心でしょ。
いや洋食だ。異世界であることを考慮すべき。
カレーとかもいいよな。定番でみんな大好き。
俺はルルにも聞いてみることにした。
「ルルは何食べたい?」
「インスタントラーメン」
インスタントラーメンを異世界配信レストランで出すのはなあ。
「あれは店で出すものじゃないんだよな」
「じゃあ店で出すラーメン作って」
うーん、これは保留だな。中華麺はママゾンで買えばいいけど、出汁とか臭み消しの野菜とかは異世界食材で代用したい。
「じゃあから揚げとかかつ丼はどうだ?」
「何じゃそれは? わらわは知らないぞ」
何故かカゲがぷんぷん怒ってる。
「いや、まだ皆に作ったことないから大丈夫」
「インスタントラーメンとやらも食べたことないのう」
あの~。カゲさん、尻尾でバンバン俺の太もも叩くのやめてもらえますか?
痛くはないんだけど罪悪感が凄い。
「じゃあから揚げを作るよ。かつ丼は今度作るから」
「それならいいのじゃ」
俺に顔を背けても尻尾が機嫌良さそうに揺れてるから感情はバレバレです。
ただ……この世界の鶏ってバジリスクしかいないのか?
『いないわけではないのですが、バルクの街では飼われていませんね』
お、久々のマリア様の神託だ。そうなんだ。当分は俺がママゾンで買うとしてバンズさんに仕入れるように言っておこう。
「私たちも手伝います」
「じゃあこの肉を一口大に切ってもらおうかな」
俺は調味料の醤油、酒、にんにくチューブ、ショウガチューブ、塩コショウを用意する。調理用のボウルに入れて、切った鶏肉を揉みこむ。
「この調理道具は便利です!」
他のメイドさんたちがキャッキャ言いながら揉みこんでいる。
「ユウキさんの使う調味料はやはりバルクの街では見たことのない物ばかりですね」
フランシスさんは分析しながら、作業をしている。
料理は手慣れた感じだ。メモを取っている人もいて、良い感じだ。
「全体が馴染んだら、このマヨネーズを入れて、さらに揉んでアイテム冷蔵庫で三十分放置する」
「マヨネーズ? ユウキさんの配信でも使われていませんでしたよね?」
「確かにな」
味見してもらうと皆、美味しい美味しいと騒ぎだす。
「それ食べすぎると太るよ?」
皆がバクバク食べようとするので魔法の言葉で止める。
「……」
何でルル達とフランシスさんがジト目を向けてくるんだよ。
料理用だから一本食べられても困るのだ。
てか、から揚げにマヨネーズって罪深いよね。
でも美味しいから入れるのだ。
カロリーは熱を通すとゼロカロリーになるんだ。
ここ、テストに出るぞ?
放置するのは、具材に調味料をなじませるためだと説明すると、フランシスさん達はメモを取っていた。
だが、アイテム冷蔵庫は時間加速機能もあるので、すぐに三十分後の鶏肉が出来上がる。
ボウルに片栗粉と薄力粉を混ぜ合わせ、漬け込んだ鶏肉にまぶす。
揚げ物用の鍋を用意し、かなり熱くなってから揚げ始める。
「三分くらい揚げたら、一度油から取り出して、油を切る」
「え? ここで終わりじゃないんですか?」
「これはコメントを見ると揚げ物、という料理なんですね。大量の油を使う料理は初めてです」
確かにこれでも充分美味しいけど、から揚げは二度揚げじゃないとな。
「俺の世界ではありふれた食べ物だよ」
油を先ほどよりも熱して、から揚げの二度揚げをして、衣がカリッとしたら出来上がりだ。
マヨネーズを隠し味に使うことで驚くほど柔らかくジューシーな仕上がりになるんだ。
うちの母ちゃんがやってたんだよ。ああ、もう会えないのは寂しいな。
「さあ、みんなで食べよう!」
「いただきます!」
ルル達が最初にから揚げを食べる。
「ん~! カリカリなのに、中の鶏肉がジューシーでたまらない!」
「わらわはユウキの料理で一番気に入ったぞ!」
「ユウキ、もっと作る」
「ユウキ、美味すぎる。これ、悪魔の食べ物」
「はあ~幸せな味ですわ! 天界の様子が見えてきましたわ」
クリス、カゲ、ルル、カレイナ、エメリアがそれぞれ絶賛する。
一人だけ天界に召されようとしてる奴いるけど大丈夫そう?
メイドたちは皆絶句してから揚げを食べていた。
「……」
「どうした? 口に合わなかった?」
「違います」
「?」
「今まで食べていた食事はままごとのようなものでした」
「?」
「これが食事なのです! やはり、ユウキ様のメイドになれてよかった!」
皆、ぽろぽろと泣き出す。うん、この世界の食事って香辛料がまず貴重だし、醤油とかのうま味もないから基本美味しくないんだよね。
しかも隠し味のマヨネーズがいい仕事してるから、めっちゃ美味いんだよね。
「これは売れます! 絶対このメニューにしましょう!」
「い、いや他にもメニューは作るよ?」
「そ、そんなこれ以上の料理が存在するなんて」
フランシスさんは何故か燃え尽きたような顔をしていた。
椅子に座って、灰色の背景を醸し出しながら。
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