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第五話

 セイエアさんの話が終わった。

 オレは彼女の話を聞いて……何も言えずにいた。どういう心境なのか、彼女は頬を紅潮させて、照れ臭そうにしている。


「なんだか照れてしまいますね。あの、こういう話を人にしたのは初めてで……。私、なにかおかしなこと言っていましたか?」


 おかしなこともなにも……オレは感じていた違和感を口にしようとしたその時だった。


「いや、全然そんなことはないですよ! ボクはセイエアさんのことが深く知れて良かったなぁ!」


 明るく声を挙げたのはイーヤサーサだ。こいつ、セイエアさんの話に何も気づかなかったのか? 


「おい、イーヤサーサ」

「きみもそう思うだろ、ラセラ!?」


 オレの言葉に被せるようにしてイーヤサーサは言う。それはただ同意を求める声の感じではなく……オレに調子を合わせろと言っているかのような圧力がこもっていた。


「あ、ああ。そうだな」


 オレはイーヤサーサに合わせた。するとセイエアさんはホッとした様子でこう言った。


「ああ良かった。ちょっと緊張したんです。変なことを言って嫌われてしまったら、どうしようって」


 そしてセイエアさんはポンと手を叩く。


「そうだっ。次はもっと遠くへ行ける依頼を受けませんか? 私、お二人とはもっと長くいたいですし、きっとラセラさんの品種も決めることができますよ」

「いや、それは……」


 オレが喋ろうとすると、やはりイーヤサーサが被せるようにして話し出す。


「いいえセイエアさん。残念だけどボクたちは、今回の依頼を最後に冒険者を引退するって決めていたんですよ。なあ、ラセラ?」

「えっ」


 そんな話は初耳だが、イーヤサーサの目は厳しくオレの目の奥を射抜く。


「あ、ああ。そうだったかな」


 オレはイーヤサーサに話を合わせて頷いた。


「いやぁ残念です! でもボクたちにやっぱり冒険者は荷が重くてですね! やはり田舎暮らしがボクたちには似合ってるって、二人で話してたんですよ!」


 ペラペラと出鱈目を述べたてるイーヤサーサ。流石にオレにもその意図は分かった。


「そ、そうそう。やっぱりモンスターと戦うなんて、本当はすごく怖いしな」


 オレも奴の話に乗っかると、セイエアさんは寂しそうな顔でつぶやいた。


「あら……そうなんですか。本当に残念です……。私、お二人とはもっと仲良くなれると思っていたのに」


「いやあ、勿体無いですけどね! 田舎の母にもうすぐ帰ると手紙を送ってしまったもので! もうギルドに今度の依頼の報告をして、帰り支度をしなくては! さあ、休憩はもう終わりにして、街に戻りましょう!」

「う、うんうん」


 そして……オレたちは街へと歩き出した。

 途中、オレはオレたちの後ろを歩くセイエアさんの方へ何度も振り返り様子を見たが、彼女はただ肩を落として浮かない顔をしているだけだった。

 オレは……緊張しながら、しかし警戒を緩めなかった。



 そして無事に街へと辿り着き、冒険者ギルドの建物が見えたところで、セイエアさんは足を止めた。

 彼女は言う。


「では、私はここで失礼しますね」

「あっはい」

「私、お二人のこと好きです。もし、お二人の気が変わって、また冒険者をするようなことがあったら……きっとまた私とパーティを組んでくださいね」


 そう言い残して……彼女、セイエアさんはオレたちの前から立ち去った。途中、何度かこちらを振り返り、名残惜しそうにしながら……オレたちは笑顔を作って手を振り、彼女を見送った。


 やがて……彼女は曲がり角の向こうへと姿を消す。

 そしてオレとイーヤサーサは顔を見合わせると……憲兵所へと走った!


 オレたちは憲兵所へ飛び込むと、そこに詰めていた憲兵のおじさんに、セイエアという人物のことを話した。すると最初は訝しんでいたおじさんの顔色はみるみると青くなる。そしてなにやら冒険者ギルドに連絡を取るよう部下に指示を飛ばし、オレたちはより詳しい話をするよう、引き止められることになった。


 その日はバタバタと騒がしい憲兵所の中で、オレとイーヤサーサは守られるようにしておじさんに今回のことを話した。



 そして……三ヶ月の時が過ぎた。

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