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第六話

 あれから三ヶ月。


 オレは故郷のドカントリー村で実家の農家を手伝い、畑を耕していた。血湧き肉踊る冒険者も楽しかったが、こうした平穏な暮らしもこれはこれで悪くない。畑の傍らには、昔作ったシュバルツの墓もある。風雨に晒されていてそろそろ汚れてきたし、あとで磨いてあげないとな。


「おーいラセラ」


 イーヤサーサの声だ。実家の散髪屋を継いだあいつが、新聞を片手に走って近づいてくる。


「よう、イーヤサーサ。どうしたんだ、こんな朝から」


 まだ早朝と言える時間。だというのに彼は息を切らせてオレの家にまでやって来たのだ。そしてイーヤサーサは手に持ったものを突き出しながらこう言う。


「新聞を見たか。とうとう捕まったぞ、彼女」


 オレはイーヤサーサが持つ新聞をひったくるようにして掴み、そして広げた。一面の見出しには、こう書いてある。


『稀代の悪女、ついに捕縛される』


 その記事の内容は以下の通りだ。


『連続若年冒険者不審死の重要参考人として手配されていた回復術師セイエア(33歳女性)が、ついに捕縛された。近年続いていた若年冒険者の死亡事件は冒険者ブームの影の側面ととられる一方で、専門家の間では死体に共通した回復痕があることから人の仕業ではないかと囁かれていた。そして三ヶ月前、ある若い冒険者から有益な情報が憲兵所にもたらされた。この情報を元に冒険者ギルド、並びに王国が調査したところ、回復術師セイエアが関わっていると断定。ギルドは彼女をSランク捕縛対象と定め、手配書を発行した。そして先日、現役最強で現代の勇者との呼び声が高い勇者ワッショイが旅をしていたところ、三人の若い冒険者と共にいる回復術師セイエアを発見。彼女を咎めたところ、セイエアは回復術と鋭い短剣捌きで激しく抵抗を見せたが、激闘の末に勇者ワッショイが勝利をおさめ、セイエアを捕縛した。現在、セイエアは王城の牢屋で取り調べを受けており、容疑を認めている。なお、動機については「私はただ猫ちゃんを癒してあげただけ」などとわけのわからないことを供述した。現在までにわかっている被害者は以下の通り。


剣士ホイサ(18歳男性)、剣士ヨイサ(18歳男性)、斧戦士ヨサコイ(19歳男性)、槍戦士チョイナ(16歳男性)、剣士ハードッコイショ(17歳男性)、格闘家ズンドコ(18歳男性)、剣士エンヤコラ(19歳男性)、棍棒戦士ヨイヨイ(16歳男性)、棍棒戦士ハイハイ(16歳男性)、槍戦士ドッコイ(17歳男性)、槍戦士ギッチョン(18歳男性)、剣士ヨカッタヨカッタ(17歳男性)、格闘家アラヨッ(16歳男性)、…………』


 その後も、全部で100人はあろうかというおびただしい数の犠牲者の名がそこには載せられていた。

 もしあの時……彼女の誘いに乗って、旅を続けていたら。あるいは、オレが猫の品種を答えていたら。この被害者たちの中に、オレたち二人の名前も加えられていたに違いない。


 それにしても。


「33歳かぁ……」


 オレは記事を指でなぞりながら、ため息をついた。彼女の所作や実力、そしてあの回復痕からいって、もしやとは思ったが……予想以上だ。

 セイエアさんのクロちゃんとの思い出話は、16歳の時のことだと彼女は言っていた。彼女は18歳だと聞いていたので、てっきり2年前の話だと思っていたが……そうでは無かった。シュバルツの四肢の付け根の毛の抜け落ちは……そういうことだったのだ。


 オレはシュバルツの墓に目を向けた。そして言った。


「勇者ワッショイが……仇をとってくれたぞ」


 オレは目を閉じ、シュバルツと、100人の猫ちゃんに黙祷を捧げた。


『ニャーン』


 どこかで、懐かしい声が聞こえた気がした。

 オレはあわてて周囲を見渡す。


「どうしたんだ、ラセラ」

「いや……なんでもない」


 きっと気のせいだろう。


「なあ……イーヤサーサ」


 オレはしみじみと尋ねる。


「なんだい、ラセラ」


 髪型を気にしながら答えるイーヤサーサ。

 オレは今度のことをどう表したものかと考えあぐね、こう言った。


「化粧って……怖いな」


 イーヤサーサは最初目を丸め、そしてフッと笑いながら視線を落とした。


「ああ……そうだな」


 あれから、オレはスキンケアをしていない……



(完)


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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